映画『地に堕ちた愛』
ジャック・リヴェット『地に堕ちた愛 完全版』(1984、フランス、176分)
原題:L'amour par terre
これまでにない映画を撮ろうという意気込みが感じられる点で、意欲作と言えるだろうか。
アパルトマン内が舞台となっている演劇から始まる。観客はそっと覗き見するように鑑賞する奇妙な形式だ。その戯曲を勝手に即興で変えてしまったシャルロットとエミリーの役者二人は、観に来ていた作者に呼び出される。
翌日、指定された邸宅へ赴くと、今度はそこを舞台にした新作に出演してくれないかと打診される。ただ、脚本は完成しておらず上演まで一週間しかない。ギャラのためと割り切り、住み込みで稽古に励む二人だったが、次第に現実と虚構の境目が不明瞭になり混乱してくる…。
ジャック・リヴェット監督のというより、いつものリヴェット組とでも呼びたい制作陣。
中心となるのは、主演のジェラルディン・チャップリン、ジェーン・バーキン二人。それぞれ一人芝居も用意されていて、特色を活かした演技も見もの。
脚本は4人もいる。
詰め込みすぎている感じはしないけれど、着想があまりに豊富で、謎があらゆるところに散りばめられる。そして回収するつもりもなさそうだ。
そういうこともあり、分かりやすい解決がある物語ではないし、謎解きが主眼でもない。
何より、映画内演劇というメタ構造になっているのが最大の特徴。
台本は過去に起きたことをそっくりそのまま書き表していると判明するし、当事者たちの変化し続ける人間関係がこれから書かれる結末にも影響を及ぼすようになっていく。
つまり、現実と虚構がお互いに侵食し合う構図。
リハーサルの場面も多く、演じる、演技を中断して素に戻る、の繰り返しで「演じるとは何か?」まで深く切り込んでいる。
撮影はウィリアム・ルブシャンスキーに、カロリーヌ・シャンプティエという豪華な布陣。
時に思い切った動きをつける場面もあるが、構図や色彩に陰影と安定しており集中できる。
開かずの部屋から漏れ聞こえる様々な音(動物たちの鳴き声、海の波音、オーケストラのチューニング?)、予兆なのか時折見せる自分自身の幻影、動機の捉えられない陰謀。不可思議、奇怪、企み。
結局のところ、優雅な人たちによる諧謔といった趣。
クセがあるのは間違いないので、観る人を選ぶであろう作品だとは思う。
私はリヴェットの魔術的手腕を信頼している一ファンなので、屋敷内演劇に『セリーヌとジュリーは舟でゆく』(1974)を思い起こし、そもそもよく見つけたなと思えるその邸宅は『メリー・ゴー・ラウンド』(1981)に出てきたものと似てるなとか、女優たちが演技の枠を越えてしまうぐらいの生命力を躍動させる点などに、どうしようもなくリヴェットだよなぁ、と感じられて悦んでいた。
「ジャック・リヴェット傑作選 2024」として、ただいま劇場公開中。この機会に、あと『彼女たちの舞台』を観る予定。都内だとヒューマントラストシネマ渋谷でかかっています。
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