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【連載】ノスタルジア大図鑑#10|絵で見る商店街:立石仲見世商店街③

画家・濱田恵理子さんイチオシの商店街を、味わい深いイラストとマニアックな視点で紹介する〈 絵で見る商店街 〉の第3回目をお届けします。

“呑んべえ”たちが愛して止まない「立石仲見世商店街」に通い、その情景を描き続ける濱田さん。
今回は商店街を彩る数々の「看板」に注目しながら、案内してくれました。

ぜひ第1回、2回の連載と合わせてお楽しみください!

第1回はこちら↓

第2回はこちら↓

【ノスタルジア大図鑑とは】
昭和やそれ以前、物心ついた頃からあたりまえにあったもの。
めまぐるしく移り変わる時代の中で、気づいた時には無くなっていることも。さまざまな理由で「このまま放っておいたらいつか無くなってしまうかもしれないもの」、後世までずっと残して受け継いでいきたいと思う「日本の文化・日々の暮らしの中の物事」を取り上げ、個性豊かな執筆陣による合同連載<ノスタルジア大図鑑>としてお届けしていきます。



第3回:立石仲見世商店街 その3

商店街に限らず、私たちの生活で常に目にする看板。
ビルが建ち並ぶ都会の街中ではなかなか目にすることはできないが、少し裏道に入ったりすると、ふとしたところで昔懐かしい看板に出会うことができます。

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駄菓子屋、自転車屋、クリーニング店……。
色褪せたり錆びついた部分からも時間の経過は感じられますが、その看板の書体やデザイン、色使いや描かれ方などにも注目してみると、また新しい発見ができることがあります。

昭和レトロな看板として代表されるのは、「琺瑯看板」ではないでしょうか。

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琺瑯看板は、明治21(1888)年頃に誕生し、それから昭和中期まで商品宣伝の手法として多く作られていました。耐久性が高いため、何十年も雨風に晒されているにも関わらず、現在でもその役目を立派に果たしている看板を見ることができます。

商店街には「商店街の統一看板」というものがあります。
店舗一つひとつに「つり看板」や「突き出し看板」、商店街によってはお店の顔である正面の看板を揃えているところもあります。

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看板一つでもそのお店の特徴や時間の流れを感じることができますね。
今回は、立石仲見世商店街にある看板にも注目しながら見ていきましょう!




前回最後に紹介した『玉起屋』さんを過ぎた辺りが、ちょうど商店街の真ん中になります。

『玉起屋』さんを過ぎると小路があり、その先にあるシャッターは、私が昨年この場所に来てからずっと閉まっています。この場所は以前お豆腐屋さんやお寿司屋さんだったこともあるそうですが、現在は組合が所有する場所だそうです。

そして、その隣にあるのは『洋品のダイマル』さんです。

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仲見世商店街ができた当初は8軒ほどあった洋服屋さん。ダイマルさんは当時から続く貴重なお店の一つです。
看板のダイマルという文字が丸っこくて可愛らしいですね。
これは、戦後このお店を始めた方がつけた名前で、看板もその時に作られました。

見通しのよい店内には、たくさんの洋服が並びます。以前は子供服から婦人服、紳士服と幅広く扱っていて、旦那さんとお二人でお店を切り盛りしていたそうです。今では昔からの馴染みのお客さんの年代に合った婦人服のみを揃えるようになりました。

賑やかな飲食店の間に静かに佇む婦人服店。いつまでもここにいてほしいです。


横に進むと2軒の飲食店が続きます。

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呑み処 和 KAZU』さんと『土日庵』さんです。
2軒とも木目調の外観で温かみのある印象です。

『呑み処 和 KAZU』さんはカウンター式の飲み屋さんで、外にも椅子が並べられていました。昨年の夏は、店名が書かれていませんでしたが、現在では「KAZU」という看板がつけられています。

『土日庵』さんは手打ちそば屋さんです。私が絵を描いていた時、左にある小窓から話しかけてくださいました。
隠れ家のような店内で、お蕎麦とお酒を美味しくいただけます。

その隣はシャッターが降りていますが、看板に残っているように以前は『マルコーシューズチェーン』という靴屋さんでした。




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さらに進むと狭い通路があります。
「仲見世事務所」と書かれた看板の下を進むと目の前にはトイレ、左側に事務所の入口があります。

ここの商店街は組合でできているため、事務所の方々の力は欠かせません。
事務所の2階は広い畳部屋になっており、壁には商店街の活動記録や慰安旅行の写真などが飾られ、商店街の歴史を感じられる空間になっています。昔青年団によって作られた大きな凧も見せていただきました。
事務所の看板には “ 躍進する商店街 ” との文字が。この場所が作られたときの意気込みが今も伝わってきますね。

すぐ隣もシャッターが降りていますがいくつか看板があります。
この看板には化粧品、小間物、袋物などの文字があります。きっとさまざまな日用品が売られていたのでしょう。“ いつも勉強の店 ”というキャッチコピーが微笑ましいですね。店名が入っていたらしき部分は黄色く塗り潰されてしまっています。
しかしこれは以前のもの。現在は『遊楽工房』というお店で、小さな看板がぶら下がっています。

