「不登校予測」の気持ち悪さと大事さ(前編)
毎週のつもりが1週空いてしまいました。毎週は難しいかもですが、無理ない範囲で情報発信を続けていきたいと思います。
今回は、教育データの利活用という話のなかで目にすることが多い「不登校予測」について、率直な考えを書いてみます。
色んな角度でツッコミ(お叱り?)が入りそうなことを書いちゃう気がしますが、異論・反論・意見などなど、いただけると嬉しいです。
社会問題となっている不登校の増加
最初に、もう皆さん知っているので書く必要ない気もしますが、不登校の急激な増加について。以下の図の通り、近年大幅に増加しています。
2022年時点で約30万人。ここ5年で2倍以上。
社会問題であることは確かですが、誰のどんな問題なのか、は分解しないとモヤる感じはします。上記の文部科学省の調査では、4割が学校内外での相談ができていないとのことで、この辺りを重大な問題でどうにかせねば、と思ったりしています。
上記もあって、ほぼすべての教育行政にとって「不登校を減らす」は命題になっているように見えます。
そのため、不登校を減らすため施策として、EBPM(証拠に基づく政策立案)が望まれる昨今では、教育データを用いた「不登校予測」が求められる状況になっています。
「不登校予測」のモヤモヤ
そういう社会背景がある一方、X(旧Twitter)で「不登校予測」というキーワードで感情分析すると、肯定と否定が半々ぐらいの状況。
肯定的な意見としては、予測によって早期対応ができること。
一方で、否定の意見も結構多く、色んな意見が出ています。
自分も直感的にはモヤモヤする面もあり、それを言語化してみたいと思います。
①プライバシー問題
1つ目はプライバシーの問題。
不登校予測となると、児童生徒の出欠席や心身の健康観察などに関わるアンケートなど、機微な情報を扱うことになります。この辺の取り扱いはどうなのか、などなど。
「健康観察って児童生徒の教職員が内心を知ることに繋がらないのか」みたいな声も聞きます。
中央教育審議会答申(2018.1.17)「子どもの心身の健康を守り、安全・安 心を確保するために学校全体の取組を進めるための方策について」を踏まえ、2019年4月1日に施行された学校保健安全法で新たに位置づけられていて、心身の健康観察自体は法的根拠があると言えそうです。
当然、データとして取得して活用するからには、利用目的を提示し、適切な安全管理措置を行い、必要最小限の取り扱いにしていくことがなどが前提となってきます。
この辺りは文部科学省がまとめている「教育データの利活用に係る留意事項について」などを見ておくと良さそうです。
②ちゃんと予測できんのか問題
2つ目はちゃんと予測できんのか問題。
先行で同様の実証を行っている埼玉県戸田市では「9割の学校が信頼性高いと評価」という話も出ています。
上記について、1次情報まで辿って具象の情報を見てみると
という報告になっています。
過去の欠席の状況が予測の材料になる、というある意味で当たり前のことを言っていると思える面もあります。
が、それはそれで検証の結果として意義があるように思えますし、日々忙しい先生にとっては欠席状況の要約でも一定の価値があるとも言えます。
例えばAI使ったものではないですが、香川県丸亀市の以下の取り組みも、戸田市が共有してくれた内容を踏まえると意味ありそうな気がします。
欠席のパターンを要約して対象の児童生徒をピックアップしているだけ、とも言えますが、これらを要約しピックするのは価値がある、ということかも。また、担任以外の学年団や専科の先生やにとっては、普段の見取りきれていない子どもの情報が要約されて共有されることで、チームでの対応ができやすくなりそうです。
いやはやほんと、こういうの見ているとAI分析以前からの営みなので、先生の勘と経験ってやべーな、とこういう面でも思っちゃったりします。やっぱデータ分析は、まずは勘と経験を教師データにしてやっていくで正解だな、とか。
