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上手く言葉に出来ないが素晴らしかった映画「アンデス、ふたりぼっち」

9月×日
新宿ケイズシネマにて「アンデス、ふたりぼっち」(オスカル・カタコラ監督)
終映間近に観に行ったので、今ではもう都内では上映されていない。
京都、名古屋では上映中、横浜、川崎ではこれから上映するところがあるらしい。

ペルー映画を観るのは初めて。
しかもペルーでほとんどの人が話すスペイン語ではなく、先住民のアイマラ族が用いているアイマラ語の映画。
「ペルー映画史上初の全編アイマラ語長編映画」なんだとか。

舞台は標高5000メートル以上のアンデスの高地。
その高地で二人きりで暮らすアイマラ族の老夫婦。
登場人物はその二人だけ。
あとは犬とリャマと羊たち。

他の人間とは全く交流は無いらしい。
限界集落どころではない。
完全にふたりだけの生活。
老夫婦には息子がいたのだが、都会に出て行って戻ってこない。
「あの子はもう私たちのことを忘れてしまったのだろう」
そう言いながら二人は息子の帰りを待っている。

美しい、見るだけなら本当に美しい、そして暮らすなら本当に厳しいだろう絶景の山地。
おそらく長い年月ずっと同じように続けられてきただろう先住民の暮らし。
それを固定したカメラでじっくり描く。

(最近、ほとんどの映画ではカメラが登場人物に合わせてフラフラと動き回る。いかにも自然に動き回るのでカメラの動きをあまり意識させることはないが、こうして完全に固定カメラだけで撮られた映画を観るとやっぱり新鮮な感じがする)

最初のうちはただ先住民の生活を捉えたドキュメンタリーのように見えるが、やがていくつかの災難が老夫婦にふりかかり、二人は「いったい私たちが何をしたというのですか」と精霊に問いかける。
いつのまにか映画はドキュメンタリーというよりは、神話の中の物語のような雰囲気を漂わせ始める(とはいっても別になにかファンタジックなことが起こるわけでは全然ないのだが)。
もちろん精霊からの返事はない。
もちろん息子も戻ってこない。

美しく厳しいラストシーンを見ながら、これは間違いなく素晴らしい映画だと思ったものの、どう素晴らしいのか上手く言葉に出来ない。
何か石を飲み込んだような気持。
なにか大きな塊を・・・。

まあいいや。
なんでもかんでも言葉で言い表さなきゃいけない訳でもないだろう。

非常に惜しいのは、この映画を撮ったオスカル・カタコラ監督は、これが長編第一作目ということだが、第二作目の長編映画の撮影中に病死してしまったということ。
34歳。
次にどんな映画を撮ったのか、観てみたかった。

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