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「日本を旅する文具店」が九州を縦断して、「山下の山」を探してきた話

「山下の山って、具体的にどこの山を指すんだろう」

そんな疑問を日本全国におよそ40万人がいるという全山下さんが思ったことがあるのではないだろうか。
山中さんや山上さんも思ったことがあると思うし、山田さんだって気になってるはずだ。

とはいえ、全国でも学校に1人くらいはいた「山下」という名字から、どの山か探すことは難しい。
ただ、それは普通の山下さんであるケースだ。

九州の鹿児島県の西側には「甑島(コシキジマ)」と呼ばれる島があることをご存知だろうか。
Dr.コトー診療所という作品のモデルにもなったという島は、山下家のルーツだったらしく、曽祖父の頃はまだ島で暮らしていたと聞く。
ということは、先祖代々甑島に住んでいた可能性も高い。
きっとそこに行けば「山下の山」があるかもしれない!

そんな個人的な想いも持ちつつ、いってきました九州縦断移動販売の旅。
北海道、東京に続いて日本縦断移動販売の旅を締めくくる小さな文具屋の取り組みを、よろしければご覧いただければ嬉しい。

1〜3日目 フェリーと陸路で太宰府での移動販売

関西から九州の玄関口である門司へは、神戸港からフェリーが出ている。
なるべく車と自分を消耗させないためにも、北海道同様に今回もフェリーを活用することにした。

阪九フェリーを使うと夕方18時くらいに神戸を出て、朝の9時頃には新門司の港にたどり着くことができる。
思えばフェリーに乗るのも今年で5度目。
手早く乗船手続きを済ませ、酔い止めをのんでフェリーに乗船し、深夜バス感覚で九州へと旅立つことにした。

北海道でのフェリー旅の経験から、今回は奮発して個室を選択。
どうしてもドミトリー形式の船旅では、盗難などのリスクを気にしながら手荷物を管理しなければならないという緊張感が少なからずある。
今回思い切って使用した個室は、プライベートもオートロックもしっかりしているため、安心感を持って使用することができた。

神戸を出港してしばらくすると、「まもなく明石海峡大橋の下を通ります」というアナウンス。
普段は見ることのできない大きな橋の下を覗くことができるという体験に、無性にワクワクさせていただきながら就寝。

目が覚めると既に朝日が昇っていて、顔を洗ったり大浴場で朝風呂に浸かっていれば新門司に到着。
北海道では持て余していた船上での時間も、このぐらいであればちょうどいい。

そそくさと移動販売車に乗り込んで、目指すのは太宰府。
学問の神様としても有名な菅原道真公を祀る土地の近くに、今回1つ目の移動販売出店ポイントがあった。

今回移動販売をさせていただいたのはSiNGさんというシリコーンのアイテムの製造やオリジナルアイテムも販売されている「SiNG STOCK & SERVICE」さん

店内にはカフェもあり、シリコーンで作られたアイテムを器としても使用。
プリンやコーヒーを実際に味わうことができる。

今回は移動販売車をおけるスペースが店舗と少し離れていたこともあって、店内でポップアップをさせていただいた。
移動販売車にはおなじみのオレンジのタペストリーを取り付けて置いておくことで、開催場所のいい目印となってくれた。

開催期間中には福岡だけでなく、佐賀県からも駆けつけてくださったお客様もいらっしゃり、盛況のうちに終了することができた。
ネットストアを通じて買い物をしてくださっていたり、SNSでは交流されているお客様と実際にお会いすることができて、改めて移動販売&リアルイベントの醍醐味を感じることができた。

また、SiNGさんの店舗では商品の色を調整していく過程を目の前で見せていただくことができた。
パソコンで商品の色を選択すればポンと印刷されるわけではなく、地道に色を重ね合わせてシリコーンに色をつけていく作業は地道で熟練の技能が必要される過程なのだと目の前で実感することができたことがとてもありがたい。
今回オリジナルで2色のキーリングを製造していただいたので、そのうちお店でも販売したいと考えているので楽しみにして頂けると嬉しい。

4〜5日目 福岡の名所と名店巡り

SiNGさんでのイベントを終えると、次の週末までの自由時間が発生する。
この時間は宿泊費などを考えればコストとなってしまうのだけど、普段訪れることができない土地で、いい場所、いいお店、さらには美味しい食べ物が待っている。

まず訪れたのは、お店の近くにあった「竈門(かまど)神社」
全く関係ないのに「鬼滅の刃」のブームによって訪れる人が増えたという話をきいていた神社でもあり、名前だけ聞いていた私もどんな場所かは気になってしょうがなかった。

竈門神社さん自体には鬼滅に乗っかろうという展開は一切なかったのだけど、駐車場に置いてある近場の銭湯ののぼりの柄と、「寝瑠子(ねるこ)」「炭治郎(すみじろう)」が気になって仕方なかったのはここだけの話。

そして大宰府といえば太宰府天満宮。

現在本殿は改修中のようで、仮の建物が前に建っていたのだけど、仮の建物の屋根には植物満載で気合の入りっぷりが半端ではなかった。

更に太宰府天満宮の敷地内ではダイハツさんの「Nibako」を発見!

