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なぜ女子学院はところてんの原材料を聞くのか(前編)

 2021年入試もさまざまな問題が出ました。中には「これってテキストで習ってない!!」と受験生が思った問題もあったと思います。しかし、そうした問題は難関校ほど出ます。ではなぜ難関校はそうした問題を出すのでしょう。2021年入試を通して推測したいと思います。


1,はじめに


 2021年入試の女子学院ではこのような問題が出ました。

問1 ところてんの主な原材料を1つ選び、記号で答えなさい。

ア ワラビ科の植物の地下茎  イ マメ類  
ウ 海藻のテングサ      エ 動物の皮や骨に含まれるゼラチン

問2 そうめんの主な原材料を1つ選び、記号で答えなさい。

ア ジャガイモ  イ カタクリ  ウ 米  エ 小麦

※ 問題番号は記事で通します。また解答は記事の最後に載せます

 女子学院は女子御三家に数えられる難関校の1つです。また、他の女子御三家と異なり社会科の配点が他の教科と100点と、社会科の重要度が他校より高い学校です。とはいえ、全ての問題が出来なくても合格できます。実際私もこの問題を紹介した後に以下のツイートをしました。


 しかし、女子学院以外にもこうした問題が見られました。しかもそれは女子学院同様、難関校で、です。ではなぜこのような、教養といえる問題を出すのでしょう。

 今回は2021年入試で見られた様々な問題を紹介し、出題の意図について推測したいと思います。


2,食べ物に関するさまざまな問題


(1)これって家庭科?


 食に関する問題の中には一見すると「これって家庭科では!!」と思う問題もあります。まずはこれらを紹介します。

問3 マツタケは和食では松茸ご飯や土瓶蒸しなどに調理されます。マツタケの旬の季節として正しいものを、次の中から1つ選び、記号で答えなさい。

ア.春  イ.夏  ウ.秋  エ.冬
(香蘭女学校 2021年)

 国産のマツタケは高級品です。そのため日常的に食べることないと思います。

 しかし、マツタケに限らず食べ物の旬に関する問題は、中学受験ではよく見かけます。例えば渋谷教育学園幕張では平成28年(2016年)入試で食べ物の旬をまとめた表を通して地理分野の問題を出しました。また、2021年入試では東京卸売市場に出荷される野菜を通して露地栽培と促成栽培を考えさせる問題が何校も出ました。

 いつでも食べられるものが増えたからこそ、食べ物の旬について考えていく必要があります。

 また私たちの食生活に欠かせない米について、以下の問題が出ました。

問4 ぬか漬けとは、精米するときに出る「ぬか」を利用した日本の伝統的な発酵食品です。おもに米を利用した発酵食品ではないものを、下のあ~おから1つ選び、記号で答えなさい。

あ みりん  い 日本酒  う 酢   え しょうゆ  お 甘酒
(麻布中 2021年)

問5 下線部5(精白したコメ)について正しく述べたものを一つ選び、記号で答えなさい。

あ 太陽の光に当てて白くしたコメ
い 薬品を混ぜて白くしたコメ
う 表皮を取りのぞいて白くしたコメ
え みそにつけて発こうさせて白くしたコメ
(光塩女子学院 2021年)

問6 米について述べたこととして、まちがっているものを1つ選び、記号で答えなさい。

ア カロリー(熱量)を多く摂ることができる。 
イ 通常、加熱して食事に取り入れている。
ウ 日本では数十年前と比べて一日の食事の中での割合が増えた。
エ 菓子など様々な形態に加工されて利用されている。
(女子学院 2021年)

 問4と問5が精米つながりですので、これを利用して答えた人もいるかもしれませんね。家によっては自家製のぬか漬けというところもあるかもしれません。ですが、小学生が果たして「ぬか」を知っているでしょうか。また他の選択肢、例えばみりんについて知っている人がいるでしょうか。おそらく料理をしなければ分からないと思います。そうした問題が男子御三家の麻布で出題されたのです。
 また、問6はまちがっている選択肢を見つけること自体は決して難しくないと思います。しかし、他の選択肢が正しいことを知らなかった受験生がもしかしたらいたかもしれませんね。

