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天の川の畔で逢いましょう


優輝と結婚してもうすぐ3年。でも、7月7日の結婚記念日は一緒には迎えられないかもしれない。


優輝とは同期入社で、新入社員研修の時に声をかけられた。こんな時にこんな場所で食事に誘ってくるなんて、なんて軽い人なんだろう。最初、私はそう思った。それでも私は彼の誘いを断らなかった。何故ならルックスが、どストライクだったから。そしてその週末には、彼からの告白で付き合い始めるようになった。

同じ会社の、私は経理で彼は営業。仕事場では内緒で付き合っていた。時には些細な事でケンカもしたけど、とても気が合う人だ。

初めて声を掛けられた時の〈軽い男だ〉という印象を、彼に伝えたら「だって、めちゃくちゃタイプだったから、他の奴に取られる前に何とかしないとって思ったんだ」という言葉が、可愛くて忘れられない。

付き合い始めて3年。「流美、これからも君とずっと一緒にいたい。そして俺達ふたりの子供が欲しい」というプロポーズで結婚した。

それから2年を過ぎた昨年の冬、なかなか妊娠できなかったので軽く診てもらおうと受診した病院で、癌のおそれがあると言われた。

大きな病院で検査をすると、既にもう手遅れだった。暫くは入院していたが、私の希望で家に返してもらうことにした。彼はまだ諦めちゃ駄目だと言ってくれたけど、「最後の時間をあなたと一緒に過ごしたいの」という私の言葉に、静かにうなずいてくれた。



「来月は3回目の結婚記念日だね」

私が横になっているリクライニングのベッドを起こしながら優輝が話しかけてくれる。

「そうね、でもそれまで生きてられるかしら」

私の言葉には返事をせず、スプーンで掬ったクリームシチューをフーフーと冷まし、私の口に運んでくれる。

「どう、うまく出来たかな?」

優輝は会社に休職届けを出し、ずっと私の面倒を診てくれている。

「うん、おいしい」

「今度の結婚記念日に、何か欲しいものある?」

優輝がふたくち目をスプーンで掬ってくれるが、私は首を振った。

「物ではないんだけど、いいかな?」

彼は皿に残ったシチューを美味しそうに食べる。優輝の食べてる時の幸せそうな顔がずっと好きだ。

「なに、して欲しいことかな?何でもいいから言ってごらんよ」

「去年も一昨年もそして籍を入れた日にも、記念日にプレゼントを交換したあと、やさしく抱いてくれたよね。アレを今、して」

「えっ、今っ?」

「そう、いま」

彼は驚いた顔をしながらも、シチューの皿をテーブルに置き、グラスの水を半分ほど飲んでからベッドに上がった。

私の身体をそっと抱き起こすと、唇を重ねた。彼は右手で私のパジャマのボタンを上からひとつづつ外し、自分の服も脱ぐ。お互いのぬくもりを素肌で確かめ合い、再び唇を重ねた。

彼と私が繋がった時に、私は彼に訊いた。

「このまま私と一緒に死んでくれる?」

彼は私を見下ろしながら表情を弛めた。

「いいよ。ふたりで手を繋いで三途の川でも渡ろう。そしていつまでも一緒にいよう」

私は彼の首に両手を伸ばした。

「ばかっ、もう私には優輝を殺せるチカラも残ってないよぉ」

私の胸に涙を落としながら、優輝はゆっくりと行為を進めた。



「ねえ、優輝は他の人との子供をつくって。私も空からその子の応援するからさぁ。お願い。そうして」

彼は布団で私をくるむように抱き締めながら困った顔をしていたが、やがて笑顔に変わった。

「わかった。そうする」

「ありがとう。約束だからね」

私は彼の頭を引き寄せ口づけをした。

「じゃあ、俺からもお願い。俺が他の人と一緒になって、子供も出来たとしても、七夕の日だけは流美との日にする。そして俺は七夕の夜、天の川を見上げてお前を探す。だからその日には強く光ってくれよな。俺にわかるくらいに」

「うん、わかった。約束する」

「そして俺がそっちに行ったら、天の川の畔で待ってろよ。絶対にお前に逢いに行くから」

「うん。絶対に待ってる。絶対、絶対に」



7月に入る直前、私の意識は無くなった。

でも、優輝との約束は忘れない。

絶対に。




🐒🐒🐒


七夕創作してみました。

因みに昨年のはこちら

よっぽど暇だったんでしょうねー。

ふざけてますねー。

この頃は〈つぶやき〉の140文字にはまってましたねー。

3行短文。4音×4節×3行

zep0814 i理昭さんが開発したこの定型詩のスタイル。この作品ではちょっとわかりづらいかなー。

今では主に、言葉の箱庭さんや あきやまやすこさんが引き続きこのスタイルを継承されています。





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