ダイハツさんに直接取材に行かせていただいたNibakoが実際に運用されているところを九州で見ることができるとは予想もしてなかったので、旅のめぐり合わせにとても嬉しくなった。

福岡市内では、いつ来てもかっこいい「THE STANDARD MANUAL」さんのお店や

自分が文具屋さんを始めるきっかけとして多大な影響を受けた「PLASE STORE」さんにもお邪魔することができた。
この2店舗でお買い物しているだけで、1日が過ぎていくほどの素敵なお店だったので、福岡市内に立ち寄ることがあればぜひぜひ行ってみてほしい。

そして、翌日訪れたのは「アイデアスイッチ」さん
ワークショップなども行いながら文具をつかう楽しみを知ることができる素敵な文具屋さんで、私も福岡在住時代に足繁く通わせていただいたお店だ。

当初はお買い物に寄らせて頂くだけの予定だったのだけど、せっかく移動販売車でいくのならということで、買い物を楽しみながら店内でプチポップアップまで開催させていただいたので感謝しかない。

こんなふうに、ただ旅行や出張をするのではなく、訪れた先でそのまま商いを行うことができる機会が増えていったのなら、それは新しい働き方と言えてしまうのかもしれないと、そんな可能性まで感じてしまった。

さらにアイデアスイッチさんの店内ではオリジナルスタンプまで作ることができた。

旅行といえばスタンプ集めだろうということで、提案されたときには全然思いついていなかった部分に刺激をいただけるのが、一人の頭でできないことができるという旅の醍醐味と言えるのかもしれない。
偶然に居合わせたお客様がいなければブラックのインクにしてしまっただろうけど、ブルーの方がいい!というご意見を頂いてブルーで作成。
確かに旅先で置いてあるスタンプ台のイメージに、ブルーで作るだけでグッと近づいた。
移動販売車のコンテンツもこうやって少しずつ増やしていくことができたらいいなと思う。

そして食。
暖暮のラーメン、梅が枝餅、ゴマサバ、海鮮。
おすすめいただく何もかもが素晴らしく美味しい。
ただただ舌鼓を打って、いい思い出に包まれた福岡滞在となった。

6〜8日目 ひたすら南下 そしてルーツへ

実はここから先のルートは、最後の最後まで迷っていた。
①行ったことのない長崎を通って鹿児島の出店先である霧島を目指すルート
②阿蘇山や別府温泉を巡って南下していくルート
③そして自分のルーツでもある甑島にいってみるルート

3つのルートが常に頭の中にあった。
一番興味があったのは③だったのだけど、島に渡る以上フェリー代もかかり、なんならその日に帰る便がないので1泊しなければならなくなる。

コストのことも考えれば無難な①や②を選ぶべきだったのだけど、コストを度外視して一番おもしろいのはどのルートかと考えた結果③を選ぶことにした。

まず300km以上の道のりを1日目に南下。
港までアクセスの良いエリアまでグッと南下してしまうことにした。

山の中にある温泉地で宿をとり、町中華の名店でしっかりご飯を食べて、翌日の島へのパワーを蓄えることにした。

そして翌日は余裕をもってフェリーに乗船。
2時間半ほどフェリーに揺られて、遂に甑島にたどり着く。

たどり着いてすぐわかったのは、山下の山は特定できないということ。
というのも、島の殆どがそもそも「山」なのである。

https://ja.wikipedia.org/wiki/甑島列島より引用 甑島列島地形図

グーグルマップで見ても一目瞭然。
殆どが山で構成された島の姿を見れば、どれが山とかではなく、甑島そのものが山にも近い印象を抱くことができる。
中でも山下家のルーツは下甑と呼ばれる南側の島だというから、海辺に住んでいたらだいたい「山の下」だと言えるのかもしれない。

甑島列島は全体的に山肌が海にせまり、沖積平野の発達が極めて少ない[18]。上甑島と中甑島は比較的緩やかな丘陵が広がるが、下甑島は400-500m台の山地が卓越し、特に西岸には切り立った断崖が点在する。

https://ja.wikipedia.org/wiki/甑島列島より引用

このように、Wikipediaでも下甑島のことについて記載もあるので、更に納得。
ピンポイントでココ!と言えずとも、山下の山は下甑島の地形を見ていると納得できる名字だと感じることができた。

下甑島の西側へと山道を通ってたどり着くと、ナポレオン岩と呼ばれる横顔にも似た岩があったり、

長目の浜という名前通りに長い浜があったり、

下甑島と中甑島、上甑島とつなげる大きな橋ができていて、絶景の中を車で走ることができたりした。

宿泊については、島だということもあり、どういう設備なのか心配していたところもあったのだけど、実はこの旅の中でもトップレベルの素晴らしい宿泊施設が甑島にはあった。

二クラス甑島というところに泊まったのだけど、古くからの街並みを今に残すこの地の雰囲気をゆっくり味わえるように配慮された街に溶け込む外観ながら、中は最高。

天候が良ければ星空が見られるバルコニーバスタブ(シャワーは室内にも確保
)や、二クラスの名前の通り暮らせるようなコンセプトを叶える家電の数々。
特にドラム式洗濯機は長旅の強い味方。
こちらでしっかりとお洗濯から乾燥までさせていただきながら、甑島観光を堪能させていただいた。

