♥1 超越者は誰か?   『彼女の色に届くまで』を読んで

『彼女の色に届くまで。』この作品は、ジャンルとしては恋愛とミステリーを掛け合わせたものである。主人公緑川とその友人千坂との恋模様を描くとともに、千坂が緑川の周りで起きる事件を解決していき、それが最後に交じわるという流れである。

あらすじは、画廊の息子として絵を描いてきた主人公緑川。中学時代にまともな絵を描くのをやめてしまったが、高校になって心機一転し、画家を目指して絵を描くことになる。華々しい高校生活を夢見るも、理想とは程遠い生活をしている中で、絵を描いた経験がないはずなのに最初から素晴らしい絵を描く千坂に出会う。天性の才に圧倒されながらも、それでも画家を目指す緑川の苦悩、一見後ろ暗いことが無い千坂の隠された葛藤が入り乱れ、話が進んでいくといった流れである。

この本を読んで印象的だったのは、登場人物の役割の一つ超越者についてである。超越者、この本でいう探偵という役割は元来超能力を用いて、話を進ませていく。感覚的には第三者視点で物語を動かすので、主人公よりも筆者や読者に近いメタ的な部分がある。だからこそ、物語の最後に緑川と千坂の立場が逆転し、千坂が超越者という雲の上の存在から降りてきて緑川の所へ来る、すなわち、付き合うという構図が面白いと思った。これは緑川が才能の有無で人を区別することがなくなったという成長に即して起こっていると考えられる。

しかし、そもそも超越者は千坂や緑川ではなく、終始一貫して風戸だったとも考えられる。千坂と緑川との距離感や起こした行動を考えると物語を支え主人公たちの成長に寄与する役割と考えられる。第1章では、緑川が捉えた暴行の証拠を奪われるのを防ぎ、第3章は放火の被害を抑え,第4章では贋作をつかんだ緑画廊の名誉失墜を防ぐために事件を起こしている。第2章で目立った行動を起こしていないのが不思議だが、おおむね超越者と言っていいと思う。

さて、文章全体の構成は高校の事件2つ、大学の事件2つ、まとめとなっている。第1章では、物語の始まり、つまり、千坂と関係性を示し、第2章で千坂の才が頭角を現し、第3章では才能の差が明確になり、第4章で緑川の画廊としての道と、千坂の画家としての道が明確に分かれ、終章でその道が確定いている。個人的には終章での状況の転換の後の感情の書き方があっさりな気がする。終章は4つの事件の解決パートであるからにして、分量的にもう少しあってもいいのかなと思う。

まとめると、この本は構成の点で見ると面白かった。ただ、ミステリーの側面があるためか、感情の描き方や恋愛の部分が不足しているように感じた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?