見出し画像

2010年過ぎにブンデス1部直移籍が多かったのは、代表キャップ持ちがゼロ円で移籍していたから

2010年過ぎの数年間、Jから五大リーグ1部への直接移籍が多かったが、最近はオランダ、ベルギー、ポルトガル、スコットランドあたりを第一の移籍先にするのが通例になっている。この状況について「Jリーグのレベルが下がった」「Jリーグの評価が下がった」という意見を頻繁に目にするが、2012年に一度記事を書いたものの、いまだに聞くので、それは違うと改めて述べたい。

キャップ持ちがタダで獲り放題だった2010年ころ

2010年ころのブンデス移籍組(+長友)の移籍金を含む移籍状況について、表にまとめた。これを見れば当時1部移籍が多かった理由は一目瞭然だろう。

2010年過ぎのドイツ直移籍組(Wikipedia過去履歴より)。移籍日時と移籍金はtransfermarktの記述により、正確とは限らない。キャップ数は移籍直前のものか、分からない場合は移籍前年までのものとした。
矢野貴章は移籍金が分からなかったため入れていない。これ以外にも相馬崇人、山田大記、田坂祐介らが2部に移籍している。

キャップ持ちはもちろん、ワールドカップ得点者すらゼロ円で移籍できたので、そりゃ取るところも多かろうというのが正直なところである。また、調べる時間がなかったので省いたが、そのほとんどが23歳以下の「投資要員」でもあった(2012ロンドン五輪代表有資格者の数を見ればわかるだろう)。今の感覚でいえば、板倉、前田、三笘、旗手、守田が全員タダで獲れた、という感じである。そりゃ1部に移籍できるのも当たり前、という感じではあろう。なお移籍時点で24歳だった乾と大迫は2部スタートであった。

ゼロ円移籍解禁直後の混乱

なぜこんなにゼロ円移籍が大量発生したかと言うと、その直前に選手会側がFIFAルールに合わせたゼロ円移籍解禁を求めて法廷闘争も辞さない構えを示しており、2009年途中でそれが認められたからである。

それまで保有権制度を認めていた時代は短期契約が中心で、ゼロ円移籍解禁直後に契約が終わってフリー移籍可能な選手が大量発生した。特に実績のない若手ほど短期契約になりがちだったので、欧州が求める年代別代表クラス(一部はA代表キャップ持ち、W杯出場経験あり)の若手が大量にフリーになったのである。

09年シーズン半ば、日本サッカー協会並びにJリーグは、国内移籍制度をFIFAルールに合わせることを発表した。これにより契約期間満了選手は移籍金なしで自由に他クラブへ移籍できるという国際ルールが国内間移籍でも適用されるようになった。

移籍制度の変更は日本サッカーに何をもたらすのか 2013年01月29日 フットボールチャンネル

フリー移籍の嵐はJリーグ内の移籍にも大きく影響を及ぼしていて、欧州移籍だけに限った話ではなかった。いずれにしても、ゼロ円移籍解禁直後の一時的な現象としてみてよいだろう。

即戦力として買い付ける周辺国

また、2010年ころのブンデス1部への移籍で顕著だったが、23歳以下の投資株に該当する選手でないと海外移籍は難しく、24になったら海外移籍はほとんどあきらめムードであった。

それが変わるのが2018年ころで、同年のロシアワールドカップ(および直前の親善試合欧州遠征)でベルギーと接戦を繰り広げつつ、ベルギーリーグに森岡亮太、久保裕也、冨安健洋、鎌田大地、遠藤航などチームの戦力を強化し順位上昇の原動力となったと評価された選手が多数現れた。植田直通や豊川雄太などそこそこ戦力になった、あるいは話題をさらった選手もおり、またその後も伊東純也などリーグを引っ張る選手も継続的に現れた。

この結果としてオランダ、ベルギー、ポルトガル、オーストリア、スコットランドなどでJリーグ選手を即戦力として評価する例が増え、後には守田英正など24歳を過ぎての移籍も当たり前にみられるようになった。

こうなってくると、即戦力として評価してくれるほうが出場機会も期待でき、即戦力扱いなので移籍金の金払いもよいため、選手・クラブ双方にとって「ブンデスの引き合いを待つより周辺リーグ」というモーメントが出来上がったのだと考えられる。ブンデスに移籍できなくなったというよりは、そのあたりのCL直行枠を1つだけ持っているような2nd tierのリーグが買い手として新たに登場したことで、ブンデスが買い負けるようになった、というのが実態ではないかと思う。

もっとも、ブンデスが日本人を取る場合は投資物件だという認識はかつてより強まり、伊藤洋輝などはその流れでブンデス1部に直移籍している。またプレミアの金満クラブが戦力として期待していない(トップチームの人数をはるかに超える)レンタル放牧組を有しており、かつての宮市や、あるいは浅野や板倉はそのルートで名目上は直移籍している(給料もそれなりに良い)。

また、ブレグジットに伴いプレミアリーグのビザが代表歴だけでなく代表歴+欧州リーグでの出場実績となり、周辺リーグに子会社クラブを持つ中堅クラブのブライトンが三笘を、ウルヴズが川辺を取るなど、新しい流れができている印象である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?