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夜、街頭に照らされた樹が美しくて

それだけで、なんだか得した気分になる。木のシルエットを、暖かみのある
光がぼんやりと縁取っていた。

僕は帰りに立ち寄ったスーパーでシシャモと惣菜を買って、家に帰ってから何をしようか考えていた。たくさんのスーツ姿の人たちとすれ違った。誰かと喋ったり、スマホを操作したりしていた。「都会の夜空に見るべきものなどない」と決めつけているような姿だった。

こういう瞬間に、つい、以前の職場で忙殺されていた時期を思い出してしまう。本を楽しむ余裕がなくなり、やがて肌や嗅覚で感じる季節の変化に無関心になった。僕はやりがいをもって働いていた。だけど、やりがいだけだった。

そこまで振り返って、惣菜を包んだ風呂敷を片手から下げ、間の抜けた感じで木を眺めている自分のことを、「なんて幸せなヤツなんだろう」と思う。

いま、冷房をかけてちょうど良い気温になった寝室に寝転び、誰が読むかも分からない文章を書いている。生活とはそういうもので、幸せとは、そのくだらなさを愛することであると思う。

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