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映画『凱里ブルース』

ビー・ガン『凱里ブルース』(2015、中国、110分)
原題:路辺野餐/KAILI BLUES




少し捉えづらい作品かな?
とにかく時間の流れ方が独特。
ややこしい筋書きではないので、主人公に付き添うつもりで共に彷徨すればよいのだろう。


親分に代わって復讐した罪で9年務め出所した主人公チェンは、町の小さな診療所で手伝いをしていた。
異父兄弟とはそりが合わないものの、甥っ子のウェイウェイに対してはよく面倒を見ていた。
服役中に手紙を送り続けてくれた妻は、昨年病死していたことを知らされる。
そんな中、ほぼ育児放棄されているウェイウェイは遠くに送られてしまう。
引き取るべく、チェンは列車で向かう…。


記憶なのか、うつらうつらとした夢なのか、妄想なのか。判然とはしない。
詩の引用なのか、緩やかな映像に独白のように重ねられる。
ゆったりとしたテンポが特徴的なので、このリズム感についていければ入り込めるはず。


霧、湯気、雨、泥、川、水たまりと、とにかく湿っている。
山間や里山、トンネル型通路を切り取る撮影は光の加減も美しく、構図も良い。

それだけに、途中の長回し(40分に渡るらしい)は瑕疵も見つかるなと思う。
バイクや車、舟での移動、バンドの生演奏も含むので、演者たちに重圧をかけてまで一息に撮る意図がよく理解できなかった。
無理せず編集で繋げればいいのでは。
何より、明らかにカメラ機材を持ち替えていて、画面がグラグラ揺れる。
観ている側に撮影者の存在を感じさせてしまうのは明らかに改善点。

ただ、何かしら新しい試みに挑戦する意欲はもちろん買いたい。
一つのミスも許されないであろう中で、多くの動きと台詞を演じ切ったヤンヤン役の俳優も見事。



「時計」と「列車」がそれぞれ形を変え反復され映し出される。
前者は時間軸の交錯、つまり直線的な過去/現在/未来の解体を示唆しているのかもしれない。
人間の中で、時間は必ずしも一定で順序通りに流れているわけではない。
一方で後者においては、部屋のすぐ隣で上下逆さまに過ぎ去る列車という不思議な描写があり、映画にしかできない魔術だった。
最後その二つが合わさり、すれ違う車両に浮かび上がる逆回りの時計は、ぜひ目を凝らして見てみてほしい。



全体にぼんやりとして消化不良の部分もあれど、あとで調べたら監督の長編デビュー作で当時26歳だったとのこと。
ちょっと厳しめに書いてしまったが、まず他からは出てこないであろう個性は確実に表出している。
この先に大傑作を作り上げる可能性がある大器だと思う。



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