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老犬の顔の腫れ-歯周病

「目の下が腫れてきた」ということで、来院されるわんこがいます。老犬に多いのですが、原因としてかなりの高確率で、「歯根膿瘍」が疑われます。

歯根膿瘍とは、上の奥歯の根っこが歯槽膿漏のため化膿して、炎症を起こし膿が貯まることです。顎の骨が溶けて、ついには顔の皮下にも炎症、感染が進み、ひどいと皮膚が破れて膿が出ます。
内科的な治療は抗生物質の投与ですが、繰り返すことも多く、完治のためには抜歯が必要になること少なくありません。

奥歯は歯の根っこが2〜3本あるため、一つの根っこが化膿して、歯が骨から外れても他の根っこが正常だと、簡単には抜け落ちないため、このような状態になります。全部の根っこが化膿すれば、自然と抜け落ちることもありますが、大抵は麻酔をかけての抜歯になります。

しかし麻酔をかけるのは不安だと思う方も多いです。当然、高齢な犬がほとんどですので、麻酔のリスクはあります。

他の動物病院で「年だから、麻酔ができない」と言われ、2年間放置された犬が、来院したことがあります。その犬は、マズル全体が腫れていました。口を触ろうとすると、噛みつこうとし、診察も大変な状態でした。液状の食餌を与えているとのことでした。

このままでは、口の中の痛みもひどくなり、何も食べられなくなると思われました。飼い主の方に、十分お話して、麻酔をかけるにあたり、血液検査、レントゲン検査などを行い、リスクを評価したうえで、麻酔をかけて口の中を綺麗にしました。

分厚い歯石を取り除き、残っていた歯を調べると、グラグラな歯が多数あり、何本も歯を抜かなければなりませんでした。処置は無事に終わり、犬は一泊して退院しました。

処置後1週間で見違えるように、マズルの腫れはひきました。相変わらず口は触らせてくれませんが、酷かった口臭も消えて、食欲も増えたそうです。

「老齢だから麻酔かけられない」と言うことを、私は言いません。「腎臓が悪いから麻酔はリスクがあります。」とか、「心臓が悪いから麻酔のリスクがあります。」とか、「貧血があるから麻酔のリスクがあります。」という事は言います。もちろん、高齢犬の麻酔は、若い犬に麻酔をかける場合の何倍も緊張します。それでも、その処置が必要であれば、やります。

麻酔の技術も、私が大学で学んでいた頃に比べて、格段に進歩していて、大学時代に午後の外科実習の後、患犬が麻酔から冷めるのを手術終了した後、夜まで待っていた経験があります。今は、そんな事はありません。

動物歯科も日々新しい技術の情報があり、現場の獣医師の学びは続きます。予防歯科も浸透してきているので、仔犬からの歯のケアをおすすめします。

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