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夏トマト(コップ一杯の夢と適量のノンフィクション)

学生時代の夏にはやはりプールが定番なのだろうか。濡れたアスファルトに太陽が照りつけ、熱気と少し焼けた匂いがする。体育の後には軋んだ髪の毛に残る塩素の香りが充満した教室で、気怠げに授業を受けた頃を思い出す。あの瞬間の感情は一言では言い表せない。

夏休みの宿題は最後の日まで残っていた。でも大人になってからは毎日が実技試験で、毎晩が試験前日だからあの時遊んでおいてよかった気もする。

今となっては海に向かって無邪気に叫ぶこともなく、青空にはカキ氷の様な入道雲が浮かんでいる。ラムネ瓶に輝くビー玉を一生懸命に取り出そうとした無垢な時もあった。

空には蝉時雨の声が消えてゆき、日が落ちると少し気の早いコオロギの音が聞こえる。長袖が必要なくらい空調の効いた職場では夏を感じることもなく、またこうして夏が終わっていくんだろう。

冷蔵庫にトマトがあった。スーパーでその赤さに惹かれて安かったこともあり、バックの中で潰れないよう気をつけながら持ち帰った。

キンキンに冷えた棒アイスも、炭酸の弾けるサイダーも無かったけど、夏らしいことを何かしたくてトマトひと口かじった。

燦々と照りつける太陽に、だんだんと体温が上がっていく。口元が汚れることも気にせず、夏のトマトをかじった。

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