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映画『ゴールデン・エイティーズ』

シャンタル・アケルマン『ゴールデン・エイティーズ』(1986、ベルギー・フランス・スイス、96分)
原題: Golden Eighties



ミュージカルの技法で、複数の恋愛劇を色とりどりに観せていく。
意中の人は必ず別の誰かが好きで…と決して双方向にはならない関係性が王道であり、それゆえ物語を面白くもさせる。
熱量も高く、楽しく鑑賞することができた。


パリで洋服店を営む夫婦の一人息子ロベールは、お店の手伝いをしながら、真向かいにある美容院の雇われ店長リリに夢中だった。
しかしリリは、オーナーでもある既婚者と愛人関係にある。
そこに勤める美容師の一人マドは、ロベールの気持ちを知りながらも彼への恋慕を隠せない。
マドの親友パスカルは、以前ロベールと付き合っていたこともあり親切心から忠告するが…


この入れ違う人間関係を一つの軸にしつつ、周りの恋愛も平等に描かれており、重層的になっている。
遠くカナダから届く恋人の手紙を愛おしそうに読み上げ(歌い上げ)るカフェの店長。
そして何より、夫と共に洋服店を切り盛りする妻ジャンヌの、かつて愛し合った人との何十年ぶりかの再会。

誰が主人公とは特定できないような並列性を見せる今作の中でも、一種の重しとなって説得力を持たせているのは名優デルフィーヌ・セイリグ扮するこのジャンヌだろう。
彼女のこれまでの来し方、生き方を照らすことで、最後にマドへ優しく教え諭すような言葉がやたらに響いてくる。

執拗に恋だの愛だのにこだわっているようでいて、同時にかなり醒めた目線も感じさせる。
「男って自分勝手だなぁ」と僕も思うし、少なくとも恋と結婚は相容れないものだな、とこの歳(43)になって改めて思う。
誰かを好きになる気持ちだけは絶対に止めることはできない、と近年自分も悟ったし受け入れることを認めたけど、それを社会的にどのようなカタチで成就させるのか、との間にはかなりの距離がある、ともやっと理解できた。遅すぎたけどね。


すぐにセットだと分かる作りも、もしかしたらミュージカル黄金期に倣ってのことなのかもしれない。
狂言回しのように頻繁に出てくる男4人のヴォーカル・グループにも、オマージュが読み取れそうだ。

やけにエキストラの通行人も多く、カメラは雑踏を掻き分けていく。
また、スタイリストも多い美容院は賑やか。
矢継ぎ早に重ねていく台詞、おどけたような振り付け、意図的なカメラ目線も多用される。

とにかく女性たちが前面に出てくる。そこが素晴らしい。
鮮やかな髪型と色使いも楽しい衣装で、華やかで麗しく、ときに艶やか。



アケルマン監督といえば、それこそデルフィーヌ・セイリグ主演の『ジャンヌ・ディエルマン』(1975)が今は映画マニアには知られているだろうけど、この贅沢な群像劇もなかなかに心躍らせるものだった。




「シャンタル・アケルマン映画祭2023」の一環として公開。これも気になっていたけど一つも行けなかったなぁ。もう公式サイトは残っていないのでテアトルシネマのページから…



おまけ:
「シャンタル・アケルマン映画祭」は2022年の開催が好評だったので、それに続いてだったのでしょうね。
その第1回での5本は全て観て、感想を書いていました。参考までに。


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