私が考えるデジタル教科書の普及政策。発電送電分離・SIMロック解除が有効?
新年度が始まりました。
GIGAスクールの環境整備も全国でほぼ終わり、まさにここからが本当の意味でのGIGAスクール元年という感じですね。
前回は自社が提供するまなびポケットで提供するCBTについて、【出血サービス】無償で学校向け学力テストのCBT版やりますなんて記事を書いて、「出血サービスなんてパチンコ屋の広告みたい」なんてコメントもいただきましたが(笑)、出血サービスならぬ出欠サービスも4月1日からリリースしています。
保護者の出欠連絡をデジタル化するサービスです。
GIGAスクールの環境が日常化するかの成否は持ち帰り学習がうまくいくかなのだと感じており(持ち帰り実施は前提で)、そのためには保護者の理解が必須です。
そんななかで保護者とのやりとりが電子化されていないのでは説得力がないだろ、ということで、まずは一番ニーズの高い出欠連絡を、出血サービスで無償提供(しつこい)しました。是非ご利用いただけたらと。
デジタル教科書の議論が活発化
GIGAスクールの環境整備が3月末でほぼ完了し、議論のテーマが利活用にシフトされつつあります。その中で、学習時の活用で想定されるデジタル教科書の議論がメディア上で活発化しつつあります。
導入に向けて準備を促す記事や、批判的な記事もあります。
これらの議論の発端は、文科省の「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議」の中間まとめの発表でしょうか。
中間まとめでは、制度の概要、導入の意義、必要な取り組みなどがまとまっています。
今回はこの中間まとめの必要な取り組みでは触れられていない観点、私になりの普及方策について書いてみます。
各所から批判も出そうな内容ですが、生暖かい気持ちでお読みいただけたらと。
デジタル教科書は格差なく全員が利用できるべき
まずは大前提。
デジタル教科書が教科書であるならば、自治体や学校の格差なく、全ての児童生徒が利用できるようにすることが前提だと考えています。
その趣旨は、以下の教科書無償給与制度の最初に書かれています。
義務教育教科書無償給与制度は、憲法第26条に掲げる義務教育無償の精神をより広く実現するものとして、我が国の将来を担う児童生徒に対し、国民全体の期待を込めて、その負担によって実施されています。
教科書無償は、義務教育無償という理念の下に広く世界中で行われていますが、殊に我が国においては、教科書の役割の重要性から、その使用義務が法律で定められており、就学義務と密接な関わりのあるものとして、授業料の不徴収に準じて教科書を無償給与すべきことと考えられます。
また、この制度は、次代を担う児童生徒の国民的自覚を深め、我が国の繁栄と福祉に貢献してほしいという国民全体の願いを込めて行われているものであり、同時に教育費の保護者負担を軽減するという効果を持っています。
そのため、紙の教科書は全額国費で賄われています。
一方で、現行のデジタル教科書はどうなっているか。
平成30年6月1日公布・平成31年4月1日に施行された「学校教育法等の一部改正」により、デジタル教科書が紙教科書の代替利用が認められるようになり、法令上も「教科書」と言えるようになりました。
小学校、中学校、高等学校等において、検定済教科書の内容を電磁的に記録した「デジタル教科書」がある場合には、教育課程の一部において、教科書の使用義務に関わらず、通常の紙の教科書に代えて「デジタル教科書」を使用できることとする。
ここで「教育課程の一部において」をガイドライン上では「授業時間の2分の1以下」としていたことから諸々意見もあり、撤廃になっていった経緯もあります。
私はこの「2分の1話」より、デジタルが紙同様に「教科書」として利用できる定義になったにも関わらず、紙は国費で、デジタル教科書は自治体・学校が費用負担をするものとなっていることが問題だと感じています。
これはつまり、自治体・学校の考えや財政状態などによって、教科書のデジタル版の受益を、享受できたりできなかったりしてしまうのです。
それって前述した義務教育教科書無償給与制度の「憲法第26条に掲げる義務教育無償の精神をより広く実現するもの」と矛盾していないでしょうか。
普及方策。デジタル教科書の制作と配信の分離。
前置き長くなりましたが、広くあまねくデジタル教科書を普及させるには、コストの低減と広く利用できる環境が必要不可欠です。
それを実現させる方策として、私なりに考えたのは「デジタル教科書の制作と配信の分離」です。
全く別分野ですが、着想の近い例としては電力の自由化政策、発電と送電の分離やスマートフォンのSIMロック解除などでしょうか。
発電・送電の分離は、従来と比較し発電事業が規模の経済が利き辛くなったこと・ICTによって分散発電を有効活用しやすくなったことから、電力事業への新規参入の障壁なっていた送電事業(インフラコストが極めて高く公共性も高い)を分離し、発電事業への新規参入をしやすくし、競争によって国民が電力を安く・便利に利用できるようにする政策という理解です。
(専門ではないので間違っていたらご指摘を)
SIMロック解除は、国から電波利用の許諾を受けている携帯電話事業者が、携帯電話(スマホ)本体と通信のセット売りとなるよう、自社の通信サービスとセットでないと通信できない機能制限(SIMロック)をしていたことを規制することで、競争によって安価で便利な携帯電話と通信サービスを個別に選べるようにする政策という理解です。
(ドコモの子会社になったNTT Comに所属する自分が解説するな、ですが、、)
翻ってデジタル教科書に戻ると
・教科書出版社のみ行えるコンテンツそのものの制作
