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「なぜお店を始めたの?」という問いが、改めて突きつけられた話

「インターネットでやった方が効率的でしょ」

場所を借りて、棚や備品を揃えてリアル店舗を構えていると、そんなことも言われる。
家賃もかかるし、暇な日だってある。
ネットストアであれば、24時間365日自動で商品を販売することができるんだから、実際にお店という場をもつ必要があるのか??と。

「なぜお店を始めたの?」という質問は、一昔前であれば「商売をするためには必要に決まってるだろ。なんでそんなことを訊くんだ?」というようなものだっただろうけど、新型コロナウイルスの影響下で更に進んだネット全盛の時代には、「わざわざ余計なコストをかけてまでお店を始めたの?」という意味合いまで含んでくる。

文具店を個人で営む自分としても、リアル店舗を持ちつつ活躍されるいろんな人の話を訊いてみたい。
そんな願望は唐突に叶うことになった。

きっかけは、デザイナーとして活躍する一方、下北沢にリアル店舗も構えるTENTさんが本を出版されたということで、大阪で記念イベントをする場所を探しておられたことだった。
昔からTENTさんのプロダクトのファンであり、商品を取り扱っているうちのお店としては、ぜひお話を訊いてみたいのは当たり前。
大阪を代表する書店「スタンダードブックストア」の中川さんにご相談し、先日12月21日に実際イベントを開催することができた。

イベントには、TENTの青木さん、スタンダードブックストアの中川さん、更にはフライパンジュウ等のヒット商品や工場併設ショップや工場見学の試みで注目を集める藤田金属の代表の藤田さんまでお招きすることができ、「作るとか、売るとか」という私が聞きたい内容をそのままテーマにさせて頂いて、開催することになった。
突然決まったイベントということもあって、告知期間は2週間と短めだったにも関わらず、会場は満席で立ち見も出るというありがたい結果となった。

今回はそんなイベントで感じた「お店を持つ意味」について、簡単ではあるがご紹介したい。

使う人の反応が見える場所

藤田金属さんには、とてもかっこいい工場併設型のショップがある。
自分たちが小学校の頃に、クラスの皆でいったような大規模工場の見学は覚えているけれど、町工場がこれだけかっこいいスペースを作っているというのは見たことがなくて、工場全体を見ることができるこのスペースは本当にたまらない。

ベランダのようになっているスペースでは、工場の匂いや空気を感じながら、働く人の動きもカメラを通して見ることができる徹底ぶり。
フライパンを買いに来た人も、作っている姿を実際に見ることができるし、フライパンを作っている人も、買いに来た人の様子を見ることができる。

工場で働く人々が、お客さんの様子に一喜一憂していたのは2週間程度で、それ以降は「慣れてきた」のか騒がなくなったというのが、また面白い。
ただ、それまで音を立てて置いていた工場内の物も静かに置かれるようになったし、制服もかっこよくなっていったという。

TENTの青木さんも、自分で作った商品を販売してみることで「いい商品を作ってくれてありがとう」とお金を払う側であるお客さんが感謝の言葉を伝えてくれることに、すごく心を動かされたという。
それは、普段お店で働いている自分からすると「当たり前」なことなのだけど、「作る」と「売る」が分離された現代では、意図的にお店を始めなければ出会えない光景なのだと改めて感じさせられた。

どんな人が買っているのかを、大きな会社がデータにした時。
性別・年齢・職種など、アンケートにとったりすることはできるだろうし、実践されていると思う。
でも改めて考えてみれば、目の前の生きている一人のお客様に出会うことの情報密度は全然違う。
声のトーン、来ている服、こちらを見る眼差し。
五感を通して伝わってくる使い手の情報を得ることは、商品を作るために必要な情報であることはもちろん、自分の作ったものがどんなふうに受け入れられて、喜ばれたりしているのかという実感やそこから得られるやりがいにも繋がっていく。

それが商品にどんなふうに影響するのか数値にしろと言われたら難しいのだろうけど、数値化できない情報だからこそ、直接出会って受け取るしかないのかもしれない。
もちろんその情報を受け取るのは、買い手であるお客さんもまた同じで、ネットで数値や写真に収められる範囲は読み取れるけど、場の匂いや会話でしか得られないものが、より新鮮に感じられるための装置として、お店は重要な役割をもっているのではないかと感じられた。

売ってもらう場所がなくても作って売ることができる

メーカーに声をかけてもらって作ってもらったり、どこかお店に置いてもらわないとオリジナルの商品は出せない。
それは今だって多くの人が感じていることだと思う。

TENTの青木さんも始めから自分で商品を作って売ろうとしていなかったという話はすごく面白かったとともに勇気づけられる話だった。

TENTさんを代表するアイテムとして長く愛されてきた「BOOK on BOOK」というアイテムも、始めから自分で売ろう!という感じではなかったらしい。
けれど、メーカーに出してもらう話も進まず、試しに見積もりをとってみたら「20万円」あれば、30個というロット数で商品は作れることがわかった。

海外旅行を我慢すれば出せる金額に、青木さんは挑戦することを決めた。
1個売れた後、3ヶ月売れなかった期間に、この商品は一生かけて売らないといけないんだと思ったという話はすごく生々しい。
でもそれが、アシストオンさんというお店で取り扱われ、朝のニュースに出たことをきっかけに売れていく流れに、すごく大切な工程だと感じたという。

藤田金属さんと作ったフライパンジュウも、はじめから数を作らずに少しずつ取り組んでいったそうで、今のように日本だけでなく世界で売れるようになった姿からは想像できない、地味で恐る恐るな期間が存在していたことをイベントでは教えていただいた。

クラウドファンディングが一般になった今となっては、そういったことも誰もがチャレンジできることのように思える。
けれど、実はクラウドファンディングの世界だって、販促費を出して海外から輸入した商品を売りさばこうという取り組みも見かけるし、お祭り騒ぎとしての側面が強いのだけど、TENTさんたちの取り組みは一歩一歩の積み重ねが地に足をついている。

それも、ネットストアや実店舗を持つことによって、誰かに売ってもらわなくても自分たちのペースで自分たちで売る!という土壌があってこそ可能なのだと思い知らされた。

じゃあ、売る方も作ったらええねんや

TENTさんと藤田金属さんのお話を聞けば聞くほど、お店をやっている自分たちもなにかやらなければならないというような焦りを感じてくる。

ただ、3回クラウドファンディングにも挑戦して、オリジナル商品を作っているうちのお店も、作れば作るほどその難しさを感じている。
ものを作るために必要な知識は、本当にたくさんあって、チャレンジするたびに打ちのめされている。

そんな時に、書籍にも載っていたデザイナーさんを探す方法や、デザイナーさんに頼る方法についてもお話をしていたのだけど、結局は「人」としてどう商品のことを考えていくのかが噛み合う相手かどうかというのが大切ということも、トークイベントで改めて感じさせられた。

メーカーやデザイナーさんが変わっていく。
じゃあ、小売店はどうすればいい?

その答えはイベントが終わって数日たった今もまだ出ていないし、言葉にしたところで返事はないのだと思う。
うちのお店は、来年もお店の良さを活かしながら、こうじゃないかと思ったことをひたすら実践して試していきたい。
イベントを通して、お店をやることの意味を改めて見返すきっかけになったので、改めてイベントに関わった全ての皆様に感謝をお伝えしたい。
ありがとうございました。

そして、このnoteが「お店」のことを考えている誰かの思考のきっかけになれば嬉しいです。

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