 家庭科では栄養についても学習しますが、こうした問題も出ました。

問7 かっけの原因は、ある栄養素の不足でした。その栄養素を説明した以下の文章を読み、最もあてはまるものを一つ選び、記号で答えなさい。

  人体の正常な発育に必要で、体内では生成できない。最初は発見された順にアルファベットで命名された。

あ ビタミン  い 炭水化物  う ミネラル  え 油脂

(光塩女子学院 2021年)

 「かっけ」と聞いて「?」と思った人もいるかもしれません。確かに現在はかっけにかかったという人はほとんどいません。それは現在の私たちはきちんと栄養を摂ることが出来ているからです。
 この問題は解答のアプローチがいくつもありますので、答えられた子にはどこで気がついたかを聞いてみるといいでしょう。

 それではこの節の最後に、世界の食に関する問題を紹介します。

問8 次の a~c の文は日本が農水産物を輸入している国について述べてい ます。a~cに当てはまる国名を答えなさい。

a カニやサケ・マスの主な輸入先である。寒い地域で栽培されるビーツ を使って、肉やタマネギなどを煮込むボルシチはこの国を代表する料理である。
b ワイン輸入量ではチリについで第2位、金額では第1位の輸入先である。2024年にはこの国の首都でオリンピック・パラリンピックが開催される予定である。
c パーム油やエビの輸入先である。赤道付近にあり、火山と地震の多い島国で、オランダの植民地であった時期でもある。

(桜蔭中 2021年)

 いずれも食料品の輸入でも有名な国です。また、料理でいうとaは選択肢にあるボルシチやピロシキ、bはこの国名がついたパンやポトフ、cはナシゴレンなどが有名です。因みにcにあるパーム油については開成中でも出題しています(設問からみてもパーム油が答えられた人がほとんどいいなかったのでしょうか)。
 また、かつて慶應中等部ではフランス料理のコース順を問う問題が、早稲田中ではスペイン料理のパエリヤを答えさせる問題が出ました。

(2)歴史と食の問題


 食に関する問題は歴史とも結びつきます。例えば、2021年入試では以下の問題が出ました。

問9 縄文人が食べていたと考えられるものの中で、でんぷんや糖を多く含んでいるものを一つ選び、記号で答えなさい。

あ イノシシ  い アサリ  う カステラ  え ドングリ
(光塩女子学院 2021年)

問10 各時代の食材や料理としてふさわしくないものを含む組み合わせを1つ選び、記号で答えなさい。

ア 縄文時代――木の実・焼いた肉・干した貝
イ 弥生時代――米・焼いた魚・木の実
ウ 平安時代――米・つくだ煮・海草
エ 室町時代――米・ごま豆腐・お吸いもの
オ 江戸時代――米・天ぷら・うどん
(女子学院 2021年)

問11 鎌倉時代から江戸時代のあいだに、人びとは、四つ足の動物の肉に下のような別名をつけて食べるようになりました。このような別名をつけて食べていたのはなぜでしょうか。理由を答えなさい。

(  )が別名

猪(ボタン)  鹿(もみじ)  馬(さくら)
(麻布中 2021年)

 問9と10はその食べ物がいつ誕生した(入ってきた)かを問うものです。問9は歴史的背景を理解していれば消去できるものもありますが、栄養分を理解しなければ答えることが出来ません。問10も歴史的背景が必要となりますが、難易度は問9より高いと言えます。
 そして問11は麻布中の問題が出回ったときに話題になったのでご存知の人もいるかもしれません。こちらも歴史的背景と結びつけなければ答えるのは難しいですが、仏教と関連づけられれば答えられるかもしれません。
 これらの問題を解くには歴史的背景が必要なのはもちろんですが、家庭科のような知識も必要といえます。

(3)この単位分かる?


