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なるべく多くの幸せを願う

今日も私の前に一組の男女が互いを見つめ合い、立っている。
男は女の将来を背負う覚悟をもって真剣な眼差しで、女は男との幸せな生活を願い優しい笑顔で。

そのふたりの向こうの長椅子の最前列の隅では、男の母親が白いレースのついたハンカチで目頭を押さえている。
女手ひとつで息子を育ててきた彼女は、早くに亡くしたパートナーに向かって、この時を報告している。
完璧ではなかったけど、なんとかここまで育てあげましたよと。

女の母親も涙を流しながら壇上のふたりを見守っている。
嗚咽を漏らしそうになるのをなんとか堪えながら。
思春期の頃の娘とよく口喧嘩した事を思い出し、涙が止まらないようだ。

女側の一番うしろの席では、女の父親がぽつんとひとり座っている。
彼は、女の幼少期の頃を思い出しながら、彼女の幸せを私に祈っている。

壇上の私の代理の者から、ふたりに誓わせる。
どんな時でも互いのことを敬い、愛し合い、喜び合い、信じ合い、助け合い、そして添い遂げることを。

この場では誰もが真剣に誓うのだ。
けれど歳月と共にその気持ちは薄れていく。

この女の父母が正にそうだ。
この元夫婦の場合、父親の方が先に相手を敬うことを忘れた。
いつしか母親の方には敬い、愛し、喜びを分かち、信じること、助け合う心のすべてが消えた。
そうなれば当然、添い遂げることなど叶わない。
ほんとうに人は愚かだ。

男の母親は早くにパートナーを亡くした為、今でも彼のことを想い続けている。
他の男に言い寄られたことも少なくはないが、彼のことをずっと信じ、今でも愛している。

彼女は一時期、ずっと私のことを恨み続けていたが、それは私にはどうすることも出来ない。
人間は誤解している。
私はただ見守る存在でしかないというのに。

しかし、このケースでは愛する対象が居なくなった為、愛する心だけが残り、永遠というものを手に入れられたのかもしれない。


男が不器用に女のヴェールを上げ、女はそっと目を閉じる。
そしてふたりは私に永遠の愛を誓い、唇を重ねる。

私も願う。
私でない誰かに向かって。
ふたりの永遠の愛を。
なるべく多くの幸せを。

私からの使者がいつも通り、鐘が鳴るのと同時に青い空に舞い翔んだ。
主役のふたりが晴々とした表情で、腕を組み歩き出す。
ふたりに向かって花びらが舞い、人々から盛大な拍手が沸き起こった。

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