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フリーライターはビジネス書を読まない(17)

休日のATMコーナーを動かしているのは――


警備会社の正社員を辞めるとき、支社長から頼まれた仕事(7話参照)も、週に1回やっていた。

銀行の土曜日営業がなくなって土日が休みになったが、ATMコーナーだけは休日でも稼働させていた。
私が携わるのは銀行の「カードセンター」という部署に詰めて、名古屋以西の各支店ATMに設置されているオートホーンの応対だった。

ある日の、業務の様子である。

土曜日が完全休業日になってからまだ日が浅かったから、午前中は営業していると思って、預け入れをするために現金と通帳をもってくる人が後を絶たなかった。

土曜日の午前中は、たいていそういう客からの問い合わせとかクレームばかり。
「9時を過ぎたのに、店はいつ開くの?」という問い合わせはまだいいほうで、
「銀行が土曜日に休むとはけしからん」と勝手に怒っていたり、「支払いの期限なんだ。頼むから入金させてくれ」と哀願されたり……。

こちらはその都度、土曜は休業日で店舗は無人なので対応できないことを、まるで自動再生の音声みたいに繰り返すのだ。

たいていの客は納得してくれたが、自分の都合しか考えないヤカラはどこの町内にも1人くらいはいるものだ。
通帳をもってきて、
「ワシは金をおろしに来たんや。自分の金なんやから、銀行の都合は関係ない」と、駄々をこねる。声の印象から、いいトシのオッサンなのだが。

そういうときも、こちらの対応はあくまで冷静だ。
「ご不便はじゅうじゅう承知しておりますが、システムの構成上、こちらでは如何ともしがたく、カードだけでのお取扱いとなっております」

ところが、こちらが下手に出ると、相手はますますつけ上がる。
「ワシは金がいるから来たんや。どないすんねん?」
(知るか、ボケ!)
心で思っても、口に出してはいけない。

バカじゃないかぎり、理屈は理解できているはず。こういうヤカラは、過去にゴネたことで自分の希望が叶った成功体験があるから、ここでもゴネているのだ。
埒が明かないから「月曜日にもう一度お越しください。直接お話しさせていただきます」と告げて、あとの面倒なことを支店に押し付けて終わり。

この業務から痛感したのは、人の本性は基本的に「わがまま」であること。心情的には性善説を疑いたくはないけれど、1対1で且つ自分が相手より優位に立つと、自分のことしか考えない人が多い。
もっとも、世の中にはじつにいろんなタイプの人間がいることを知る、絶好の人間観察の場でもあった。

(つづく)

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