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メモをとる。ただそれだけのことが難しい

「あんなもん、コロちゃんのエサじゃ。」

先輩は、私の好きだったコアラパンというお菓子をそんな風に言い放つ豪快な女性だった。
ちなみにコロちゃんというのは先輩の実家にいる柴犬のことだった。

「山下さん。もっとちゃんとメモを取りなさい。」

社会人になって半年の頃。
そうやって店長に諭された。
私は同じお店で働く先輩社員と比べて、言われたことを忘れてミスしがちだった。
そう言われて当然だったと思う。

ちなみに先輩は、メモをとるのも職場の複合機から抜き取ったA4サイズのコピー用紙。

私も負けずにコピー用紙を手に仕事を書き出したり、朝礼でメモを取って頑張ろうとしていた。
けれどもこれがどうしてもしっくりこない。

お店での仕事は基本立ち仕事だ。
クリップボードがなければコピー用紙は扱いづらい。
しかし、お客様から商品をお預かりしたり、家具を運んだりとクリップボードを手にしていては仕事ができない。
そしてクリップボードを手放したが最後、どこに置いたのか忘れてパニック状態に突入してしまうといった有様だった。

メモをとる。
そんな社会人としての基本中の基本のことさえ、私にとっては難しかった。

だから私は諦めた。
もちろん、メモをとることを諦めるのはさすがにまた店長に怒られる。
私がコロちゃんのエサにされかねない。
要するに、私は自分の力ではなく道具の力に頼ることにしたのだ。

弘法、筆を選ばずという有名なことわざは知っている。
でも、弘法だってできればいい筆で書いたほうが納得できる字が書けたのではないか。
そもそも、私程度の凡人が道具の能力に合わせていい仕事ができるはずがない。

それから私の自分探しならぬ、理想のメモ帳探しの旅がはじまった。

文庫本のようなノートを試した
パスポートのようなノートも試した
ダブルリングタイプのノートも試したし
フラットに開けるタイプのノートだって試した
あのゴッホやピカソも愛したなんて触れ込みの高級なノートだって買ってみた。

でも、納得の行くメモはとれない。

スマホを使ってメモを入力したり
apple watchを使って音声入力をしたり
ソニー製の電子ペーパーを使った端末に記入したり
テキストしか入力できない機械であるキングジムのポメラを試したり
ノートに手書きした内容をデジタル変換するハイブリットタイプにも挑戦した。

それでもメモは続かなかった。
正直、メモすることがここまで苦手だとは思っていなかった。

私にとって、メモを取ることはシャボン玉をスケッチすることに似ていると思っている。

ひらめいたアイデアなり、やらなきゃいけないことなり、なんなり。
すぐ割れて消え去ってしまう。
ちょっとメモを探して目を離したり、ペンをごそごそと出している間にきれいさっぱりいなくなってる。
新しいページを探して、過去のページをめくっていた時に目に入った過去の文章を見た瞬間、別の情報という名の突風に煽られたかのようにどこかへ飛んでいってしまうところも似てる。
そしてパッと見て他のシャボン玉との違いも見分けがつかない。
とるにたらない考えだし、今思いついたのだから後からでも思い出せるだろうと侮っていると・・・二度と出会えなかったりする。

しかもシャボン玉はいつ生まれるかわからない。
誰かからの会話で生まれるかもしれないし、散歩していて思いつくかもしれない。

シャボン玉を刺激してしまわないように優しく。
かつスムーズな動作で書き留めなければいけない。

私のようなズボラで面倒くさがりな人間にはそもそもできない高尚な行為なのではないか。

そうやって様々なメモ帳を試した結果、私はようやく1冊のメモ帳に出会った。

それは、「すぐログ」という名の小さなメモ帳だった。

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手帳で知られるダイゴー社から販売されている「すぐログ」は、同社のロングセラーな商品「ジェットエース」を元にしている。
ジェットエースは鉛筆付きのミニ手帳という、見るからに昭和な香りが漂う道具だ。

「すぐログ」は、そのジェットエースを愛用してきたステーショナリーディレクター 土橋正さんの企画・監修によって現代の人々が使いやすいように工夫を加えたメモ帳だ。
基本的な使い勝手はそのままに、ビジネスやカジュアルな場でも使えるような色使いで、手にとってみたくなるメモ帳になっている。

土橋さんのジェットエースへの熱い想いは、土橋さんのHPでも確認できるので興味があればぜひサイトで読んでみてほしい。

メモ帳を探し求めてはや数年。
お店の店長になった私はいまだにメモ帳を探し求めていた。

「主婦のアルバイトさんの不満をメモしたい」

私がこのメモ帳「すぐログ」を買ったのはそんな理由だった。
それはなにも陰湿に店舗のスタッフの揚げ足をとるためではない。
会社での取り組みである「改善提案制度」のネタを探していたからだった。

