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05 頭と体

[編集部からの連載ご案内]
白と黒、家族と仕事、貧と富、心と体……。そんな対立と選択にまみれた世にあって、「何か“と”何か」を並べてみることで開けてくる別の境地がある……かもしれない。九螺ささらさんによる、新たな散文の世界です。(月2回更新予定)


頭と体がまったく別物だと思い込んだのは、一体いつからだったのだろう。思うに、脳に筋肉はない、と知ったとき、または「頭脳労働と肉体労働」という区分け言葉を知ったときだ。
 
脳に筋肉はない。
この事実を知ったとき、わたしは脳を哀れんだ。
一人ではどこにも行けないんだね、可哀そう、じゃあわたしが連れていってあげるよ。
そんな気分で脳を頭に載せて、歩きだす。
可哀そうって、可哀そうと思っているのも思われているのも、脳なのに。

しかし脳に憐憫は不要。
脳は、イメージを食ってボディーを生み、そして歩きだす。
走りだす。歌いだす。踊りだす。
ずっと座って本を読んでいても、もの凄くお腹が空くのは、脳内の肉体が、本の中の南極や火星やパラレルワールドに行っているからだ。

ニューヨークも、脳内のニューヨークと脳外のニューヨークと実は二つあって、我々は体を動かしても、動かさなくても、ニューヨークに行ける。
そして、どちらのニューヨークに行っても、同じだけ、疲れる。

体より頭のほうが距離を稼ぐから、次第に頭は重くなる。
目が開かなくなったら、それが睡眠のタイミング。
我々は目を閉じ夢を見て、脳内の超過分を雲散霧消して、起きるまでに無かったことにするのだ。


絵:九螺ささら

九螺ささら(くら・ささら)
神奈川県生まれ。独学で作り始めた短歌を新聞歌壇へ投稿し、2018年、短歌と散文で構成された初の著書『神様の住所』(朝日出版社)でBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。著作は他に『きえもの』(新潮社)、歌集に『ゆめのほとり鳥』(書肆侃侃房)絵本に『ひみつのえんそく きんいろのさばく』『ひゃくえんだまどこへゆく?』(どちらも福音館書店「こどものとも」)。九螺ささらのブログはこちら

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