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BAG ONEイベントレポ #01| 服部文祥トークショー in Spiral Week


みなさん、はじめまして。
4月から憧れの編集部に配属になりましたsaと申します。
上京して2年目、編集部に配属になって2週間。上司から「いっぱい失敗していいから、なんでもやってみろ!」と、叱咤激励、無茶ぶりがとんでくる楽しい日々を過ごしています。
今後は不定期に私も記事を投稿していきます。どうぞよろしくお願いいたします!


去る4月9日金曜日、私たちトゥーヴァージンズが運営する「ブック&カフェバー BAG ONE(バグワン)」にて、サバイバル登山家・服部文祥さんのトークショーが行われました。

今回の企画は4月1日から4月14日まで行われた、環境について考え、対話する2週間のイベント「Spiral Week」にちなんで開催。
今年2月に刊行したばかりの初の書評集『You are what you read あなたは読んだものに他ならない』(本の雑誌社)の発売記念も兼ねて、服部さんの刺激的なお話に耳を傾けました。

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登山家らしい、数々の修羅場をくぐり抜けてきたであろうオーラ……! と圧倒されるも、次の瞬間には服部さんの柔らかな物腰とユーモア溢れるお話に夢中になっていました

服部文祥さんは、サバイバル登山を提唱し、長きにわたり実践してこられた方です。
サバイバル登山とは、「衣食住のできるかぎりを山の恵みでまかなう登山」(『サバイバル登山家』(みすず書房)より)のことで、イワナや山菜、ときにはヘビやカエルなど山中に生息する生き物を調理して食し、その日のねぐらを探しながら頂を目指します。近年はサバイバル登山の考え方を発展させ、日常生活も狩猟を行いながらほぼ自給自足の生活を目指されています。


今回本当にたくさんの興味深いお話をうかがうことができたのですが、そのなかでも特に印象に残った話題をご紹介します。

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山の中でうんこをすることに新鮮みを感じたと話す服部さん         ©Nezu Rieko


食べ物を食べるときには、
プラスとマイナスの感情がある

これは、「食料を調達する」という行為そのものについてのお話です。
イワナを自分で釣りあげ、捌き、調理をする。溢れでる鮮やかな血や生気を失っていく魚の姿、生臭い匂いなど「自分が生きるためにイワナの命を奪う」ことによって、「命を食べる」ことを実体験として感じることができるようになった、と服部さんは言います。

特に印象的だったのが、服部さんの「食べ物を食べる際にはプラスとマイナス両方の複雑な感情を抱く」という言葉です。
イワナを殺し、命を食べることに後ろめたさや罪悪感を感じながら、美味しい、幸せという相反した感想を持つこと。食べ物に対して、本当はこのような感情を抱くべきなのではないか、と話す服部さん。

そういえば、小学生の頃に食育の授業でよく言われた「命に感謝してご飯を食べましょう」という言葉。あの頃は大切なこととは思いつつ、全くピンときていませんでした。それは給食や家庭では調理され、きれいに盛り付けられた「料理」しか目にしていなかったから。
そのように私が通り過ぎていた部分を、服部さんは逐一立ち止まり、「食べ物は命であること」を誠実に確認しているように思いました。

サバイバル登山を始めてから、自分の手で命を奪い、食料を調達するようになった服部さんは、こう続けます。
「(自分は)よくプラスとマイナスの複雑な感情を食べ物に感じず、30年も生きてきたな」
私はまだまったく感じられていません。

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©Nezu Rieko


パースペクティブについて

もう一つ印象的だったのが、狩猟にあたってのパースペクティブ(視点)の話題。猟期の主な獲物である鹿を狩るとき、何より重要なのは「鹿の気持ちを理解すること」だと言います。狩猟を始めた当初は鹿を「やっつけてやろう」という気持ちが先行していたそうですが、だんだんと鹿に親近感をもち、「気持ちを寄り添わせる」方向に、服部さんの考え方はシフトしていきます。

