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みーちゃんとママ⑤ おばあちゃんち

みーちゃんはお休みの日にときどき、田舎のおばあちゃんちに行く。みーちゃんの住むマンションから車で三十分くらいのところに、おじいちゃんとおばあちゃんが住んでいる。
おばあちゃんの家は古くてぼろぼろだ。
家の隣に物置小屋があって、その前に花壇と庭がある。庭の向こうに古い木造の車庫があり、車庫には軽トラックとジープ、白い乗用車があって、その脇にはすすけて白くなった「とうみ」や、鍬やすきといった古い農具がある。
おじいちゃんとおばあちゃんは田んぼでお米を作ったり、畑で野菜を育てたりして暮らしている。
おばあちゃんちに着くと、南側正面の縁側から家に入る。西側に玄関があるのだけれど、そちらから入ることはあまりない。
みーちゃんと弟は車を降りると走っていき、縁側から靴をポンポンと脱いで部屋にあがる。
「おばあちゃん!」みーちゃんと弟は大きな声で呼ぶ。
「はいはい、よく来たね」おばあちゃんはタオルで手を拭きながら、台所から出てくる。
おばあちゃんはいつも台所で何か作っている。おばあちゃんの家には冷蔵庫が二つあり、タッパーやポリ袋に入った謎の物体がぐちゃぐちゃと冷蔵庫いっぱいに押し込まれている。
おばあちゃんはいつも変な服を着ている。
おばあちゃんは自分で服を作る。おばあちゃんの中で、「ワンピースブーム」や「ステテコブーム」がくると、しばらくおばあちゃんはワンピースやステテコを大量に作る。布地はどこで買うのか知らないけど、変な柄が入っている。おばあちゃんの着ている服は、一目見ただけでおばあちゃんの手作りだとわかる。
みーちゃんと弟は、おばあちゃんと一緒におやつを作ったり、畑のにんじんを抜いたり、庭の花に水をやったり、おばあちゃんと一緒にWiiをして遊ぶ。
おばあちゃんは小学校の先生だったので、小さい子どもと過ごすのに慣れていてる。
みーちゃんたちがおばあちゃんと遊んでいる間、ママは、薄暗くてひんやりした仏間の畳の上に寝ころんでいる。そしてスマホをいじったり、目をつぶって考え事をしたりしている。
おじいちゃんは、ママはゴロゴロしてばかりだ、と小言を言う。
「ここには休憩に来ているんだからいいじゃない」おばあちゃんは言う。
ママはそんな会話をちゃんと聞いているけれど、聞こえないふりをしている。
ママはしばらくして仏間から出てくると、
「お散歩に行こうか」と言う。
「行く!」みーちゃんと弟は靴を履き、ママと一緒に外に出る。
三人は畑沿いの道を歩き、竹藪に囲まれた薄暗い坂道を下る。竹藪を抜けると視界が開けて明るくなる。歩き続けると左手に神社の入り口、右手に藤棚に覆われた井戸がある。
井戸からは水が溢れ出し、溢れた水は水路を通って側溝に流れていく。みーちゃんたちの目的地は、その井戸だ。
みーちゃんたちは藤棚の下に入り、井戸で手を洗い、柄杓で水を飲む。水は冷たい。光を反射してゆらゆら揺れる水面をながめ、途中で取った笹の葉を流してみたりする。
井戸を出ると、車一台がやっと通れるほどの山沿いの道を歩く。山の裾には田んぼが広がり、向こうの山の斜面には民家がぽつぽつと見える。足元には、夏にはミミズの乾いた死骸、秋には柿や栗が落ちている。道沿いの竹藪に飲み込まれたような廃屋や、昔の防空壕だという暗い穴を見ながら進み、三人は公民館にたどり着く。
公民館の広い敷地には錆びたすべり台があって、みーちゃんたちはこのすべり台でしばらく遊ぶ。
公民館はもともと誰かが住んでいた古い家だ。ママは小さいころに中に入ったことがある。大きな部屋の天井は鏡になっていて、気味の悪い家だった。
公民館を出て長い急な坂道を上ると、おばあちゃんちに帰り着く。
帰ると、おばあちゃんがおやつを用意してくれる。おばあちゃんのおやつは、その日おばあちゃんが試作した変なおやつ、例えばチョコレート饅頭や人参ケーキといったおやつだ。みーちゃんはおばあちゃん手作りのおやつがあまり好きじゃなくて、本当は「おっとっと」が食べたい。
夕方になる前にみーちゃんたちはマンションに帰る。
みーちゃんたちが車に乗り込むとき、おじいちゃんとおばあちゃんも庭に出てくる。
「またおいで」
みーちゃんは車の窓から手を出して、おじいちゃん、おばあちゃんとタッチする。
「バイバーイ!」みーちゃんと弟は、おばあちゃんたちが見えなくなるまで手を振る。
おじいちゃんとおばあちゃんも庭に立って、見えなくなるまで手を振ってくれる。

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