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落ち葉拾い、そして沼堕ち

真悟と付き合い始めてから1年が過ぎた。
真悟が所属していたサッカー部は選手権大会ベスト16を目前に敗退した。10番を付けた真悟の姿が見られなくなるのは寂しかったが、これで一緒にいられる時間が長くとれる。


落葉を拾いながら公園をぶらぶらと歩く。
最近のデートといえば、だいたいこんな感じ。
歩くことは元々好きなので、楽しい。
あなたが横にいてくれるだけで楽しいのだけれど。

今日はいつもの白いマスクからピンクのマスクに変えてみた。

「そのピンクのマスク、ミキに似合っていてとってもカワイイね」

あなたが言ってくれた。

「シンゴのそのグレーのマスクもなかなかいけてるよ」

そう私が返すと、あなたは私の両肩に手を置き、顔を近づけた。
私は咄嗟に目を瞑る。
マスク越しにあなたの唇を感じた。
あなたはふたつのマスク越しに、私の唇の形を確かめるように唇を移動させた。2枚の布を挟んでも、あなたの温もりが伝わった。
手にした落葉は風に飛ばされてしまったけど、代わりに私は空いた両手であなたを強く抱きしめることができた。


あの頃、私たちはこれからもっと二人で幸せになれるものだと信じていた。
あまりにも幸せ過ぎて二人だけの世界に入り込んでしまい、私たち以外の存在が邪魔に思えた。

高校を卒業して私は飲食店でアルバイトを始めた。
始めは大学に行くことが当然のように思ってた。現に成績はずっと上位30名の中に入っていたし、先生からも推薦でいける大学があると薦められた。しかし、将来の事を真剣に考えるようになるに従い、自分のやりたい事がわからなくなってきた。大学に行って学ぶべき事がはっきりしないのに、母に金銭的な負担をかけることなど出来ないと思った。それで先生に大学へは進学しない旨を伝えた。
就職先に関してもピンとくる仕事がみつからなかった。母にも先生からも高校に在学している間に決めてしまわないと、社会に出てしまってからではなかなか良い就職先は選べないと言われたが、決められないものは仕方がない。

真悟は地元の大学へ進学した。
関西の大学へスポーツ推薦の話もあったようだが、もうサッカーはやらないと言って断ったらしい。私と離れるのが嫌だったっていうのも少しあるってあとから言ってた。

そして二人とも新しい生活のスタート。
真悟は実家を出て一人暮らしを始めた。

1DK 6畳のダイニングの隅に置かれたシングルベッド。
彼の腕まくら。
ちょっと前までの私では知らなかった感情。
彼は寝息をたてている。
帰らなきゃ、とは思うのだけれど帰りたくない、が勝ってしまう。怠惰な生活。
昼間、彼に会いたくて堪らなくなる。
夕方、彼のために夕食を作る。
彼と一緒にご飯を食べながら今日一日の報告をし合う。
食事が終わりソファで寛いでいるといつの間にか背中からハグされ、唇を重ね、流れで始まってしまう。

たまにはSEXなしで帰りたいと思うのだけれど
その流れからは抗えない。

朝、彼がまだ寝ている間にベッドを抜け出す。
家に戻り着替えをしてバイトへ向かう。

こんなんで良いのだろうか。
疲れる。

彼には会いたい。
でも、こんな生活を続けていてはいけない。
もう彼とは別れよう、なんて考えたりする。

腕まくらしていた彼の腕が引っ込む。
腕が痺れたのだろう。
彼の寝顔が愛おしい。

私にも睡魔が訪れる。
もうどうでもいい。
なるようになればいい。
このまま堕ちていけばいい。
もう、朝なんて来なくたって構わない。

離れたくない。
ずっと一緒にいたい。
彼と一緒の時間以外はどうでもいい。
どうなってもいい。
この先の事なんか考えられない。

このまま。
ずっとこのまま。
今だけが、この瞬間だけが永遠に続けばいい。
ふたりでこのまま布団の中で、永遠に閉じ込められたい。

堕ちてゆく、堕ちてゆく。
もう立ち直れないかもと感じ始めた頃、真悟から別れを切り出してくれた。彼も危機感を感じてたんだと思う。
「俺たちもう別れた方がいいと思うんだ」
悲しそうな瞳をした真悟からの言葉に素直になれた。
「うん……そうだね」

私たちの代わりに空がいつまでも泣いてくれた梅雨時であった。

こうして私は温かい沼から抜け出すことができた。
受けたダメージは予想通り大きくはあったのだけれど。


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