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現役最強・多井隆晴プロを麻雀AI「NAGA」で評価できないという問題

渋谷ABEMASのエースとしてMリーグで活躍している多井隆晴プロ。Mリーグに限らず、麻雀界のトップとして語られる存在であり、現役最強の呼び声が高い。

だが一方で、多井プロの実力をNAGAでは上手く評価できない。現時点で筆者が持っているNAGA度のデータを総合すると、多井プロはMリーガー32人中の23位(1月15日時点)となる。

NAGA度とはプレイヤーの打牌がどの程度NAGAの選択と一致していたかという値のことを指す。基本的にはレベルの高いプレイヤーであればNAGA度も高くなりやすい。

Mリーグの試合数をもっと行う中でNAGA度が上下していく可能性は多分にあるが、それほど大きく変動するということも考えにくい。Mリーグで最も好成績を挙げているプロが、麻雀AIの評価においては全体の下位に来てしまう。これがAIの難しいところだ。

ではなぜ多井プロの評価が低く見積もられてしまうのか?主な原因として筆者が考えるものは以下の3つだ。

1.守備型の打ち手の評価が低い

多井プロは守備型の打ち手としてよく知られるが、もともとNAGAの中で守備型の麻雀スタイルというものの評価があまり高くないように思われる。以前もnoteで書いたが、NAGAに限らず麻雀AIは人間より遙か上の押し引き判断を全くミスなく行うことができる。

加えて麻雀というゲームの本質として自身がアガりを決めない限り、ほぼ点数が増える局面がなく、勝ちに近づかないというものがある。

この2つの要素が合わさった結果、ギリギリまで攻めて、やめる場面になったらピタッとやめるというのが麻雀AIの基本のスタイルとなる。守備型の打ち手というのはそもそもそういったギリギリの場面での競り合いにならないように手牌進行を行う。これがNAGAからすると評価が下がる点となってしまう。

2.仕掛けのバランスが異なる

NAGAは元々ネット麻雀「天鳳」の牌譜を参考にしている。天鳳のルールはMリーグのルールと違い、とにかく4着になりさえしなければ良いというところが大きい、いわゆる「ラス回避」の麻雀である。

ラス回避を行う麻雀がどういうものになるかというと、先手を取って仕掛けていき、アガりの回数を増やすというのが基本戦術となる。失点機会を減らすことで平均的に着順を安定させようという戦略である。

一方でMリーグでは順位点の影響により、ラスを回避することよりトップを取ることの比重が大きい。この場合、闇雲に仕掛けるより狙えるときは思い切って高打点を狙っていくことも必要になる。

このあたりの仕掛けとメンゼンにおけるバランスがMリーグと天鳳で異なってくるため、NAGAで評価しにくい。

3.人読みの存在

そしてNAGAにおいてもう一つ評価できていない点が「不特定多数」と「限られたメンバー」という戦う相手の違いである。

NAGAの参考にしている天鳳は不特定多数の相手と戦うことを前提にしている。したがって人読みなどの要素はほぼあり得ず、自身の手牌と相手の河のみを参考にして打牌を決めることになる。

他方、Mリーグではある選手が戦うのは自チームの選手を除いたたった28名。この少ない人数の相手と何回も戦う場合には人読みの要素は無視できない。実際、多井プロは自身のYouTubeチャンネルなどでたびたび仰っているが、全Mリーガーに対して相当の研究を行っているという。この点はどうしてもNAGAには評価できない点となってしまう。


以上のように、多井プロが活かしている「能力」というものが現状のNAGAでは上手く評価できない部分が大きい。この結果、NAGAの中では多井プロの評価は低いものとなってしまう。

この評価を変えるために思いつく簡単な方法は、NAGAの学習データをMリーグの試合に変えるというものだ。そうすれば自ずとMリーグではどういった打ち方が勝ちやすいのか、ということが評価できるAIにNAGAが変容していくはずである。

しかし現状ではMリーグはまだ5年ほどしか開催されておらず、学習のデータとしてあまりに少ない。多井プロの打ち方がAIで評価できるようになる日が来るのだろうか?そんな日を待ちつつ、今日もMリーグを観る。





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