戸田市の報告書では「質や量の観点 でデータを充実させながら、より分析の精度が高くなるよう」「プッシュ型支援への活用という実用に耐え得るためには、分析精度を更に高めていく必要があるとの結論」とあるので、これからさらに更新されて精度も上がり、新たな発見があるのかもしれません。
(追記)
あ、戸田市の報告書の最新版(2024.3)があったのを見落としていました。ごめんなさい、こちらです。
P20以降の部分で精度向上に向けた取り組みも詳細が記載されています。
その他も参考になること多数だと思いますので、是非1次情報の報告書をご覧になることをおススメしますー
いずれにしろ、まだまだ発展途上の状況であることは事実で、さらに学習・検証していかないといけない段階なのだとは思います。
③統計的差別とかに繋がらないか問題
3つ目は統計的差別とかに繋がらないか問題。
統計的差別って聞きなれないかもですが、簡単に言うとデータの分析によって「統計的には確率が高い」と思われる理論で、対象の個人そのものではなく、属性で判断してしまうこと。
分かりやすい例では、企業の採用において、性別や学歴とかを材料に判断することなんかでしょうか。
この統計的差別がヤバいと個人的に思うところは、以下のあたり。
統計的には一定確率で合理性があるため、一定確率で成果が出る。結果、個々人で見れば該当しないような判断(悪くいえばレッテル)も、是認されやすいし、その仕組みが強化・継続されてしまう。
OECDが示したプライバシー宣言書(原文はこちら)の8原則の1つ「データ品質の原則」も、これらの事態を極力避けるために規定されたものですが、あまり日本ではケアできていないように見えます。
上記は「データは使用目的に関連している必要があり、それらの目的に必要な範囲で、正確、完全、かつ最新の状態に保たれている必要がある」という規定です。
利用目的との整合や同意は議論されますが、関連性確認や情報更新みたいなことが論点になっている例が少ないように感じています。
前述した戸田市の事例は、「AI予測」という点での新しさで広まった感がありますが、より他の自治体・教育機関にとって参考になるのは「教育データの利活用に関するガイドライン」なんじゃないかと思っています。
例えば上記の関連性や完全性に関わる点で、以下のような記載があります。
ビッグデータによる分析って新たな観点や価値の発見に繋がる一方で、新しい差別を産み出す、ということも頭に入れて考えねばならないのだと思っています。
④そもそも不登校って問題なのか問題
最後の4つ目がそもそも不登校って問題なのか問題。
問題なのか問題ってなんだよって感じですが、これまでの不登校ではなかった子も、ただただ心を押し殺して我慢していただけなんじゃないか、話です。
2017年に教育機会確保法が施行され
学校に戻すことがゴールじゃないって報道されたり
どこぞ市長が「フリースクールは国家の根幹を崩してしまうことになりかねない」と言ったり
それに対して文部科学省が「「学校に戻ることを前提としない」は誤解」と通知していると報道されたり
と、この辺りについては世の反応も大きい感じです。
(ちなみに文科省の通知文の原文読むと「誤解だー」ではなく「そんな単純じゃねーし、学校の役割や学校現場・行政の仕事を甘く見んな」って言っているように見える)
が、裏を返すと多様な子どもの在り方に寄りそう仕組みになりつつある、とも言え、「自分らしく学べる」環境に近づいているようには見えています。
不登校数の増加という現れは悪く見えるものですが、学校以外の選択ができやすくなってきた一面もあるのでは、とか思ったりも(不登校の当事者で悩んでいる児童生徒や保護者のことを思うと、ポジティブとはとても書けないですが、、)。
この辺りの不登校=悪いもの、みたいな風潮が個人的にモヤモヤしている一番なのかも、です。
一旦ここまで、後編につづく
かなり長くなってしまったので、一旦はここまでとし、後編に続かせてください。
前編はモヤモヤだけ書くことになってしまいましたが、後編では「不登校予測」の大事さを書いてみたいと思います。
次回は必ず週次で書きます!
ではまた!
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