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角川ホラー文庫創刊30周年ありがとう

 角川ホラー文庫が4月24日で創刊30周年というお知らせを見て思い出した作品があります。
 日本ホラー小説大賞は当時よくしてもらった近所のおじさんに教えてもらいました。飲み屋で仲良くなったのですが、何から何までどこまでよくしてもらいました。そのおじさんはホラーが大好きで「ホ」とついてるだけで見たり読んじゃう方でした。読み終わった本や面白かったホラー映画をおすすめしてくれて、怖いので手付かずだったホラー作品の楽しみ方を教えてもらいました。そんな読み終わった本が「日本ホラー小説大賞」受賞作の数々です。想い出の角川ホラー文庫から何度も読み返した作品をリストしてみました。

あせごのまん「余は如何にして服部ヒロシとなりしか」

 とにかくシュールで不条理を追求することが目的のような短編。ホラーなのかはわからないけど、得体の知れない雰囲気がまず楽しい。どこか昭和な路地裏の雰囲気。どこを切ってもよくわからない不条理世界で完全に好みな世界で一気に引き込まれました。ただただ世界に翻弄される楽しさ、どうなるか予想もつかない展開に目眩がしてきます。
 特にグロ描写や心霊現象なんかは無かったはず。不条理ものが好きな人ならもう涎ものだと思います。

余は如何にして服部ヒロシとなりしか
著:あせごのまん
定価: 500円 (本体476円+税)
発売日:2005年11月10日
ISBN:9784043806010

岩井志麻子「ぼっけえ、きょうてえ」

 遊郭を舞台に岡山弁で醜い遊女の独り語りが訥々と。岡山弁と暗い遊女部屋。なんか怖い。とんでもない女に当たった男の気まずさと強がり、話を聞かずにはいられない好奇心を刺激される女の過去。何度も読んだはずですがあんまり内容は覚えていません。だから何度も楽しめるのか、作品世界の雰囲気もたまらないものがありますし、やはりなまりのある語り口がリアルで引き込まれます。以降、岩井志麻子さんの本は見かけると買ってしまいますが、どれも面白いので見つけてくれたホラー大賞ありがとうございます。
三池崇史監督による映像作品「インプリント〜ぼっけえ、きょうてえ〜」も素晴らしい出来でした。

第6回 日本ホラー小説大賞、2000年 第13回 山本周五郎賞
ぼっけえ、きょうてえ
著:岩井志麻子
定価: 616円 (本体560円+税)
ISBN:9784043596010

平山夢明「異常快楽殺人」

映画好きとして連続殺人鬼はとっても楽しみな存在です。実際の事件を題材にしたヒッチコック監督の「サイコ」、ビジュアルイメージが秀逸なジョナサン・デミ監督の「羊たちの沈黙」と傑作映画の題材になることも多いです。映画を見ていれば連続殺人鬼をもっと知りたくなりますが、そんな連続殺人鬼がちゃんとわかろうと読んだのが「異常快楽殺人」でした。超有名な犯罪者を取り上げ、たくさんの記録をベースに詳しく掘り下げてたノンフィクション。
幼少期の境遇、社会に出てからのこと、犯行の数々、捕まってからのこと。ページを捲るごとに凄惨な出来事が読めば読むほどグッタリと疲弊していきますが、目は爛々と冴え好奇心は早くページを捲れと要求して、読む手が止まりませんでした。一晩かかって読み終えた直後に、頭から読み始めたほどでした。
どこまで事実として正確なのかは分かりませんが、書き手はこの異常な狂気に囚われないよう必死に距離をとっているように受け取りました。自分にとってはこれが初めての平山夢明作品でした。

「サイコ」のモデルとなったエドワード・ゲインは、人の皮で家具を作ったことで有名。家具を作るイメージは傑作ホラー作品トビー・フーパー監督「悪魔のいけにえ」に登場するソーヤー一家のイメージにも引用されています。ヘンリー・リー・ルーカスは、頭の切れるシリアルキラーで犯行数が桁違いに多い。自分が犯した犯行の捜査をFBIに協力している様子が、「羊たちの沈黙」レクター博士の設定に引用されました。また、彼そのものを題材にした映画も多くつくられています。ジョン・ウェイン・ゲーシーのイメージは強烈。裕福な実業家で休みにはピエロの扮装をして慈善事業を行う好青年の彼が、実は少年を自宅に誘い込んで……。その惨劇は言葉にできません。あの殺人ピエロのイメージの元になっている人物です。
アンドレイ・チカチーロはソビエト連邦の殺人鬼です。優秀なソ連の人民が連続殺人などという悍ましいことをするはずがない、ということで捜査がされなかったところが面白かったです。チカチロもいくつか映画化作品があり、「Child 44」は捜査官目線の社会派ドラマで当時のソ連の様子がわかり面白いです。
他にも、ジェフリー・ダーマーなどたくさんの殺人者の気の遠くなるような事件が多数掲載されています。

異常快楽殺人
著:平山夢明
定価: 792円 (本体720円+税)
ISBN:9784043486014

飴村行「粘膜人間」

 のっけから独特な世界観で読者を圧倒される。
 戦争時の田舎を舞台に、奇想天外な出来事や登場人物を濃厚に描写。得体の知れない生き物や人間関係が、怒涛のように展開しなすがままにページをめくらされてしまう。ある種の不条理ものだと思いますが、題材の暴力やグロ描写の比重も大きくそのものが魅力の一つになっていると思います。それらはかなりキツく耐えられない人も多いと思うほどで、徹底的にやり切った暴力グロ描写は圧倒的な緊張感を生み出しており、想像力とオリジナリティが煌々と光輝いています。

第15回 日本ホラー小説大賞 長編賞
粘膜人間
著:飴村行
定価: 704円 (本体640円+税)
ISBN:9784043913015

小林泰三「AΩ 超空想科学怪奇譚」

 ホラー・グロ・SFと多才でオリジナリティの高い小林泰三作品の中で、読み応えのあるストーリーでハードSFとホラーの融合が心地良くてクラクラします。アイデアとしては「光の国から僕らのために」来てくれたあの巨人を再解釈。小林泰三の世界観で宇宙を股にかけた冒険ファンタジーを味わえなんとも嬉しかった。挑戦的でありながら、王道はおさえている。独自の世界観で大きく広がってゆく想像力は他の作品では味わえない快感がありました。

AΩ 超空想科学怪奇譚
著:小林泰三
定価: 820円 (本体781円+税)
ISBN:9784043470068

感謝!

まだファンタジーやSFを書く作家の行き所がなかった時代に立ち上がった角川ホラー大賞。多くの才能ある作家を惹きつけてくれたおかげで、眩暈のするような想像力の奔流に浸る幸福な時間を過ごすことができました。
角川ホラー文庫さんありがとうございました。

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