更に翌日は朝五時集合で豆腐作りを見学しに行った。
なぜ豆腐?と思われるかもしれない。
でもこの豆腐屋さんの名前がとても無視できない名前だったのだ。

その名も山下商店!
まさにルーツを探す上ではこれ以上のヒントが得られる場所はないと思ったわけである。

さらに、この豆腐屋さんの存在を知らずに(中川政七商店を意識しつつ)山下義弘商店なるマガジンもnoteで連載している以上、立ち寄らずにはいられない。

結果としては、山下のルーツにつながる出会いや発見は特になかったのだけど、島の各地に住む人のために豆腐の移動販売まで行う山下商店さんの取り組みや、先程の宿も同じ系列での取り組みだということも知ることができて充実した時間を過ごすことができた。

しかしながらまだ旅は続く。
そのまま二度寝する余裕もなく、次なる目的地である霧島市に向かってフェリーに乗船して旅立ったのだった。

9〜10日目 カフェ×文具の移動販売車

いよいよ北海道から始まった移動販売の旅も鹿児島までたどり着いた。
桜島に出迎えていただきながら、販売会場となるワンツリーコーヒー霧島店さんを一路目指すことにした。

ワンツリーコーヒーさんでの営業は、実は移動販売スタイルの中で理想としていた立地だったりする。
カフェの駐車場を使わせていただいて、カフェのお客さんに文具を販売したり、文具を買いに来たお客さんにカフェを紹介したりすることで、相互にメリットを生むことができるのではないかと考えていたのだった。
実際にカフェに立ち寄ってくださったお客さんが覗いてくださったり、文具を買いに来てくださったお客さんがそのままカフェを利用したりと行った送客ができていたので、この方法は他の場所でも試していきたいと考えている。

なにより、美味しいコーヒーやドリンクをいただきながら文具を見てもらったり、何より自分が飲めるのは最高。
そういった意味でもワンツリーコーヒーさんは最高だった。

ワンツリーコーヒーさんにはなんとコワーキングスペースもあり、そちらを利用されるお客さんにもアピールをできればと考えていた。
こちらは週末となると利用者が減ってしまうというデメリットもあり、今後も掛け合わせる方法を検討していきたいところとなった。

夜にはワンツリーコーヒーさんの町中にある店舗でトークイベントも開催。
イベントの賑わいにつられて、ご飯を食べに来るお客様もいらっしゃり、思わぬところでカフェの営業に貢献することができたようにも思う。

11日目 鹿児島の名所、名店、美味しいものを巡ってフェリーへ

無事に日本縦断移動販売の旅も一段落し、最終日には鹿児島の名所をぶらり。
ワンツリーコーヒー霧島店さんからも近い霧島神宮でまずはお礼も兼ねてお参りにいきました。

坂本龍馬とおりょうさんが新婚旅行にも訪れたという霧島神宮は、鳥居をくぐると空気が変わり、とても神聖な空気を味わうことができました。

その後はフェリーの時間まで、ひたすら鹿児島を楽しみ尽くすことにしました。
90分限定で露天風呂まで貸し切れる温泉を教えてもらって訪ねたり

地鶏がおいしく頂ける焼肉屋さんを求めて細い道をおっかなびっくり運転したり

中でも訪れた中で一番ギャップがあってビックリしたのが「ナカムラ薬局」さんの中にある植物やさん「シークレットバザール」さん

こだわりの植物と、センスの良い雑貨が並ぶ店内はまさに「シークレット」
鹿児島に行った際にはぜひぜひ外見に惑わされず飛び込んでみてください!

さて旅もラスト。
鹿児島の志布志市というツイッターで見たことのある方も多そうな「し」だらけの場所から、フェリーに乗って帰ります。

北海道を走り始めてからわずか2ヶ月。
関西に戻りながらの変則的な旅でしたが、北海道・東京・九州を小さな文具屋の移動販売車が駆け巡りました。

移動販売車って儲かるの?
しかも本やキッチンカーでなくて、文具や雑貨の物販だなんて聞いたことがない。

そんな質問もたくさんの人からいただきました。

正直に言えば大儲けはできません。
でも、覚悟していたほど厳しい旅でもありませんでした。
ネットストアで緩やかにつながった関係性から、こんなにたくさんのお客様と直にお話できる旅になるとは正直予想できませんでした。

そして何より、誰もやったことがないことだからこそ、挑戦してみたかったのです。
ここで得られた経験を活かしながら、10月で5周年を迎えるドケットストアは、更に面白いことをやっていきたいと思っています。

今後も和歌山、徳島、岐阜と移動販売車は巡りますので、お近くに来た際にはぜひお立ち寄りいただければ幸いです!

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