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【第3回心灯杯】 鉄のマドンナ


休日、いつもより遅く目覚めた朝。

前日は久しぶりに友達と飲んで、まだ体内にアルコールが残っていた。

テレビを点け、ニュースバラエティー番組をまったりとした頭で眺めていた。

近ごろ、ツンデレ女性が再び増殖中です。


ツンデレ、、、

懐かしい響き。


確か、ひと昔前に流行語大賞にもノミネートされてた言葉。

「ツンデレって」

ひとりの部屋で思わず呟いた。


思い出す高校2年の冬。


同級生で同じクラスに、誰もの視線を集めるような「超」がつくほどの完璧な美女がいた。オマケにバストやヒップも悩ましい程にセクシーでグラマラス。毎日のように、上級生もその噂を聞いて教室へと見に来る程のマドンナだ。

しかし僕達のマドンナは、どんなにイケメンがデートに誘っても靡かない。そういうことが面倒なのか、男子生徒には見えない壁を作り、とりつく島もないほどに冷たい態度をとっていた。

いつしか学校中の男子生徒から「鉄のマドンナ」と呼ばれていた。僕達なんの取り柄もない一般学生には、声も掛けることが出来ない高嶺の華だった。



そんなある日の学校帰り、赤く夕焼けに染まる公園。ベンチでイチャつく、同じブレザーの制服を着るカップルが見えた。長い黒髪が、男子生徒の肩へとしなだれ掛かっていた。

一人はあの鉄のマドンナだと直ぐに判った。では、その相手は? 気になった僕は、自転車を公園の反対側まで走らせ、木の影から様子を伺った。

男子生徒に目の焦点を合わせて覗き見る。

えっ ま、まさか。

そこには僕の親友。いや、親友だと思っていたアイツの姿があった。僕と同じで、地味でオタクなモテ男とはほど遠い部類のヤツだ。

僕は信じられなくて何度も目を擦ってみる。

やっぱりアイツだ。

彼はカッコつけた表情で彼女の頭を何度も撫でている。

鉄のマドンナは瞼を閉じ、長い睫毛をピクピクさせながらデレっとした表情で、彼に甘えている。

僕の中のマドンナのイメージは、山の陰に沈んでゆく太陽と共に消え去っていった。


その後も、二人は卒業するまで仲良く付き合っていた。「悪趣味な美女」と呼ばれ始めた彼女は、僕が親友だと思っていたアイツには無償の愛を貫いているようだった。しかし、相変わらず他の男子生徒には冷たい対応を貫いていた。



あの日の想い出から現実に戻る。

テレビの中のカワイイ女子アナが話していた。

最近の女子高生の間では、普段は男子生徒にはツンと冷ややかな態度をとっておきながら、欲しい物をプレゼントして貰うと、急にデレっと態度を変えるツンデレ女子が、カワイイと流行っているようです。


「違うっ。見返りを求めるなんて、俺の青春のツンデレ女への侮辱だーっ!」


六畳一間の自室で僕はひとり叫んでいた。




【おしまい】



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