見出し画像

映画「ドント・ウォーリー・ダーリン」

11月×日
新宿ピカデリーで「ドント・ウォーリー・ダーリン」(オリヴィア・ワイルド監督)
観終わってから知ったのだが「ブックスマート」と同じ監督だとか。
あれはなかなか楽しい映画だった。
今回は全くジャンルの違う映画だが、音楽の使い方はどっちも上手い(ちょっと見え透いたところもあるが)。

「アリスのハンサムな夫は、
毎朝彼のカッコイイ車で仕事に出かけ、
アリスは素敵な家を切り盛りしながらその合間に、近所の気の置けない友人たちとショッピングや習い事を楽しむ。
そんな夢のような理想の生活を送るアリスだったが、
少しずつその理想の生活に奇妙な亀裂が入り始める」

みたいな感じの導入部を見た段階で、というか予告編を見た段階で、ああ、これは洗脳/催眠などによる壮大な実験か、あるいは仮想現実か、まあその2択だろうな、と想像がつく(もちろん細かく言えばもっと色々考えられるが大雑把にいえばそんなところだろう)。

映画好きならそんな感じの設定の映画を何本か思い浮かべることができるはずだ。

まあ別に似たものがあっても面白く見せてくれるのなら全然かまわない。
で、この手の話なら見所としては、
① 現実と思われたものが揺らいでいく様をどれだけ魅力的に見せてくれるか
② その作られた世界は、誰が何の目的で作ったものなのか、それがどんなふうに暴かれるのか
③ 主人公はその世界から抜け出せるのか、抜け出せるのならどんなふうに抜け出すのか
そして抜け出した後どうなるのか、
といったところか。

さてそのあたりをどのくらい面白く見せてくれたのか、だが、
うーん、悪くはなかったけど、ちょっと不満有り。
① はまあまあ、
② についてはもうちょっと工夫がほしい、
③ はかなり期待外れ、

という感じだろうか。
あと、全体的にそれぞれのシーンは悪くないけどなかなか話が進んで行かなくてちょっと緊張が途切れそうになった。
そして何より長すぎる。
あと30分は切れる、というか切った方がピリッとするはず。

でもヒロインのアリスを演じたフローレンス・ピューが魅力的で、それなりに楽しく見ることができた。
フローレンス・ピューという女優さんは「ミッドサマー」で評判になったらしいがこの映画は未見。「わたしの若草物語」にも出ているらしく、これは観ているけどあまりこの人の印象は無い。なんとなく「ああ、出てたかも」という程度。
しかし今回は素晴らしかった。
夫役の役者は、最初はちょっと線が細いんじゃないかと思ったが、最後まで見るとなるほどこれはこれで有り。

それと、この映画の「理想の生活」というのが1950年代風のイメージなのだが、50年代というのはやっぱり面白いな。
様々な抑圧や差別を押さえつけた上に成り立つキラキラしたアメリカン・ユートピア。

「アメリカをもう一度グレイトに」と言っている人たちのイメージする「グレイトなアメリカ」っていうのはここらへんなのかな、と。

11月×日
昨日見た「ドント・ウォーリー・ダーリン」だが、あの「理想の世界」に入る前のヒロインとその恋人がちょっとだけ描かれるのだが、あれはなかなか、なんというかリアリティがあって良かったな。

11月×日
新宿ピカデリーで「ドント・ウォーリー・ダーリン」(2回目)
「色々不満はあるもののそれなりに楽しんで観れた映画」ということで終わらせても良いのだが(観たい映画は他にもいくらでもあるのだし)、なんとなく気になってもう一度観ることに。
2回目を観て感じたのは、これはすごく明快な話なんだな、ということ。
「隠された意味」とかを読み取りたくなるようなタイプの話で、ついそういうことを色々考えてしまったのだが、実はほとんど隠されていないハッキリした話だったのだな、と。
どんな話かと言うと、
「男の理想の世界」というのがあって、男はそれを女にも押し付けようとするのだが、私たち女はそれに対して「NO」と言いますよ、という話だ。
ぼくが「もうちょっと工夫がほしい」と思ったところも、作り手はそんなものは必要ない、と言うのかもしれない。
考えてみればこの監督の前作「ブックスマート」も、そんなに明快で良いの?と言いたくなるくらい明快なリベラル賛歌だった。
あの映画を観た時には、
「いやいや、でも現実にはもっとメンドクサイことが色々あるんじゃないですか」と言いたくなったのだが、その明快さが爽やかな感動につながっていたのも確か。
この「ドント・ウォーリー・ダーリン」も、同じように明快な話で、その明快さを良いと思うか悪いと思うかは人それぞれか。
ただ、そういう明快な話であるならば、
「でも君だってこれが幸せだろ?」という【男の気持ち悪さ】が、実に気持ち悪く描かれている、という一点だけでこの作品は成功していると言って良いと思う。
「理想の世界」から抜け出した後が描かれていないのも、抜け出す、ということに意味があるのであって、その後を描く必要はない、ということなのかもしれない。

ま、30分は長すぎる、という感想は変わらなかったけれども。

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?