鹿の気持ちを理解するために行動パターンを研究し、いつも考え(鹿に「今なにしてる?」と電話したくなるとのこと)、それが当たり前になったとき、服部さんのなかで「鹿と人間の境界線が曖昧」になりました。その結果が、「鹿のパースペクティブと自分のパースペクティブが入れ子式に変わること」でした。
「人間と鹿の境界線が曖昧なり、視点が変化する」なんて、とても不思議な体験ですよね。でも、これはスピリチュアルな話では決してなく、狩猟の世界ではよくみられる現象だそうです。ちょっと体験してみたい。

また、このような狩猟のあとは皆さんおしゃべりになるのだそう。それはパースペクティブが入れ替わるほど鹿に没入していた状態から、人間の世界に戻ろう、社会性を取り戻そうという反動ではないかと服部さんは言います。
確かに、小学生のころに出場した100m走の大会では走り切ったあと、緊張からの解放とアドレナリンの放出によってとてもおしゃべりになっていた気がします。(少しちがいますか?)

トークの最後では、服部さんの今後の目標である「持続可能な暮らしをすること」についてのお話を聞くこともできました。
服部さんは現在、狩猟をしながら自給自足の生活を目指して活動されています。なかなか一朝一夕でまねることはできませんが、そういった暮らしの選択肢があるという事実は、今都会で暮らす私に改めて広い生き方を提示してもらったような気がします。


・・・

そして忘れられない、トーク終了後のとある参加者からの質問。

「森のなかにいるときはいつ死んでもいいと感じるのに、都会で過ごしているとなぜか死にたくないと強く思うんですが、なぜだと思いますか?」

これに対し、服部さんはこう答えました。

「都会で亡くなったらゴミになるからじゃない? 山で死んだらエサになる」

予想していなかった言葉に、思わずドキッとしてしまいました。
でも、そのあとにはじんわりと、「『循環する持続可能な暮らし』とは、最終的に私たち人間も死んで土に返ったり、動物や植物の栄養となったりして次の世代に役立っていくこと」なのではないかという考えが浮かんできました。
隣の席の先輩にもその話をすると、「死んで土に還る前に、自分も循環の一部という認識をどれだけ持って行動できるか、というのも今生きてる人間の課題だよね」との意見。
答えはたくさんあるということも知ることができました。

かつては当たり前だったであろうこれらの価値観。でも、今の私からはすっかり抜け落ちていました。世界の裏側に住む友人に簡単に連絡が取れたり、どんなに平均寿命を延ばせるようになったりしても、この自然のサイクルの外には出られないし、出てもいけないのだと思います。そんなことについて、改めて考えさせられるトークイベントでした。


写真:Spiral Club・根津 理恵子、編集部
文:sa

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【Spiral Weekとは】
「Let’s Talk About Environment!(環境について話そう!)」をテーマに活動するオープンコミュニティ「Spiral Club」が4月22日のアースデイを目前に、「地球を考える2週間」としてBAG ONEにて開催したイベント。会期中はトークイベントやフリーマーケット、オープンミーティングなど15ものイベントが企画・実施されました。

Spiral Clubをもっと詳しく知りたい方はこちらから↓


【BAG ONE(バグワン)とは】
出版社トゥーヴァージンズが運営する「本を読む人が集まる場」をコンセプトにした「BOOK & CAFÉ BAR」です。
東京に上京してきたばかりの頃は、集まるハイセンスな方々と渋谷という立地も相まって、「これが文化の中心地か!」と思ったものです。(今も少し思っています)


服部文祥さんの新著『You are what you read あなたは読んだものに他ならない』(本の雑誌社)も大好評発売中です!


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【sa】

入社2年目、4月から編集部に配属になりました。パイナップルの日が誕生日だと5年ほど言っていますが、全く浸透せず覚えてもらえません。これからどうぞよろしくお願いいたします!


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