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麻雀AIへの批判とMリーグと

近年盛り上がりを見せている麻雀界。Mリーグによる現実世界での盛り上がりはもちろんのこと、最近ではYouTubeなどの動画配信サービスを通したネット麻雀人口の増加も著しいものがある。

ネット麻雀の最初期は「東風荘」が1997年にサービス開始。それが天鳳や雀魂といった現在のネット麻雀につながっている。ネット麻雀が流行していった過程で一つ得られたものは膨大なデータだ。

それまでの麻雀は人力で牌譜を集めるくらい。しかも通常のフリー雀荘などでは記録の残らない対戦がほとんどだろう。しかしネット麻雀であれば自動的に様々な記録を残すことができる。そしてこのデータを活用して生まれたのが麻雀AIである。

多くのデータを用いることでAIに学習を行い、最適戦略を見つけさせる…いわゆるディープラーニングなどと呼ばれる手法である。最初は「爆打」、続いて「NAGA」、さらにはGogle社も「Super Phoenix」というAIを制作している。

天鳳などのネット麻雀のデータを大量に読み込ませ、そこから学ぶ。これにより麻雀AIは少なくともネット麻雀のフィールドにおいてはすでに人間のトッププレイヤーと同等のレベルにまで到達している。

現在、将棋の世界ではAIを用いてプロが指し手を検討し、実戦に投入するという使い方が一般的になってきている。麻雀においてもいずれそういった流れは間違いなく来るだろう。その一端が「NAGA牌譜検討」であるといえる。

牌譜を読み込ませることでNAGAの打牌を確認することができる。主な使い方としては自身の対戦データを読み込ませて、牌譜検討の助けにする…などといったところか。これによってAIという評価の軸を新たに得られるわけだ。

本noteにおいても使用させていただいてるNAGA。本noteではMリーグの試合を牌譜データに起こしてNAGAに読み込ませ、打牌の検討を行っている。

ただそんな記事を書いている中で、ネット上の意見を色々とみていくと、麻雀AIに対する批判的な意見も様々見られた。こういった意見に対してどう受け止めていくべきなのか?その点について本記事でまとめていきたいと思う。

意見1:麻雀AIは弱い

まず第一に前提のような部分であるが、麻雀AIは弱いのではないかという意見を唱える方がいる。この場合、まず弱いという言葉がどこまでのことを指しているか?という話になる。

さすがにNAGAの検討の一部場面を切り取って、AIが弱いと騒ぎ立てているとしたら、その意見は違うと言わざるを得ない。

しかし、「NAGAはある局面においてまだ最適な戦略を選べないでいる」という面においてはこの評価は正しい。麻雀は136枚もの牌を使う上に4人で打ち、かつ相手の手は分からない、というゲームである。したがって局面数が非常に多く、特殊な条件下における評価はまだまだデータ数が足りず、上手くこなせているとは言い難い。

ただ少なくとも全局面を通してみれば、解析が上手くできている部分の方が多い。だからこそ天鳳などで人間のトップレベルに匹敵する段位を残せているものと考えられる。加えて、学習を重ねていけばいずれはこの点についても改善していくことは間違いない。

またAIの人間より確実に強い部分としてミスをしないということが挙げられる。人間は仮に平易な状況であってもミスや打牌選択のふらつきは出てしまうもの。しかしAIは対応ができている状況でさえあれば、常に一定の打牌を選択することができる。これは人間にはない強みだ

まとめると、AIは特定の状況下においてはまだ人間の判断を超えられない部分があるものの、全体を通してみれば人間のトップレベルと同等以上の強さがある、と言えるだろう。弱いというのはさすがに言葉が過ぎるのではないか、と個人的に感ずる。

意見2:麻雀AIのいう通りに打って強くなれるのか?

次にある意見として、AIのいう通りに打っていれば強くなれるのか、ということが挙げられる。もちろん言葉通りに完全に麻雀AIのいうことを全場面で遂行することができるのであれば、必ず強くなれるだろう。

しかし、実際の人間というのはそうは上手くできていない。AIの打牌を完全に模倣するといっても、麻雀における局面はそれこそ無数にあり、その全てを記憶したりすることは不可能だ。

さらにこういったAIは自身の打牌の理由を教えてくれるわけではない。せめてどういった理由でこの打牌を行ったかをAIの側から教えてくれれば、それを分類して人間に落とし込んで模倣することもある程度は可能だろう。

だが実際にはその評価はブラックボックスであり人間には原理上分からない。するとそもそもの話としてAIの通りに人間が麻雀を打つということ自体が無謀な試みだといえる。

付け加えていうなら、意見1の項目でも述べた通りまだAIではうまく対応できない場面というものも存在する。そういった意味でもAIのいう通りにするというのは難しいだろう。

であるから、発想は逆でなければならない。自身の麻雀対局の疑問点に対し、AIに回答を求め、その回答理由について自分自身で考えることで、麻雀の打ち方を修正する。よりAIが高度になっていけば打牌理由を解説してくれるAIも出てくるのだろうが、それは難しい話。現時点ではAIと共存していく姿勢が必要である。

意見3:AIに頼りすぎることで没個性的な打ち手が増えたら、プロの試合が面白くなくなるのでは?

