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フリーライターはビジネス書を読まない(8)
次の仕事
1991年1月10日付で、5年2カ月勤めた会社を円満退社した。もっとも正社員の身分を返上しただけで、引き続き雇員として週に1~2日は会社の仕事をやる。
そのあたりのエピソードも話題がてんこ盛りで面白いのだが、それはまた追々書いていくことにする。
東京の編プロから「次の仕事をお願いしたい」とお声がかかった。
リモート会議なんて遠い未来のことと思われていた時代、遠方にいる相手との打ち合わせは専ら電話だった。
「今度は金融のしくみを入門書的に解説する本です。1冊まるまるお願いしますから、まずは項目案を60本出してください」
なんと、5本手伝っただけのあとは、1冊まるごと書いてくれという。この社長、変わり者なのか、それとも新人を育ててくれようとして大英断、いや大冒険に踏み切ったのか。いずれにしても、まるごと1冊書かせてもらえば、今後は自分の実績といえるから、なにかと役に立つはず。
もっとも、そのときはそこまで考えることはできず、60本の項目案を1週間で出さねばならないプレッシャーに気が重かった。
何を書いたらいいんだろう。
何を書いたら本の体裁になるんだろう。
根本的なことが何も分かっていないことに、いまさらながら気が付いたのだった。
ともかく書店へ走って、類書を5~6冊買ってきた。
金融のしくみだから、金融機関の種類から入って、それぞれどう違うのか、役割など。
あとは国際間の金融関係にも触れないわけにいかないな。
そんなことをあれこれ考え、ときには脂汗を流しながら、なんとか60本捻り出して編プロへ送った。
ところが、それでOKなのかNGなのか、待てど暮らせどいっこうに返事が来ない。
じつは電話で打ち合わせをしたとき、原稿の締切日も決められていた。1冊60項目の原稿を書くには、当時の私で1カ月はかかると思われた。
何の連絡もないまま日が過ぎて、
「この日に書き始めないと締め切りに間に合わない」というリミットが刻々と近づいていた。
(つづく)
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