でも、わかりやすく育つ改善のアイデア、植物で言えば芽なんてそうそう見つからない。
まずは改善すべきタネ。つまりは「問題」をみつけるために、私は主婦のアルバイトさんに注目していた。

過去には他社での社会人経験もある主婦のアルバイトさんの不満や愚痴。
それを咎めるのではなく、ダダ漏れにしてもらったら会社の問題点が見えてくるのではないだろうか。そう思ったのである。

ただ、改まった場で訊いても、忘れてたり遠慮してたりして生の声はひろえない。
ふつうに働いていてミスをした内容や、漏れ出た不満をいつでもキャッチしたい。
そんな試行錯誤していた時にこのメモ帳のことを知って試し始めた。

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まず手帳のサイズ。
で名刺よりも一回り大きいぐらいで、ポケットにも気軽に入れられるサイズだ。
表紙もしっかりしているため、ラフに扱っても安心できる。

いつでもメモを取るには、そもそもいつでもメモを持っている必要がある。
すごく当たり前のことだけど、意外と見落としがちなことである。

高級なノートだと重さが気になったり、大きいノートはカバンから出すのを忘れていたり、何かの作業のためにどこかに置き忘れてしまいがち。
でもこのすぐログの軽さとサイズ感ならポケットさえあればいつでも持ち歩くことができた。
近い使用感なのはスマホだけど、スマホには電池切れと、仕事中に使うのが失礼にみられる職種が存在する。
その点、すぐログなら電池切れや、使っていて文句を言われたりする心配はない。

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続いてしおり紐
これがなければ意外とメモをとらずに諦める原因になってしまう。
メモを取り出して、どこのページまで書いたっけ・・・と探してるうちに目に入った過去のメモ書き。
そんな些細な衝撃で書こうとしたことを忘れてしまう。
書き込める白いページが一発で開くということが、メモをとっさに取るには重要な機能だと私は感じている。

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そして、しおり紐を引っ張ってページを開く行為からシームレスに引き出される鉛筆。
これがまた馬鹿にできない重要な要素になっている。

メモが手元にないのはもちろん論外だけど、ペンが手元になくてメモをとるのを諦めることも私にはよくある。
小型のボールペンも色々とポケットに入れて持ち歩いたりしたけれど、常に持ち歩くのであればメモと合体しているに越したことはない。
鉛筆の芯が折れる心配も、すぐログは円筒の形をした鉛筆を入れるスペースがあるために守られており、5年近く使っていても数度しか経験したことがない。

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あとは、鉛筆で書きたいことを書くだけ。
鉛筆にはキャップもノックするボタンすらない。
手にとった瞬間書き始めることができることが、行動のスムーズさにつながっている。
もちろんインクがページを閉じた際に移ったりする心配がないのもいい。

この「すぐログ」を手にした私は主婦のアルバイトさんの不満をメモしてメモしてメモしまくった。
結果として全国に300以上ある店舗の中で2年続けてトップレベルの改善提案数を出し、表彰を受けることができた。
そこで得た賞金はハーゲンダッツとなって主婦の皆さんのお腹を満たすことができたので良かったと思う。

メモしたい時にメモが手元にない。
メモしたい時に、新しいページがすぐに開かない。
メモをしたい時に、ペンが手元にない。

「すぐログ」を使い始めるまで、私を苦しめてきた「メモがとれない」という悩み。
その原因は、振り返って思えば上記のような内容だったのだと思う。

いつでも携帯できる。
メモするページがすぐ開く。
ページを開きながら鉛筆が取り出せるのですぐメモできる。

それに対して「すぐログ」にできるのはこれだけ。
そこにはなんのデジタルさも、最新の通信規格も登場しない。

でも意外と見過ごされている基本的なことを解決してくれているのだと思う。

前の職場を離れて、立ち仕事が減ったしパソコンのメモ帳を使ってもいい。
主婦の不満を耳にすることも今はない。

だけどnoteを書くようになって、私はもう一度すぐログを使い始めた。

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常に持ち歩くために交通系ICカードを、無印良品で買ったポケットをつけれるシールで入れていつも持ち歩いている。

これなら外出する際にポケットに入れて置かなければ電車に乗れないので、強制的に携帯できる。
そのくらいしないと私はメモをとらない。
それぐらいめんどくさがりだ。

メモをとる。

それだけのことが私にとってはこんなにも難しい。

でも、そんな自分でもメモがとれる方法を考えることは楽しいし、だから私は文具屋をやっているのだと思う。

お店をやってる方だけでなく、メモすることに悩んでいるたくさんの人に試してもらいたいと思います。

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