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長く曲がりくねった道15

監査室長~監査等委員として過ごした約10年間、監査の仕事だけにとどまらず、外部からの情報取集につとめた。それは監査の中にとどまってしまうには、私はオーバースペックであると自負した結果だ。ビジネスの領域で私が一貫して追い求めた、「この会社の仕事にコンピュータでの解決を目指す」事をテーマとして、外部のセミナーやイベント、これはと思う会社には直接会って話を聞くことを続けた。
AIのブーム、その動きに私が気が付いたのは、2018年ごろだ。当時様々なビジネスショーをはしごしていたが、その中で「AI」という言葉を耳にした。調べていくと、AIの進化により人間の仕事がAIにとってかわられる、「シンギュラリティ」という動きがあり、実際に何年か後には実際に起こるということであった。第3次AIブームである。「本当ならとんでもない変化が起こる!」と興奮した。そこからAIに関する情報収集をしたり、今後自分たちの仕事と具体的に何が関係してくるのかを探った。AIの実装で身近だったのは、OCRという文字認識して入力を行う仕組みであった。入力の仕事は私がシステム部門を担当しているとき、苦労した分野である。当時入力は人間にしかできず、かろうじて数字やローマ字が読み取っていけてもその制度は50%程度であった。ところが、手書きの原稿を90%以上の精度で読み取れるAIOCRというものがあるということで、情報を集めた。会社では別のルートで売り込みのあったAIOCRを導入したが、決してうまくいっていない。
AIに関しては、調べれば調べるほど現在進行形で進化しており、目がはなせない状態であった。ところが、世間でそのように騒がれているのに、社内を見るとシステム部門を筆頭にAIについて誰も知らない状態であった。そこで、あるセミナーで懇意になった人に依頼して、社内における「AI勉強会」を開くこととした。その時の開会のあいさつで私は1995年以前にインターネットに興味を持ち、会社に提案したのに理解されず、その後出てきた楽天等の会社に相手にされない会社になってしまった経験から、この会社をまた2度目の遅れをとってしまうのは忍びないと言った。そして、AIの検定であるジェネラリスト検定まで受験したが、見事落ちてしまった。その後会社ではAIは無視できなくなったが、自分達で直接触れることをしようとしないので、未だに会社は後進国のままである。
ロボティックスの進化、AIブームと連動するかのように、ロボティクスの発展も進行していた。工場におけるロボティクスの活用は、避けて通れない課題であった。なぜなら、人件費は年々上がっていき、パートの高年齢化も同時進行している。このような状況の中、社長からは自動化の掛け声がかかるが、誰も進んで自動化を進めようとしていなかった。そこで、何社か現場にロボティクスの会社を紹介したが、どれも真剣に取り合おうとしないので、ロボティクスの会社は引く手あまたなので、必然的に疎遠になっていった。
営業におけるSFAの活用、営業が旧態依然たる体制から脱却しようとしていない事は、大きな課題だと考えていた。しかし、その声が営業の最前線にいる人からは上がってこなかった。そこで、変わっていけるきっかけとして、SFAのシステムを販売している会社に、変わっていくための基礎つくりのところからコンサルをお願いしようと、数社つなぎをした。こちらは、コロナ禍により営業環境が激変したため、さがすに営業の現場から変革の芽が生まれようとしていた。残念ながら私の会社にいられるタイムリミットが来てしまい、実装するまでは見届けられなかった。
働き方改革につながる会社におけるモチベーションの取扱、実はこれが隠れてはいるが、一番大きな課題であった。実際に私が退社した後、若い社員の退社が相次ぎ、やっとその音に気づいていればよいのだが、なにしろ社長自らが「モチベーションという言葉はきらいだ!社員には給料を払っているのだから、滅私奉公することが当たり前!」という古い体質の会社であり、社長の取り巻きは茶坊主のような取締役ばかりの会社では、社員のモチベーションについて語ることも憚られた。しかし、会社のそのような体質は、世間全体の流れに逆行しているため、決して良い結果を生むわけがない。
このようにして、取締役であれば、自分の職務とは別に世の中の流れとその時必要な技術や考え方を会社の中に取り入れていくことが当たり前であると思うが、私以外の取締役はそのような考え方を全く持たない人たちばかりであった。私は社外の人と話すのが好きだった。相手からすれば、自社のサービスを売り込む事が目的ではあったが、私のほうは社内で狭い考え方をしてばかりいる人とつきあっているよりも、視野が違う人と話すほうが楽しかった。
幸いにして途中から監査等委員という取締役になったおかげで、対外的には会社として興味を持っているという印象を与え、いろいろな話が聞けた。外部から収集した情報は多岐に渡るが、その中で実際に活用できたものはあまりないが、世の中の現在を知っていく、その中でも先進的な部分を知る事は自分にとって十分に役立つことだった。いわゆる「勉強」というのは本を読む事も重要だが、生きて動いている情報を体験したりして取得したものは自分の中に定着していくものだ。


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