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感想記:動物化するポストモダン①

わざわざ日本語版と英語版の両方を購入して本格的に読み込んでいくのだから、しっかり自分の考えもここにまとめておいたほうが、知識も定着すると思うので、積極的に感想を綴る。

今回購入した「動物化するポストモダン:オタクから見た日本社会」は2001年初版の結構古い本であるが、俺が興味のあるメディア・カルチャー系の書籍には必ずと言ってよいほど、参考文献として出てくる。よほどの名著なのだろうと思ったので、勢いよく日本語版と英語版の両方を購入した。(英語版の前書きで書かれていたが、どうやら韓国語とフランス語にも翻訳されているらしい。)

今回は、英語版の第一章まで読んだので、そこまでの記録を書く。これからどういった順番で読み進めていくかの明確の予定はない。

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今回読んだ章は、日本のオタクがどういったルーツを持つのか、が焦点に置かれていた。オタク文化とは、おおよそ1980年代に誕生したものであるが、その土壌となったものは、さらに歴史が古い。

古いと言っても、江戸時代とかそこまでさかのぼらない。マンガの起源は鳥獣戯画が作られた時代にまで遡るらしいが、オタクに関しては1945年が起源となる。第二次世界大戦終結後、アメリカの占領下にあった日本はアメリカからかなりの文化を吸収することとなる。そこで注目すべきは、アニメ(ディズニー)とSF(サイエンスフィクション)である。

ここで簡単なオタクの組み分けを説明しておく。筆者によると、オタクは時代区分に合わせて3つの種類に分けられる。最初期のオタクはいわゆるロボット系アニメ(ガンダムとか宇宙戦艦ヤマト)に心惹かれた1960-70年代のオタクたち。次に1980年代のオタク(ここはアニメ産業成熟期らしい)。第三世代として、10代20代の頃に「新世紀エヴァンゲリオン」を観たオタクたちを指すらしい。(個人的に我々の世代は第四世代としてかなりの集団を形成していると思われる)

ここで、もう一度アメリカの影響を考えてみる。確かに、アメリカがもたらしたアニメ、SFはまさしく第一世代のロボット系アニメに通づるものがある。他の世代のアニメにしても、主人公が空を飛んだり、人以外の動物がしゃべったりするのはSF特有の文化である。

つまり、アニメとはその媒体も、コンテンツとしての特徴もアメリカを起源とすることができる。

しかしながら、現在にも言えることながら、オタク文化といえば日本特有の文化という印象がある。それには日本の文化史に関連した問題が内在している。

オタク文化が現れ始めた1960-70年代頃、日本はまさしく戦後からの完全脱却を果たそうとしていた。高度経済成長によって「もはや戦後ではない」と言わしめるほどの経済力を日本は持っていた。ここでようやく、日本はアメリカから敗北したトラウマから抜け出すことができたと言える。それまでは常にアメリカに依存する敗北者日本という自意識が、常に日本人の中にはあった。(これに関しては、英語専攻としてかなり学んだことが多い。いずれ二近も学習するんだろうなぁ)

高度経済成長期、ついに脱アメリカ化を果たした日本は同時期に現れたオタク文化を称揚するようになる。日本こそが世界をリードする先進国である、という自意識が、オタク文化の起源を無視し、単純に先進国日本から生まれたアヴァンギャルドな(前衛的)文化というアイデンティティをオタク文化に付与することとなったのだ。

こうして、日本のオタク文化は起源をアメリカに持ちながらも、高度成長期の日本の繁栄を象徴する、「日本的な」文化としてみなされる。

私が読んだのは英語版なので、これを表す文として以下のような英語が用いられていた。

"The Pseudo-Japan Manufactured from U.S-made Material"

直訳すると、「アメリカ産の物質で作られた、疑似的な日本」と訳せる。非常にいい英訳だと思う。まさしくオタク文化とはアメリカ産の疑似的日本カルチャーなのだ。

しかし、バブルが崩壊すると、日本の繁栄は消え、オタク文化はその先駆性と起源とするアメリカ性だけが残る。結果、この時代(1990ー2000年代)のアニメには、ファミレスやラブホテルといった先駆的で、アメリカ的なものがよくモチーフとして現れる。(私が最近見た「NHKへようこそ!」2001年作にもラブホテルやファミレスは出てきた。)

さらに、この時代の国民性として、一世代前の「昭和」を懐かしむ傾向がある。これはアニメにも反映されており、1990年代にもかかわらず、昭和を舞台とした作品はアニメ、ドラマ関わらず製作されていた。(印象深いのはクレヨンしんちゃんの映画「オトナ帝国」だ。まさしく大阪万博時代の昭和に戻ろうとするオトナが描かれている。)

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この傾向は、バブル崩壊によって失われた日本の繁栄をフィクションに求めようとする(そしてその繁栄を再現しようとする)心情を反映しているのだろう。

ここまでが今回読んだ、オタク文化とその歴史的流れについてである。この他にもポストモダニズムについての言及があったが、それは今後展開していく話なので今後詳しく書いていきたい。

個人的印象深かったのは、今や「クールジャパン」とか言ってもてはやされているオタク文化が実はアメリカを源流とする点である。考えてみれば当たり前であるが、今の今まで思いつかなかった。留学時にはアメリカの映画産業についても研究するので、そことの関連もこの本に期待しながら読み進めていきたい。

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