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マイクラ世界の歴史と社会を考察する②|バニラの古代帝国はいかにして地球の7倍もの地域を支配したのか?

【※本記事は茶番記事です。】
===前回の記事はこちらから===

===以下本編===


1.街道の不在は何を意味するか?

 前回の記事において、地球の七倍もの面積を有するマインクラフトのバニラワールド(以下「バニラ」)には、かつてその全ての地域を支配する古代帝国があったのではないか、という仮説を立てた。各地に点在する、建築規格の統一された寺院群、都市構造に類似性が見られる村々、そして共通通貨として機能しているエメラルドが、その手がかりであるということも挙げている。

 話は「現在」のバニラに戻り、各地に点在する村について考えてみたい。バニラの村々が、バイオームが異なってもその都市構造とでも言える構成要素(教会、図書館、鍛冶屋、肉屋、3ブロック舗装道路…)が類似しているため、各地の村々はかつての古代帝国の統一的都市建築の潮流を汲んでいるのではないか…というところまでが前回の考察だった。

 各地の村は明らかに同じ文化圏に属していた歴史を持つ。このことはほぼ間違いないのだが、現在の村々を眺めていると、おかしなことに気づく。それは、村と村をつなぐ街道の不在である。

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【上:古代ローマの象徴的な街道であるアッピア街道】

 街道、もとより道というのは、国家が広範な地域の支配を行う上でなくてはならない存在といえる。史実で有名なのは、やはり古代ローマの街道群。平坦に、そして石とローマン・コンクリートによって強固に舗装されたこれらの街道群は、各地に赴くローマ軍の移動速度を早めるだけでなく、人々の往来を促進させ、帝国の経済効果をも大きく増進させたと言われている。

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 インフラ面ではローマに大きく劣る古代の日本においても、畿内を中心に、全国に放射状に伸びていく七道駅路をとりあえず整備していた。これらは東日本への遠征に用いられる他、律令制下の、悪名高き都へ納める税(庸・調と呼ばれた)を運ぶためにも用いられていた。

 それがどういうことか、マイクラのバニラにはこのような街道の痕跡が一切見つかっていない。それどころか、いま存在している村々をつなぐ街道すら作られていない。広域支配にかかせない街道の不在、そして現在も村と村の間には街道がないという事実。古代帝国が存在していたという仮説を揺るがしかねないこの事実から、どのようなことが考察されるのだろうか。


2.街道の痕跡が存在しない理由

 まずは過去を見つめ、街道の痕跡が一切見つかっていない理由について考えてみたい。そもそも広範な地域を支配した国家が街道を作るというのは、たしかに実際の人類の歴史を見つめればそうなのだが、ここはマインクラフトの世界。もう少し柔軟に考えてみたいところである。そこで、かつてあったであろう街道の痕跡という痕跡が、今のところ一切見つかっていない理由について、いくつか仮説を考えてみよう。

2-1.単純に街道が朽ちてしまった説

 これは非常にわかりやすい話で、そもそもバニラの古代帝国が滅亡し、街道の整備がなされなくなったのは非常に遠い昔(数千年・数万年単位)のことで、単に整備されなくなった街道が時間経過と共に全て朽ちてしまったという説である。

 先に紹介した日本の官道は、ローマの街道のように舗装されていたわけではなかった。舗装されていなければ、その整備がなされなくなることによって、いとも簡単に自然に飲み込まれてしまう。事実、日本の古代の官道はそのほとんどが失われ、現在は土の下か、あるいは一部が現代の土地利用にその面影を残す程度である。

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【上:よくよく考えてみればバニラ村の道路は草をかき分けた程度なので、このレベルで古代帝国の街道が作られていたら、その耐用年数と結果はお察しの通りである。】

2-2.何者かが全ての街道を破壊してしまった説 

 次に挙げるのは、少々突飛な発想ではあるが、かつて破壊に精通したとある努力家(と同時に忌むべき存在)がいたとする説である。この名前も知らない正体不明の存在は過去に、古代帝国が威信をかけて築き上げた街道を全て破壊してしまったのである…という説だ。地球の7倍もの領域に張り巡らされていたであろう街道を作る古代帝国も凄いが、その全て破壊するこの何者かもすごい。

 そしてこの説は、まだ考察するには性急であるが、「古代帝国はなぜ滅亡したか」という話しにもつながるものである。古代帝国を滅亡においやった存在が、史実の古代ローマを疲弊させた異民族のような集団か、あるいはゲーム世界らしく唯一絶対的な悪魔なのかは考察の余地がある。しかし、街道が存在し続けることを受け入れられないこの存在こそが、帝国の滅亡に直接ないし間接的に関わっている可能性は捨てきれない。この説は、あまりにも、現実的ではないように思えるが。

2-3.そもそも地上の街道が必要なかった説

 最後はいかにも夢のある、同時に理にかなった、説得力のある説である。街道は地上(オーバーワールド)に作られなければならないというのが、我々の考察を硬直化させるステレオタイプかもしれない。バニラはあくまでもゲーム世界なので、そのステレオタイプを取り払うことで見えてくるものがある。それがこの「地上の街道が必要でなかった説」である。

