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写真の魅力と健全な負債感

ダメ元でお願いしてみた。
「今度社員証が新しくなるので写真を登録するんですが、どうやら会社で撮り直すとかはしないらしいんです。気に入ってない顔が自分の首にぶら下がっているのがすごく嫌なので写真館に撮りに行こうと思うのですが、関西方面にいらっしゃる機会あったりしません?」

ダメ元で頼んでみるものです。
週末大阪で取材があるから関西にいらっしゃる予定で、且つ取材の前で有れば空いているとのこと!

お願いしたのはEMS(Essential Management School)のASEコース(Art,Sports,Entertainment)で知り合ったイワモトアキトさん。
新聞社にフォトグラファーとしてお勤めてなっていた方で、つい最近フリーランスとして活動を始められた。

撮影場所となったのはとあるスポーツ施設。
果たしてここで社員証の写真は撮れるのか、、少しばかり募る不安を隠しながら普段はロッカールームとして使用されている場所に偶然行き着いた。

「ここにしましょうか。用意しますね。」

ついに始まる。どんな写真になるのか。壁とかちょっと黒い汚れあるけど大丈夫かな。照明とか大丈夫かな。

そんな不安を抱えて望んだ撮影のファーストショット。

「今日はいけますよ!」

カメラを片手に興奮気味に近づくアキトさん。
画面を覗き込むとそこにはもう既に完璧なイメージ通りの写真がある。
ベストとは言えない環境にも関わらず一発で合わせてきた事に「すごい!すごすぎる!」と僕も興奮。
撮影にも、写真の魅力にも一気にのめり込んでいった。

そんな最高のスタートを切った撮影はその後も順調に進んだ。
また同時にアキトさんの写真に対しての圧倒的なこだわりと、にじみ出る誇りと、何より楽しそうに写真を撮られる姿に被写体ながら心が動かされるものがあった。

例えば首に少し影が入ってしまった写真。正直僕は「良い写真!」としか思えなかったけど、首に対して水平に影があるので「首切り」と言われる縁起の悪いものだと言う。
照明の当て方を変えるとこうなるんだよね。すぐに修正された写真ではしっかり影の具合が変わっている。「なるほど!」と言うと「これでもまだこの部分がちょっと納得いかなくて」とまた照明の当て方を変えてみる。

時間もあるのでちょっと遊びの写真も撮りましょうか。
社員証用の写真撮影が無事に終わり、ロッカールームでの撮影会が始まる。ここからがアキトさんの真骨頂。

好きなポーズをしてください。なんて言われたら僕は全くどうして良いか分からなかっただろうな。
「こんな風にしてみようか」とどんどん引っ張ってくださるので、僕は信頼して身を委ねるだけ。

そんな風にして出来上がった写真がバナーにも使わせてもらったこちらの写真。

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Numberで見たことあるやつ!と思わず言ってしまった想像力が掻き立てられる一枚。

僕と同じ空間にいるはずなのに、アキトさんはその空間を写真として切り取った時のイメージがびっくりするほど豊かで、アキトさんの手に掛かればどんな場所でも最高の撮影セットになってしまうんだろう。

最高の場所を用意するのではなくて、そこにあるもので最高の写真を撮る事。

フランクな方だからこそ、仕事に掛けるこだわりと誇りに凄みを感じました。

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写真において目を閉じる事って悪い事だと思われがちなんだけど、
目を閉じることで語る事が出来る写真もあるんだよね。そんな話もしていただいた。

印象的だったのは、人ぞれぞれでグッとくる構図が異なるという話。
全身の立ち姿が美しい人。表情で多くを語る事が出来る人。顔のシワが物語る人。

撮影をほとんど終えた頃、アキトさんは僕にこう仰った。
「若いなと思いました。顔にシワとかがなくてすごく綺麗。でもこの前写真を撮った人は全身で物語る人だった。だからタイソンくんはこれから沢山経験していくんだろうなと思いました。」

