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相談事例と天風哲学(事例-16) 21

(空調設備工事業の例-16)
 当社の主な業務は独製のキッチン器具・装置の販売と自然エネルギーを活用した住宅・事務所等の空調の設計・施工である。現在、自然エネルギー活用の相談や打ち合わせ回数が多くなり、また一部は受注にも結びついている。
 そもそも私との係わりは、当時の長男が会議所に相談に来たのが始まりである。自社の窮境状態を切実に語り、今後どうするか迷っているとのことであった。そこで当時の社長(父親)との面談を行い、具体的な改善の道を探ったものである。
 
 空調設備工事の前は看板等の設置工事が主体であり、取引先の倒産の煽りを受け、当社の資金繰りの悪化を招いた。しかも、以前からの借入金もあり、現状の業績ではほとんど返済の見込みはない状態であった。
 当社には二人の息子さんがおり、いずれも自社を手伝っている。また、現在の負債がなければ何とか経営は継続できるとの見通しもあった。そこで現社長には会社、個人とも破産し、長男が事務所や機械等の設備を買い取り引き継ぐ計画を練った。いわゆる第二会社方式での建て直しである。
 
 当然、弁護士を入れ、事業計画書を作成し、金融機関との交渉となる。話は比較的スムーズに進展し、金融機関の協力もあり長男を社長する第二会社は設立された。長男には資金的な余裕がないため借入を行わなければならない。
 長男にとって会社経営は初めてであり、当然知り合いの金融機関もなく、今までの取引先金融機関に話を持ちかけたところ良い返答が得られ借入が可能となって一親の会社の設備等を購入することができた。
 
驚いたのは、破産時の金融機関が債権放棄を伴うのに、同じ身内の長男の会社に融資を実行したことである。でもよく考えてみると、経済合理性のもと、この方式が金融機関にとっても最もダメージが少なくて済む方式だったのである。
 
 その後、長男の会社は、自然エネルギー活用事業を本格的に展開することになり、温泉旅館の冷暖房工事、公共施設の空調設備など幅広く堅実に業績を伸ばしている。窮境状態から再建を果たした経緯を振り返ると、第一に従来の取引先の協力が大きい、
 特に既存会社を破産させ、第二会社を設立段階で、この第二会社の取引先などは白紙の状態にあった。しかし、従来の取引先の取引継続を承諾してくれたことなどは好転の大きな要因となっている。
 
 破産はやむ得ないことであったが、取引各社はそれでも長男の新会社と取引するということは、相当の信頼関係がなければ続けることはできなかったと思われる。
 しかし、従前の経営が社長および長男の人間性、経営のまじめさなどが評価されたことが大きな要因であった。社長自身の前向きな姿勢と資質、そして経営に対する心構えがしっかりと備わっていれば安定的な経営は可能であることを示した例である。

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