 最近のアップデートで、廃墟と化したネザーゲートが生成されるようになった。そして実際にワールドを生成して見回ってみると、これらは村の近辺に生成されることも多いということが分かった。かつての人々の生活のすぐそばに、ネザーがあった可能性がある。

 バニラにおける、地上とはまた別のバイオームであるネザー。今はこの非科学的な並行世界の存在について検証している暇はないのでご容赦いただきたいが、街道の件で重要なのは、ネザーは地上の8倍の速度で移動することができるというバニラの物理法則である。

ネザーでの水平方向の座標と距離は、オーバーワールドのそれと1:8の比率で比例する。つまり、ネザーで水平方向に1ブロック移動すると、オーバーワールドでは8ブロック分に相当する距離を移動したことになる。Y軸方向にはこの法則が適用されない。したがって、オーバーワールド上のある位置(X,Y,Z)については、ネザーの対応する座標は(地面(X÷8),Y,地面(X÷8))となり、逆に、ネザー上のある位置(X,Y,Z)については、オーバーワールド上の対応する座標は(X×8,Y,Z×8)となる。【Minecraft Wikiより】

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【上:村の近辺に生成された「廃墟と化したネザーゲート」】

 するとつまり、古代帝国がその支配に用いた街道ネットワークというのは地上にあったのではなく、ネザーを通して形成されていたのではないか?という仮説が浮上するのである。普通に考えて、地球の7倍もの地域を支配するというのは現実的でない(アメリカですらギブアップするレベルかもしれない)。古代帝国の存在を前提とする上で最大のネックとなるその支配地域の広さを、このネザーゲートネットワークによってカバーできていたとすれば、実質的な支配地域はより狭くなる。

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 図示すると以上のようになるが、一片の移動距離がネザーゲートを用いることで8分の1になる。この法則を利用することによって、単位距離あたりの実質支配面積は実に64倍にも膨れ上がる。そうすると、地球の7倍もの面積(1ブロック=1mとしたとき、36億km²)であったバニラのオーバーワールドは、ネザーゲートを用いることによって実質的な面積を5625万km²(=3,600,000,000/64)にまで減らすことができるのである。

 現実世界最大の面積を誇るのはロシア連邦の1713万km²なので、これでもまだロシアの3倍以上あるが、だいぶ現実的な数字に近づいてきている。ネザーゲートを用いた実質広域支配モデルは、マインクラフトの物理法則と合致し、そして現実的に考えられ得る支配可能領域の提示が可能であるという点において、納得のできる仮説ではなかろうか。

 更に言えば、バニラのアイテムとして空を滑空可能な「エリトラ」の存在もまた示唆に富んでいる。広範な古代帝国内を人々が自由に移動する手段として「エリトラ」が普及していたと考えれば、地上に無理に幹線街道を作らずとも、人々は何らかの目印を基準として、都市間を飛行できたはずである。大量輸送はネザーゲートを用いて、そして簡易な移動はエリトラを用いる。そのような移動形態が恒常的に採用され、広大な古代帝国の支配を支えていたのではないだろうか。

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【上:バニラ古代帝国ではこのような光景が日常であったかもしれない】


3.それではなぜ現在の村間街道は存在しないのか?

 古代帝国の街道ネットワークが地上ではなく、ネザーや空中にあったかもしれないという仮説。これはネザーゲートが機能していること、そして広く普及したエリトラとその推進装置(ロケット花火)の存在なしには成立し得ない。そして現在のバニラの村からは、いずれの知識も技術も失われていることは明白である。

 そうだとすれば、村間ネットワークを復活させようと村人達が思い立ったとき、真っ先に思いつくのは地上の街道を整備することである。かつての長距離短時間移動手段が失われた今、村人は地道に村道を延長させていくことでしか、移動経路を確保することができないはずなのである。

 しかし、現在の村と村の間に街道の類は皆無である。村内道路は村外れで途切れており、その先にはただ自然地形が広がるのみ。村がこのような状態に陥っているのには、今のところ以下のような理由が考えられる。

①村は自給自足できているので、交易・交流の必要がない
②モンスターの存在によって、村間移動が制限されている
③村間街道を維持・管理するだけの広域統治機構が存在しない

 
これらの理由は並立しうる。現に村の規模と人口から需要を考えれば、村にある畑や周囲の自然から、その存続に足りる資源は供給し続けられるだろう。そしてバニラにおける村人最大の脅威である、モンスター(ゾンビを筆頭とした)の存在が、村間移動を著しく阻害しているという事実があり、結果として広域な統治機構が現在形成されず、それらの街道を維持・管理するだけの社会構造が成立していないのである。

 モンスターが古代帝国滅亡以前から存在していたのか、それとも古代帝国滅亡に大きく関連しており、その滅亡以後に存在するようになったのかは定かではない。しかしながら非情にも村人を無差別に襲うバニラのモンスター達が、多くの村を統合し得る国家の形成を阻害していることは間違いなさそうである。

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