 ところで、中学受験生はお米を量る単位を知っているでしょうか。

 kgももちろん単位ですが、他にもあります。大人なら分かると思いますが、それは「升」や「合」です。因みに1合が150g、1升がその10倍の1500g(1.5kg)、「加賀百万石」と呼ばれる「石」は150kgです。
 ではこの問題はいかがでしょう

問12 米の量は合で表します。3合の米を炊き、炊き上がったご飯を、150グラムずつ茶碗によそって分けました。全部で約何倍分のご飯となりますか。最もふさわしいものを、次のア~エの中から1つ選び、記号で答えなさい。

ア 3杯  イ 7杯  ウ 15杯  エ 20杯
(聖光学院 2021年)

 「1合が150gだから3合だと150gよそう茶碗だと・・・」と計算する子がいないことを祈ります。

 ところで、聖光学院では2021年入試ではお米のように単位に関する問題が出ました。そこで、聖光学院で出た単位に関する問題を紹介したいと思います。

問13 10種類の数字を用い、10倍ごとに位をあげていく表し方を10進法といいます。一方、古代ローマ以来用いられてきたローマ数字(Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・Ⅴ・Ⅵ・Ⅶ・Ⅷ・Ⅸ・Ⅹ)には5進法の影響が見られます。これら10進法や5進法はいずれも共通の「あるもの」を参考に考え出されたといわれています。この「あるもの」とは何か答えなさい。
(聖光学院 2021年)

問14 日本の10進法では、1万以上の数字になると1万倍ごとに数字の呼び名が変わっていきます。兆の1万倍の呼び名は、2010年代に活躍したスーパーコンピュータの名称ともなった数字でもあります。その数字を漢字1字で答えなさい。
(聖光学院 2021年)

問15 次の(1)~(3)を数えるときに用いる助数詞の組み合わせとして正しいものを、ア~カの中から1つ選び、記号で答えなさい。
(1)ウサギ  (2)はし   (3)カニ

ア(1)羽(2)棹(3)足  イ(1)羽(2)膳(3)杯
ウ(1)羽(2)棹(3)杯  エ(1)脚(2)膳(3)足
オ(1)脚(2)棹(3)足  カ(1)脚(2)膳(3)杯

 問14は数を数えるときにしていたことを思い出すと答えられるかもしれません。問15は全て「個」で数えてしまう子もいるかもしれません。また、問15は国語の問題かと思うかもしれませんが、社会科でも国語と思える問題が出ますし、反対に国語で社会科と思える問題が出ます。


 以上の問題は2021年入試で出たものです。他にも同様な問題があるかもしれません。もちろん、これ以外が答えられれば合格は見込めるでしょう。しかし、それでは学校の意図をシャットアウトすることになります。学校側の意図を読み取ることで教育に必要なものを見つけることができると思います。

 前編はここまでです。後編は食以外の教養に関する問題や、食を通して現代社会を見た問題を紹介します。そして、中学受験ではこうした問題が出るかについて推測したいと思います。(後編完成後、前編をまとめたものを投稿します)


前編の問題の解答

問1 ウ(海藻のテングサ)
問2 エ(そうめん)
問3 ウ(秋)
問4 え(しょうゆは大豆から作られます)
問5 う(「い」は考えにくいですね)
問6 ウ

(食の多様化が分かれば答えられると思います。せんべいなどの米菓子があることを忘れないで下さいね)
問7 あ(ビタミンA、ビタミンBといいますね)
問8 aロシア bフランス cインドネシア

(食べ物以外で答えた人が多いと思います)
問9 え

(カステラは安土・桃山時代以降です。イノシシやアサリはタンパク質が多いです)
問10 ウ

(つくだ煮は江戸時代に佃島で作られたのが最初と言われています)
問11 仏教では四つ足歩行の生き物を食べることが禁じられていたため、植物の名前で呼ぶことで食べていることを気づかれないようにするため。

(猪をボタンと呼ぶのは肉の色がボタンに近いからと言われています。また、猪はクジラ肉とも呼ばれていました。鹿が「もみじ」と呼ばれるのは、百人一首の「奥山にもみじ踏み分け鳴く鹿の 声きくときぞ秋は悲しき」が有力と言われています。そして馬が「さくら」と呼ばれるのは、馬肉の色がさくらのピンク色に近いからと言われています)
問12 イ

(1合炊きのご飯は300~350gになります。3合ですと900~1050gですので、7杯になります)
問13 指

(小さいときに指折り数えをしていたことを思い出せば答えられます)
問14 京

(「京」以降は、「垓・秭(𥝱)・穣 ・溝・澗・正・載・極・・・」と続きます)
問15 イ

(「脚」はイスを数えるときに、「棹」はタンスを数えるときに、「足」は靴下などを数えるときに使う助数詞です)


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