これまで自分としては色々経験してきたつもりだったけど、写真が写す人それぞれの生き様を聞いて、「うわー、まだまだか〜」とこれから僕が出会うであろう大きな壁を想像して思わず笑ってしまった。

でも、だからこそ今の自分の写真を撮っておけた事は大きな財産になるんだろう。数年後に見た時に「若いな〜」と言ってしまう自分はきっと前よりも味わい深い顔になっているから。

もう一つダメ元でお願いしてみた。
「ちなみに夕方から試合があるのですが、見に来ていただけませんか?」

奇跡的にご予定があって、試合の写真も撮りにきていただける事になった。
ご縁と優しさに甘えまくったら、最高の一日になってしまいました。

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自分の試合中の表情は、実はあまり分かっていないもの。
写真で振り返るとその日の自分を客観的に見ることが出来てニヤニヤしてしまう。
この日はリラックスして試合に臨めたから、自然な表情が多いんじゃないかな。
僕らは映像で自分達の判定や動きを振り返る事はあっても、アマチュアレベルでは写真を撮っていただく機会なんてほとんどない。

写真で自分のパフォーマンスを振り返るなんて事があっても面白そうだと思う。
緊張していた、上手く行かなくて悩んでいた、選手と良い関係を築けた、楽しく試合が出来た、そんな事は写真を見れば一目瞭然かもしれない。

最後に。
先日、影山知明さんの『ゆっくりいそげ』という本を読んだ。人が「いきる」ための場作りをするという思いから始められたクルミドコーヒーというカフェで取り組んで来られた事が書かれた2015年の本。

その中に「健全な負債感」という言葉が出てくる。
人の中にある二つの人格。いい贈りものを受け取った時、「ああ、いいものを受け取っちゃったな。もらった以上のもの以上のものでなんとかお返ししたいな」と考える「受贈者的な人格」か、「できるだけ少ないコストで、できるだけ多くのものを手に入れようとする」「消費者的な人格」と対比して紹介されている。

クルミドコーヒーでは、期間限定の何%オフキャンペーンという事をやる代わりに、スタッフが一つずつ丁寧に渋皮から剥いたくるみ餅を贈り物として提供すると言う。これはお客さんの消費者的な人格を刺激するのではなくて、受贈者的な人格を刺激するため。

くるみ餅を受け取ったお客さんが、「ああ、いいものを受け取っちゃったな」と感じたら、レジで1000円を支払う時に「もっと払ってもいいのにな」と思うかもしれない。
またはお店に返ってこなくても、「受け取った」事による「健全な負債感」は、その人をして帰り道に路上のゴミを拾わせるかもしれないし、電車でおばあさんに席を譲る気持ちにさせる気持ちにさせるかもしれない。
そんな事が記載されている。

綺麗事なのかもしれないが、何もサービスだけでなくて、人と人のコミュニケーションでも贈り物は沢山あったりする。思わぬ人から温かいメッセージを受け取ったり、自分の発信に対して予想以上に丁寧に返信をいただいた時は間違いなく贈り物を受け取っているし、その健全な負債感は次の自分の行動にポジティブな影響を与えていると強く実感する。このサイクルが回っていけば良いのにな。

少し本題から逸れてしまったけれど、丸一日アキトさんにしていただいた事から抱いた「健全な負債感」がこうして僕に書く力を与えてくれました。
また、アキトさんは撮影の際に、自分を通して写真の魅力を伝えたいと仰っていました。
僕はこの体験を一人でも多くの人に伝えたくなったし、何よりもアキトさんに「その思い、しっかりと受け取りました」とお伝えしたかった。
これが少しでも伝わればこの文章は大成功です。

「今日一日お世話になりすぎてしまったなぁ」という気持ち。
僕がお支払い出来る金額なんてちっぽけでで、もしちゃんとどこかの企業が依頼するならばもうビックリする程の値段がつかなければいけないサービスな訳で。
もしかしたら、というか確実に健全な負債とかではなくてもう首が回らなくなるレベルではあるんだけど。笑

素敵な贈り物をいただいてしまいました。
ご縁と優しさに感謝してこの文章を終わりたいと終わります。

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