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東京五輪サッカー準決勝 日本-スペイン戦 雑感

東京五輪準決勝の日本スペイン戦について、「スペイン強かった!ボールを全然支配できなかった!」というような意見が多く見られる一方、スペイン紙は「強さがない」という記事を載せています。自分の見方では、これは両方とも真実で、単にハードルが高い・低いではないのだと理解しています。

スペインの守備組織はよく整備されていて、DF→MFにショートパスを通そうとすると頻繁に引っかかりました。特に攻→守への転換時(ネガティブトランジション)の位置取りは本当に素晴らしく、セカンドボールの多くをスペインが収めてましたし、日本がカウンターで攻撃しようとしてもFWが競る機会さえ与えられずインターセプトされたことも数多くありました。

ただ、それはスペインの弱さにもつながってきます。私が見ている限り、保持やセカンドボールを拾いを優先した位置取りである一方で、攻撃のために人を動かさず「へっぴり腰の攻撃」しかして来ないので、ゴール前にブロックを敷いておけば容易に防げるものでありました。今回スペインは中央で少人数でワンタッチパスを連続させてゴールを狙うシーンが多かったですが、事前にパス回しで相手DFを動かしておく仕込みのようなことをせず、DFの枚数が揃った状態でワンタッチの意外性だけで勝負しており、ディフェンスラインが崩れないのでしばしばCBにブロックされ、GKと駆け引きする余裕もないので素直な予測しやすいシュートを蹴って容易にGKにキャッチされていました。これでは相手DFが集中力を切らしたら運よく点が取れるという程度のものでしかないでしょう(実際延長最終盤で点は取りましたが)。

ポゼッションの高さと合わせ、スペインは勝っているチームが試合を終わらせるためにどちらも得点が入らないよう塩漬けにするようなサッカーを試合開始からずっとやっていた、という印象でした。この傾向は大会を通じて見られ、追い詰められてがむしゃらに点を取りに行ったコートジボワール戦の80分以降を除けば0-0、1-0、1-1、そして今回1-0(AET)ロースコアでの決着となっており、スペインチームにシステマティックに存在する問題と言えるでしょう。今の「ポジショナル」なサッカーが場所で危険度を識別するゾーンディフェンス→守備ラインを上げたゾーンプレスの系譜に属していることを考えれば、ボール保持・回収にリソースを割いたスタイルは「ラインの高いカテナチオ」という風情でしょう。

「ラインの高いカテナチオ」はゴール前にバスを止めるよりは攻撃開始位置が高く、運頼みの攻撃をするにしても回数が増えれば得点チャンスは増えるので、よりよいスタイルとは言えるでしょう。このスタイルが初見だった2010年ころはクラブ・代表共にスペイン勢が猛威を振るいました。しかし、キャッチアップが進んだ現在は、そこまで優位性を稼げないということでしょう(今のスペイン代表の得点力が振るわないからといっても、学んでキャッチアップしないと何もできず負けるわけで、学ぶ必要はありますし、日本も90分引き分けになる程度には追いついています)。

また、クラブの場合は話が別で、クラブならばメッシやロナウドなどごくわずかな隙からゴールをねじ込める個の優位性を持つ選手を買ってくることが可能なので、特に強豪にとってはこの戦術を目指して間違いない方向性の一つとは言えます。しかし、選手を買ってくるわけにいかない代表ではそういうわけにもいかず、スペインはA代表でも似たようなロースコアゲームが多くなっています。直近のEUROでも6試合して90分勝利は1試合だけで、1延長勝利、2PK戦(1-1x2)、2引分(0-0, 1-1)という状況で、リーグなら1勝5分で残留争いに巻き込まれる低調さです。私の見立てでは、スペインのこの「得点力不足」は外国人FWを買ってくるクラブのやり方が育成レベルまで浸透した結果、外国人FWを買ってこれない代表で機能不全に陥っているのではないかと推測しています。

こういった守備戦術はラ・リーガを見ているとどこでもやっており、残留争いしているチームでもU24チームとあまり変わらない力を持っていると思います。久保建英選手のファンが所属チームの攻撃のレベルが低いと嘆くことがありますが、彼らが久保所属チームに抱く「攻撃のレベルが低い」という不満が、まさにスペイン紙がこのU24代表に抱く「攻撃のレベルが低い」という不満と相同なのではないかと思いますし、そういったチームでも守備戦術のレベルは相応に高いように思います。

ただ、総合的には、相手より多く点をとることをめざす競技であるサッカーで得点力がないと勝ちに繋がらず、U24日本代表vsU24スペイン代表が10試合した場合2勝5分3敗、引き分けなしで4勝6敗程度の力関係になるだろうと思います。ただ、代表戦は引分の価値が相対的に高い(ノックアウトラウンドでは半分勝ち)ので問題視されにくいだけに思えます。今の中央守備が強い日本代表なら、スペインにスーパーなFWが生まれない限りは勝てるチャンスは常にある、という感じではないかと思います。


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