麻雀プロが麻雀AIに評価されることで、プロ全体としてその打ち方に近づいていき、没個性的な打ち手が増加し試合がおもしろくなくなるのではないかという意見も見られた。

意見2で述べたように人間は完全にはAIの打牌を模倣できない。加えて人間はミスをするという前提に立つと、そもそも完全に真似ようというのは非効率的だろう。

また、AIを参考にするようになったとしても、少なくとも現状では麻雀の最適戦略が見つかっているわけではない。NAGAも標準である「ニシキ」以外にも副露派のωや守備重視のγ、メンゼン派のヒバカリなど、様々な戦術タイプがある。

いくつかの戦術が考えられる場面では対人としての駆け引きが発生する。これはAIにはない面白さだろう。仮にAIがより進歩し、完全に麻雀という競技が解明され、戦術の幅が狭まったとしても、打牌選択にあまり差のない場面ではあえて多少損な方を選んで相手を攪乱する作戦は人間同士では十分に考えられる。

これは将棋などでも同じようなことが起きているものと個人的には感じている。将棋の世界では麻雀よりもAIの導入は進んでいるが、全く将棋の人気に陰りはない。それどころかAIの評価が見られるようになったことで形勢判断がしやすくなり、初心者レベルの方の観戦も増えている。

加えて将棋AIが導入されても将棋の戦法は統一されていない。AIで結論が出ている場面でも本人が知らなければ何の意味もないのだから、自分だけの戦術を持っていけば人間同士でやる意味がある。

結論としては人間である以上、もともとAIの模倣は難しい。それに加えてAIを模倣していったとしても、必ず対人戦としての駆け引きが発生するのだから、面白くなくなることはないだろう。

補足:NAGA度について

このテーマに付随して、NAGA度の見方についても考えたい。麻雀プロと麻雀AIを比較する際の分かりやすい物差しとして出されるのがNAGA度。実際、本noteでもNAGA度によるMリーガーランキングなどを作成している。

しかしここまでで書いた通り、AIというものはまだ発展途上にあり、完全なものでもない。NAGA度も数あるうちのデータの一つとして扱うべきだろう。

NAGA度が高ければ、どんな場面でも一定に得な選択をできる可能性が高く、成績が安定しやすいものと考えられる。一方でNAGA度が低いということは常人では思いつきにくい一打を打ってくる、と考えられる。いずれもプロとして大事なことではないだろうか。NAGA度の高低もあくまで一つの目安と考えたい。

意見4:Mリーグとネット麻雀ではフィールドが違うため、NAGAの意見は当てにならないのでは?

この意見もよく散見されるように思う。ハッキリいってこれは全くごもっともである。もともとネット麻雀のデータを用いて学習を行ったNAGAというAIは4着を回避することに長けている。加えて不特定多数の人間と無限回対局を行う、という前提の打ちスジである。

一方でMリーグは4着を回避することの重要度はやや下がり、トップを取ることの重要性が上がる。そこに同じ相手と短期間で争うという要素も加わる。ネット麻雀とは全く違う環境といっていい。

だがいずれにせよ、麻雀という競技に取り組んでいることはどちらでも変わっていない。注目すべきパラメータの比重が変わるだけであって、全く当てにならない結論を出すわけではない。

またフィールドが違うということを横に置いても、もともとAIというものは常に正しい結論を出すわけではない。AIを盲信するでもなく、信じないわけでもなく、「一つの意見」として受け入れるのが正しいあり方ではないだろうか。本noteの記事もデータの一つとして参考にしていただければ幸いである。

ただいずれはMリーグの牌譜にフィットしたAIが生み出される未来を期待したいものである。

まとめ

麻雀AIは未だ発展の途上にあり、完全な正解ではない。仮により完成に近づいていったとしても、それは人間の打つ麻雀の面白さを損なうことを意味しない。AIを数ある内の意見の一つとして受け止め、共存していくことがより面白い麻雀観戦につながっていくのではないだろうか。

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