河童59

イビツな頭と黒い目玉がこちらを視ている。娘の眼を。
その黒い目玉と見つめあい、声も出せずに、心臓以外の動きを止めている。
それはゆっくり動き、髪がまばらに生えた頭をすべて見せ、社の中へ這いこんでくる。
低く構え不器用な四つん這いの構えでゆるりと社にはいってしまう。
不器用なはず。
片腕がない。
その目は娘を見つめたまま離さない。肘から先のない腕は感覚がないのか、だらりと肩から垂れ下がり床に摺ったままだ。
「ひっ」心臓が痙攣でも起こしたように声とも呼吸ともつかない音を出す娘め。
康介は娘のわずかな空気の漏れで振り替える。
目に飛び込んで来たものを理解したとき、康介は後ずさる。
後ずさることはするが腰のちからは抜け、ストンッと床にしりをつける。
それはすでに無気味な身体のすべてを社のなかに入れ込んでいた。

「あっ」康介が小さく叫んだ言葉が合図のごとく、無気味な片腕は不自由そうにもシャカシャカと小刻みに早く、娘に向かい、そして飛び付いた。
「ひっ」娘の悲鳴。
身体の後ろに手をつき身体を倒し、尚且つ頭を後ろへ逃すように倒す。
首筋がさらけ出される。
シャカシャカと走りより飛び付いた片腕は、薄い唇のしたから歯茎が発達したような嘴を出し娘の首もとに噛みついている。

今こそ気を失うべきときだろうが、娘の意識はハッキリとし、その片腕と眼を会わせたまま、瞬きひとつしていない。
咄嗟。康介は痛みを忘れ娘のもとへ向かう。
動く片腕で、娘の首もとに食らいつく気味の悪い生き物をつかみ引き剥がした。

簡単に娘から引き剥がすことができた。
康介は娘のすぐ横に叩きつける。それは痛みからか、身体の神経が狂ったのか、ひっくり返り甲虫のよう手足をばたつかせている。

引き剥がした康介は、その生き物の生臭い匂いと不気味、手にのこる少しヌルりとした感触に、思わず逃げ腰になり囲炉裏に足を落としてしまう。
その熱さより生臭いものによって引き揚げられる胃の腑のものが、火傷を麻痺させる。
喉を伝い口に戻り来るものが、娘のことなど無視させる。

娘はその生き物がバタバタもがきながらも自分と目を離さないので、不気味と恐怖は頂点となり、手に触れた短刀を掴み振り上げ、もがき暴れる頭を押さえつけ、気狂いの金切り声と共に、それを力任せに打ち落とす。
その生き物の生臭い腹に突き刺さり、それはより、より狂いもがき暴れ、頭を押さえつける娘の手のわきから見える黒目は娘の目からはなれない。

その目から目を離せない。
娘は狂乱し、押さえつける手に伝わる暴れ具合、視野に入る裂けた腹、振り下ろす短刀越しに伝わる手応えの柔らかさ。
すでに狂乱のなせる所業、幾度も叫び打ち下しがとまらない。

増しに増す生臭さと血。娘はその生臭い、苦しみ暴れる肉のかたまりに、胃の中身を吐き出した。
当然吐くときは前屈み、目の前に、それが近づき気持ち悪い。気味が悪いと、気持ちが悪い自分が切り開いた生き物の腹。
「うえっ」
余計に吐く手助けになり、そこに吐く。
グタグタと裂かれまくる腹に散らばるわが身の嘔吐物、尚更気持ち悪いものを視て、目の前から消したくて、より一層打ち下ろすことになる。
地獄の鬼も、今のこの場のこの世の人の、行う所業に、気持ち悪さに後ずさるに違いない。

自分とか周りの友人知人とか、楽しめるように使います。何ができるかなぁー!(^^)!