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『遊楽工房』は、近くを流れる中川沿いにある工房で作った焼き物を売っているお店で、営業は不定期だそうです。(「どんと市」という商店街のイベント時に開けることもあるそうです。)

私はまだ開いているところを見たことがなかったので、工房を訪ねてみました。
商店街から徒歩5分ほどの距離にある工房には、林孝行さんという陶芸家の先生がいらっしゃいました。以前は美術・図工教員をされていた林さんですが、退職を機に教室を始めたそうです。
現在は教室兼工房という形で、一度に3〜4人の生徒さんが制作できるスペースがあります。

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ろくろや窯、釉薬などもあるので、この場所で陶芸の制作工程の全てを学ぶことができます。お皿や花瓶など手作りの商品が多数置かれるそうなので、開店が楽しみですね。



その先は再び飲食店が並びます。
まっちゃんラーメン一筋 葛飾立石本店』さんと『セルフ遊び場 SOCOLIE』さんです。

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『まっちゃんラーメン』は、辛さが7段階もある旨辛なラーメン屋さんです。初心者には「控えめ」がおすすめです。

この商店街の中では珍しく、2階も飲食のできるスペースとなっています。
人ひとりがやっと通れるくらいの細い階段を登ると、秘密基地に来たような気分になれる空間があります。窓からは、商店街が見下ろせます。

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1階からラーメンを運んでくれるのは、店長お手製の「おかもちエレベーター」です。ラーメンの入ったおか持ちが、店長の掛け声とともに電動式のエレベーターで下から上へ送られ、2階のお客さんの元へ運ばれます。
仲見世商店街の名物の一つではないでしょうか!
ここに来た時は、ぜひ2階で食べてみることをおすすめします。


『セルフ遊び場 SOCOLIE』さんは、2020年の2月にオープンしたセルフ焼き鳥屋さんです。カウンターには小さなサイズの焼き鳥焼き機が置いてあり、好きな焼き加減で食べることができます。

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棚にはさまざまな種類のスパイスが置いてあり、好みの味つけで楽しむことができます。
「とにかく好きなように過ごしてくれれば嬉しいです!」と、店長さんも話していました。



ここを過ぎると再びシャッターが続きます。

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看板に注目してみましょう。


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『セルフ遊び場 SOCOLIE』さんの上にある看板から奥戸街道に向かって数軒は、昔のまま残っているものです。

「浅草ハトのマーク」とありますが、このお店は現在も浅草の仲見世のある『ハトのマークの木村屋人形焼本舗』から暖簾分けされたお店だったそうです。美味しい人形焼屋さんだったそうなので、食べてみたかったです。

その横の、ほかより幅の狭い看板には「育児用乳製品の店 コバヤシ」の文字が。今では育児用乳製品を売っているお店というのはあまり聞きませんが、牛乳や粉ミルクなどを売っていたのでしょうか。


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通路を挟んで『毛利硝子店』、『鈴木屋食料品店』と並びます。
このあたりの看板は、この仲見世商店街ができた頃から変わらないそうで、書体も揃えてありますね。

『毛利硝子店』では、額縁も取り扱っていたため、それに関連して当時のアイドルや歌手のブロマイドなども売っていたそうです。

『鈴木屋食料品店』さんは、以前は無添加食品などを取り扱っていたたそうですが、近々新しく居酒屋さんがオープンするようです。

『甲州屋』さんの看板には、右下に小さく「創業明治14年」と書いてあります。ここは昔下駄屋さんだったそうで、プラスチックのサンダルなどが出回る前までは、下駄や草履、雪駄などを売っていたそうです。現在はリサイクルショップになっています。



そして一番奥戸街道側にあるのが『麺将ケン暴』です。

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『麺将ケン暴』の入り口は奥戸街道沿いにあり、赤い壁が特徴的なラーメン屋さんです。
表に書かれている “ 背脂ドッカーン 激辛ドッカーン いざ変態の領域へ どうぞ喰らっちゃってください!” という文句が気になります。
私も激辛ラーメンを食べたくなったらケン暴にも入ってみたいと思います。




今回は、商店街の看板にも注目して見ていきました。
遠方への移動が自由にできるようになったら、是非『立石仲見世商店街』に来て実物を見てみてください。

皆さんが普段行っている商店街にも歴史を感じる看板があるかもしれませんね。少し違った視点で歩いてみると、いつもの買い物も楽しくなりそうです。

【商店街データ】
立石仲見世共盛会
〒124-0012 東京都葛飾区立石1-20-4

●設立:1954年11月17日(法人登記)
●WEB:https://www.tateishinakamise.jp


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プロフィール_ERIKO HAMADA prof ph

【著者プロフィール】
濱田 恵理子
葛飾区在住の画家。多摩美術大学油画卒業。
現在は主にミリペンと水彩で日本のレトロな建物や商店街を描いている。他に、ベトナム漆絵や油絵も描く。海外で美術教師をしたことや子供の頃から様々な国を転々としたことが、日本の文化や街並みを改めて見直すきっかけとなった。
Instagramや展示会にて作品を公開している。

●Instagram : @ericohama
●Web : https://tatsumasa-e.wixsite.com/erikohamada


「絵で見る商店街」を含む、個性豊かな執筆陣による合同連載「ノスタルジア大図鑑」過去の連載はこちらから↓


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