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狂暴な映画「窓ぎわのトットちゃん」雑感

12月×日
新宿ピカデリーで「窓ぎわのトットちゃん」(八鍬新之介監督)
原作は未読。

予告を見た段階では全然見る気にならなかったのだが、どうもスゴイらしい、という評判を聞いて見てみることに。
そして実際スゴイ映画だった。

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暗闇の中に赤い提灯がぼうっと一つ、また一つと浮かび上がる。
どこか不吉な印象のオープニング。

ぼくの父親(1930-2018)が戦時中の思い出について書いた手記みたいなものがあって、それをこのnoteに載せたことがある。

その手記はこんなふうに始まる。

最初の戦争の記憶は南京陥落の提灯行列である。蒲田での記憶。小学校では軍歌が流行っていた。

父の戦争の思い出は、基本的に太平洋戦争中の話で、その中でも戦況が悪化した昭和19年から昭和20年(1944年から1945年)が中心なのだが、一番最初のこの文章だけは太平洋戦争が始まる前の1937年。日中戦争での南京陥落の報を受けて行われた提灯行列についてのものだ。
当時7歳の少年の記憶に強く残ったものだったのだろう。

黒柳徹子は1933年生まれとのことで、ぼくの父親より3つ下、1937年には4歳。
まあ提灯行列はその後幾度も行われたらしいから、あのオープニングが南京陥落の提灯行列なのかはわからないが・・・。

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このアニメの絵柄がちょっと独特で、男の子や男の大人までまるで口紅や頬紅をさしているような絵は、昔の子供向けの本の挿絵などを参考にして考えられた、とのこと。
ぼくは子供向けの絵なんだな、と思うだけで特に違和感は感じなかったが、この絵柄に拒否反応を起こす人もいるらしい。
まあ、最近のアニメとはかなり趣が違うので「受け付けない」人もいるのだろう。
個人的にはこの映画を観た時に予告編をやっていたガンダムの新しい映画の絵柄の方がちょっと「受け付けない」感じだったが。

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トットちゃんが通うトモエ学園というちょっと風変わりな学校での日々と、その日々を次第に飲み込んでいく戦争、が描かれる。

予告編では、おそらく意識的に、戦争に関する部分はほとんど見せず、楽し気な学校での日々だけを見せていた。

トモエ学園の話も面白いところは色々あるのだが、この部分だけだと「スゴイ」とはならないかな。
冒頭からちらちらと見え隠れしていた戦争が、やがて日常を飲み込んでいく様が圧倒的。
2023年は「君たちはどう生きるか」や「ゴジラ-1.0」など、戦争を背景とする日本映画が多かった印象があるが、その中でも「窓ぎわのトットちゃん」は(戦争の描き方という点では)ちょっと群を抜いているように思う。

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トットちゃんはかなり裕福な家の子で、それがお話として効果的だった。
あまり裕福ではない庶民の戦時中の暮らし、というのは色々な映画やドラマや小説で幾度も描かれて、何かもうステレオタイプ、というか「物語の中のお話」みたいな感じでおさまりが良くなってしまっている気がする。
だから逆にトットちゃんの家のような裕福な家庭が、次第に戦争の波に飲み込まれていく様の方が、今見るとリアリティが感じられるように思う。

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この映画を観た人はほとんど皆、同じことを言うと思うが、
終盤の「トットちゃんが走るシーン」が素晴らしかった。

自分をとりまく美しかった世界が、いつの間にか何かグロテスクなものに変わってしまっていた、ということを、ほとんど狂暴といっても良いくらいのエネルギーで見せつけてくるこのシーンは、ちょっと呆然とするくらいスゴい。

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