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【短編小説】感情を食べる怪物

昔々あるところに山田直人と名乗る商人がいたそうな。

直人は名門近江商人だったが、ある年、大きな嵐に襲われたそうな。

直人「そんな!商品全部ダメやん!街の被害はヒドイ有様やし全部売れへん!」

直人は近江商人にありがちな拙い関西弁を使いこなしていたそうな。

それでも--

直人「っしゃ!声出して行こう!!」

手を叩いて健気に働いていたそうな。

えびた「直人!大丈夫かい?」

そこへ親友のえびたが現れたそうな。

直人「おう、えびた!うちは全然売れへんで!」

えびた「そうか!なんかあったら俺に言えよ、直人!」

直人「おう!ありがとう、えびた!俺と結婚してくれ!」

えびた「なにいうとんねん!」

えびたは男らしい好青年で、いつも直人を助けてくれるのだったそうな。
直人は、えびたに励まされると心が暖かくなり、元気が出るのを感じていたそうな。また、えびたも直人と話すと不思議と元気が出るのであったそうな。


*  *  *

次の週。警備として働くえびたはいつものように出店の見回りをしていた。

えびた「うーん。やっぱりどのお店も売れ行きが悪いな」

えびたは、見回りをしながら街の様子を見ていた。当然状況は悪くなる一方だ。街を結ぶ橋が陥落したおかげで物資が不足していた。頼みの農作物も大雨でダメになってしまっていた。状況はよくない。物の不足から盗みが至る所で起きている。当然えびたの仕事が増え、疲れていた。

えびた「一体どうすれば、、そうだ!直人に相談しよう!」

直人は名門せいのしん一族の商人だった。彼の一族は、嵐や飢饉を何度も経験し、それを乗り越えてきた。そんな一族の末裔である直人ならこの状況を打開する方法を知っているかもしれない。

そうと決まれば、えびたの動きは早かった。えびたも喉が乾き、お腹がすき、仕事で疲弊していた。なにより、街にいる人たちの暗い顔を一刻も早く晴らしてあげたかった。

えびたが街中を走っていると、視界の端に『山田商店』の看板がみえた。相変わらず伝統ある豪華な装飾がされてある。

えびたは嬉しくなり、店内に駆け込んだ!

えびた「直人!すまんお願いがあるんだけ、、……え?」

えびたは驚いた。目に入ってきたのは黒い塊だ。ハエがたかっている。明らかに生きてはいないだろう。黒の塊が着ている服は直人の物だった。

えびた「なおと…………?なおとおおーーーー!!!」

えびたは泣き崩れた。一夜明けても泣き声が止むことはなかった。


*  *  *

???「ここは…………どこや?」

暗闇の中、遠くから声が聞こえる。泣き叫んでいるようだ。心なしか親友に呼ばれている気がした。

直人「俺は死んだんか?」

「よう」

側から突然声が聞こえた。

直人「うわ、びっくりした!なんやねんこんな時間に!」

「なんやねんとはなんじゃ。わしは神じゃぞ」

直人「神さま…………?そうか俺は死んだんか…………」

神?「まあそう落ち込むな。君はよく生きた。胸を張っていいんじゃ」

直人「いや、俺はドカンと稼いで女遊びをする夢があったんや。こんなんじゃ死んでも死にきれんで」

神「それは来来来世でやってくれんか」

直人「来来来世なら、もう美里さんとは会えんのか」

神「悲観するでない。そんな失恋中の君にお願いがあるんじゃ」

直人「ほう。聞こうやないか」

神「人間は実に悲しい生き物じゃないか。飢饉が起きれば自分だけ助かろうとし、嵐で物資がなくなれば他人から強奪する。じゃが、そうではない生き方をしているものがおった。名は確か直人とえびたと言ったかのう。わしはそんな彼らに期待しておったが片割れがぽっくり死におった。そこで君にチャンスをやろう」

直人「なんのチャンスですか?」

神「この世界を変えてくれ直人。奪い奪われる、そんな人間のあり方を変えてきてくれないかのう?」

直人「ほう。そんなん簡単やん」

神「ほっほっほ。威勢がいいわい。そなたの死に様、楽しみに観ているぞ」


直人「俺がお前らに、新しい時代をみせてやるよ…………!」

つづく!


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