アカデミー賞ノミネート発表。風雲急を舞うアジアの星。日本勢候補の可能性
第95回アカデミー賞ノミネート発表。最多ノミネートは「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」で10部門11ノミネート。3月3日日本公開。略称「エブエブ」。主人公の名前エブリンにもかかっていて良い略だと思います。主題歌賞には日本でも話題の「RRR」がノミネートで好評上映中と候補作が良いタイミングで見られます。
2022年の映画市場を賑わせた2作。「トップガン マーヴェリック」と「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」も作品賞候補。それぞれの顔にして映画愛と情熱がもはや狂気のトム・クルーズとジェームズ・キャメロンですが主演男優賞/監督賞からは落選。共に製作者として作品賞ノミネートに回る事になりました。既に受賞済みのキャメロンに対し、トムはオスカー無冠。トムの今作における受賞ラストチャンスとなる作品賞は現状5位か6位。「エブエブ」以下の上位陣をごぼう抜きにする大逆転が必要になります。
ここで思い出されるのが2012年の「アルゴ」。監督賞レース独走態勢に入っていたベン・アフレックがノミネートすら落選してしまう大波乱が発生。傑作と呼ばれた本作の立役者であるベンがオスカーを手にするラストチャンスとなったのがやはり製作者としての作品賞であり、監督賞ノミネート落選を機に元々盛り上がっていたBUZZは一気に沸騰。結果、見事に作品賞受賞を果たしベンはようやくオスカーを手にしたのでした。
今回の場合。コロナ禍で客足が遠のいた映画館に活気を取り戻した「トップガン」の顔にして功労者を讃えようという動きがあるか否かという所ですが、候補確実と思われた撮影賞も落とした事で残念ながら厳しくなった感。トム・クルーズ程の人ですら全てを手にするのは難しいという事でしょうか。
全員初候補の主演男優賞はコリン・ファレル、ブレンダン・フレイザーと00年代映画ファンには馴染み深い2人が争っています。
ファレルといえば2004年公開の「デアデビル」でヴィランを熱演も作品は不発。日本ではボブ・サップが出てるくらいしか話題になりませんでした。ベン・アフレック&ジェニファー・ガーナー馴れ初めの作品でもあり、内助の功で醜聞による低迷から脱し、監督の才能が開花。前述の「アルゴ」に繋がり「デアデビル」は11年間新作が無かった事で、得したのベンだけじゃねぇかという話になっていましたが、ようやくファレルもオスカー王手のところまで来ました。
気心知れる同郷アイルランドの映画人と作った作品での初候補となります。
フレイザーの復活は出演を決めた本人の勇気を讃えたいというか。一度傷つけられたトラウマの世界に戻ってくる事、体重増加により外見が変化した状態で人前に立つ抵抗や苦悩もあったのではないかと想像するんですよね。オファーした関係者、メンタルケアをした人たちは良い仕事をしたと思います。ボクシング転向で失墜、顔面変形したミッキー・ロークに落ちぶれたレスラー役を当てたり、監督のダーレン・アレノフスキーはこれ以上ない程の当たり役を役者に与えています。2009年にロークが候補入りした主演男優賞を受賞したのは「ミルク」のショーン・ペン。ペン=ファレル、ローク=フレイザーのポジションに見えますが逆転なるかといったところです。
助演男優賞レース独走のキー・ホイ・クァンも2022年劇的カムバックを果たした一人。「グーニーズ」でデータは一番好きなキャラだったので嬉しいです。一度は諦めた役者に再挑戦。大復活を果たした氏が授賞式で見せる笑顔はあのジャッキー・チェンのような親しみやすさ。各賞総なめ。オスカーでも見たいと思わせる恩師スピルバーグとの胸アツ受賞者ショットと、もはや敵無し。そうなるとスピルバーグ3度目の監督賞も現実味を帯びてきますが、止められるとしたら「エブエブ」の通称”ダニエルズ”コンビ(ダン・クワン、ダニエル・シャイナート)。幼い頃の恩師と大人になった今の恩師。クァンとオスカー像片手に2ショットするのはどちらでしょうか。
助演女優賞ではジェイミー・リー・カーティスが候補入り。私的「景気の良い映画」オールタイム10選の「トゥルーライズ」ではストリップにシュワにビンタと体を張って笑わせたこの人が長いキャリアで初のオスカーノミネートです。
ゴールデングローブ授賞式でのリアクションや今回のノミネート発表をパジャマ姿で聞いていたなど気取らない性格が伺えます。前哨戦でだいぶ離されてるので受賞は難しいと思われますが授賞式は存分に楽しんでほしいです。
問題は主演女優賞。前哨戦で全く出ていなかったアンドレア・ライズボローが突如浮上。ワインスタインのような配給会社によるゴリ押しではなく、同業俳優たちによる試写会やSNS投稿によるものと言われており、あまりの浮上ぶりに運営も不可解に感じたのか再調査を発表しました。
上記記事では候補取り消しの可能性についても言及。仮に取り消しの場合、候補者の繰り上がりはあるのか気になります。あと受賞有力のケイト・ブランシェットもこのキャンペーンに参加していたという事で後々影響が(もちろん悪い意味で)出そうな感があり、賞レースファンとしては穏便に収まってくれるよう願うのみというところでしょう。
そんな風雲急のレースを微動だにせず舞っているのがミシェル・ヨー。堂々のアジア人俳優初の主演賞ノミネートです。
サモ・ハンに見出された80年代。ジャッキーとブロスナン・ボンドの相棒として「女は色気じゃねぇ」とばかりに大暴れした90年代。
00年代は香港武術とワイヤーアクションが融合した「グリーン・デスティニー」でその名は世界規模に。多様性時代突入の10年代は「クレイジーリッチ!」と時代の節目で伝説を作ったこの人が20年代。アジア人初の主演部門制覇の偉業に大手を賭けています。現状のレース展開はブランシェットとヨーの一騎打ち。対象作の最多ノミネートがアドバンテージなので、未発表の賞を獲れるだけ獲って本番に臨みたい所です。
今年度は日本人ノミネートゼロ。邦画界低迷の声が囁かれているようですが、昨年「ドライブ・マイ・カー」が日本映画初の作品賞ノミネートをした辺り、チャンスさえあればまたオスカー争いに喰い込めると思っています。
更に2024年からは作品賞の新基準が適用されます。これによって日本人俳優、スタッフが賞レースに絡む未来も見えてくる?のではという期待も感じでいます。NetFlixなどで海外にも日本の人気俳優が認知されるようになりましたからね。未来に期待しつつまずは3月の授賞式に注目しましょう。
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