・制作されたコンテンツの配信
を分離してみてはどうか、という提案です。
電波利用者や送電網保有者のように固有の事業者にしか行えない仕事と、発電やスマホ開発など多くの事業者が行え競争可能な仕事を分離し、競争によって利便性の向上と費用の削減を促す方策です。
現行では、紙の教科書の商習慣が踏襲され、教科書出版社が制作と配信の両方を担っています。
紙の配送もデジタルの配信も、教科書会社から委託された会社がやっているのでは、というツッコミがきそうですが、あくまで教科書会社の委託でやっていることが重要なポイントです。SIMロック解除だって、ドコモが富士通製のスマホを売っていたので、事業としては分離していないのです。
方策の具体像
法制度の変更が必要な内容も含まれているので、課題山積なのは理解したうえでの提案です。生暖かめでご承知おきいただけたらと。
・従来通り文部科学省と教科書会社は紙教科書の購入契約を締結
・購入契約と同時に、文部科学省と教科書会社でデジタル配信に伴う著作権者への権利料を支払い
・上記契約に基づき教科書会社は教科書コンテンツのデジタルデータを提供
・文部科学省はデジタル教科書配信事業者を一定のガイドラインに基づき認証(SLAやセキュリティ要件、学習データの提供などが定められる想定)
・教育委員会や学校は各配信事業者の中から安価で利便性の高い事業者を選定し契約
・(できれば)文部科学省から配信システム利用料の何らかの補助
この方策の利点は、配信部分が競争になり、教育委員会や学校にとって利便性向上やコスト軽減になることは勿論のこと、教科書会社に依存せず統一した使い勝手になることも利点です。
また、配信部分を新規参入できつつも許認可制にすることで、一定の品質を担保することに加え、統一仕様での学習データの蓄積に繋げていくことが可能になると想定しています。
勿論、このスキームになっても教科書会社自身が配信することを阻害するものではないので(電力自由化しても電力会社が電気の提供をしていたり/SIMロック解除になっても通信会社が端末を売っているように)、そこはコンテンツを作る能力が高い事業者の真骨頂もあるのでは、と思っています。
紙とデジタルの併用。学習者と先生に選択肢を。
教科書は紙とデジタルが当面は併用されることになっています。
健康面の弊害への懸念など、議論が諸々出ていますが、併用が決まっているのであれば、私はどちらも利用できる選択肢を学習者と先生に与えるべき、だと考えています。
障害を抱える子にとってはデジタル化によるアシストは無くてはならないものでしょうし、PCの持ち帰りが前提となるなかで、家庭学習のために教科書を持ち返るのが重くて苦労している子供もいるのだと思っています。
一方で、それを実現すると2重コストになるはずなので、デジタル分のコストを最小化しないといけません。
上記の記事でも以下の記載がありますが
教科書会社がデータ化して1冊分を800~1500円程度で提供している。
今の学習者デジタル教科書は、総じて紙の教科書より高価になっています。今のままで紙とデジタルの併用となると、2倍では済まないコストが必要とう結論になり、結果としてデジタル教科書の全国的な普及が経済的な理由進まなくなるのでは、と。なのでこの方策を考え、記載してみました。
また、GIGAスクールの先にあるもう1つの目的は、学びデータを利活用していく社会を目指すことのはずです。
以下の記事で「思っていたより遠い」ともありましたが、教育データの利活用にはデータの標準化が必要で、そのためには市場全体でルールを設けて運用していくことが求められます。
※教育データの利活用に向けた課題がかなり分かりやすく解説されている記事です。その辺に興味がある方にはおススメの記事です。
何をキーストーンにして市場全体にルールを普及させるか、そこを苦慮して文部科学省では「学びの保障オンライン学習システム(MEXCBT)」をトリガに進めようとしてくれているのだと思います。
CBTが総括的評価のキーストーンであるならば、日常利用のキーストーンは何だかんだ言っても教科書だと私は思っています。
教科書について、色々と批判的に言う方もいますが、私は現在も相当優れたコンテンツの1つだと感じています。それは教科書会社の皆さんやその素材となる著作が優れているに他ならないはずです。
その優れたコンテンツが、地域や学校の事情によってデジタルだと提供されない、という事態は「義務教育無償の精神をより広く実現」という観点では、見て見ぬふりはできないもののはずです。
なんとかデジタル教科書は広く・あまねく普及する状況を作る必要があり、精一杯知恵を絞らねばと思っています。
おわりに。マイナンバーの話書けていないな。
今回は法令・制度に関わる部分も多く、なかなか読みづらい話ですみませんでした...。
個人的には、この方策が今後の日本の教育政策の肝になる可能性もあると思い、批判も出そうな内容ですが思い切って書いてみました。
忌憚なくご意見もいただけたらと思います。
ちょうどデジタル教科書についてはパブコメも出ていますので、皆さんも気になる部分は投稿してみてはどうでしょうか。
パブリックコメントは行政府側の義務であるとともに、我々としては意見を公式に言えるチャンス=権利でもあるので、活用していくことで政策・制度に国民が参画することにもなると思っています(優等生発言)。
あとは年始から言っていたマイナンバーの話、結局書き途中で放置しているので、折角なので書き上げねばです。
今度は少し間を置かず投稿できるようにしたいと思います。ではまたー。
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