ビッグクラブの育成組織出身者の大半はJリーグですら通用しない
五輪で育成年代の話が増えたが、この手の話では、よく海外ビッグクラブの下部組織にいるから大成するはず……といった声が聞かれる。そのような感覚は素朴なものとしては悪くはなく、実際欧州中のユースの中でユースから5大リーグ1部に選手を輩出している数ではレアル1位、バルサ2位という調べがある。ただ、その1位のレアルさえユース出身者から欧州1部に定着できる割合は15%ほどでしかなく、9割くらいの選手はぱっとせず日本代表に入れるようなレベルに至らない、ということは注意が必要である。この項ではその話を少し深く掘る。
スペイン「as」紙の調べによれば、欧州五大リーグの1部に最も多くの選手を輩出していたのはレアル・マドリードの下部組織で、調べた当時(2019年)にその数は39名にも上ったという。
そのレアルの下部組織では、ユース年代のフベニルA~C(高校3~1年に相当)には1学年それぞれ25名ずつのメンバーが属している。25人というのはトップチームの人数並みに多く、ユースでは毎年トップチームと同じ人数が輩出されている。
それぞれの選手が10年ほど現役生活を送るとして、レアル下部組織出身の欧州5大リーグ1部選手39名は約250名ほどの卒業生の生き残りと考えることができる。つまり、レアルユース出身で欧州1部に生き残れるのは、おおよそ15%程度だと概算することが可能である。プロ選手として生き残るには、前後10年のユース出身者との競争に勝ち残らないとならないと考えれば、そこまで不思議な数字ではないだろう。
上記の「5大リーグ1部」には残留争いをするようなクラブも含まれる。レアルの育成組織に入るのと、5大の残留争いクラブの選手になるのを比べると、後者のほうが10倍くらいの難関、狭き門である。五輪メンバーの話でレアルの下部組織にいる子の話をちょいちょい目にするが、彼の現状の地位と比べれば降格争いクラブにいる選手のほうが難しい関門を突破した選ばれしものと言っていい。例えば武藤嘉紀選手はこの数年ぱっとしないが、それでもレアルユースやバルサユースの出身者の85%よりは格上の選手である。
確かにビッグクラブの下部組織からプロ選手を輩出する割合は平均的なユースの10倍ほどとかなり高い期待ができるのだが、そもそもプロ選手になれる確率自体が低く、ビッグクラブの下部組織の出身者と言えど同学年だけで3桁、現役期間10年なら前後10年を含めた4桁多い人数の選手たちとの競争を勝ち抜かなければならないので、プロ選手になれる確率は依然として低く、結局すそ野の広さのほうが選手育成にはモノを言う、というのが現実であろう。
日本では久保建英選手がジュニアユースのころから話題になり、お受験のノリでバルサの下部組織に入っただけで親御さんや少年からアイドル扱いを受けていたのを若干苦い顔で見ていたものだが、それはともあれ彼は協会も巻き込んで大事に育てられ、彼もそれに応えたので、今から成長が期待通りにいかなくても五大リーグ1部の末席には名を連ねそうな程度までは成長した。だが忘れてはならないのは、それはバルサユース出身者の中でも上位1割しか達成できないことだ、と言うことである。
久保選手がバルサ下部組織にいたのと同時期、韓国人の少年3名もバルサの下部組織に所属していた。その3選手は現在若手から中堅の年代に差し掛かるところになったが、欧州5大リーグの1部どころか、J1リーグやKリーグ1部でも通用しないレベルにとどまっている。だが、それは例外ではないのだ。むしろバルサユース出身者の9割はそちら側に行く。久保選手のほうが例外なのである。
久保選手の成功(現状レベルでもバルサユース出身者上位1割と言ってよい)を受けて、なにやらレアルの下部組織にいる日本人の子に期待する声も聴かれるようになったが、その彼も、所属している組織としては、5大リーグ1部で生き残れるのが1割、残り9割はJ1リーグも厳しいというポジションでしかない、というのは覚えておいたほうが良いだろう。
五輪でユースに期待する声が再び大きくなる一方、ユース日本代表のキャプテンを長年務めていた選手がタイリーグに移籍した報道が入ってきたりと、育成年代の将来予測の難しさ感じさせる話も再び聞くようになった。
育成年代を熱心に応援して「将来の日本代表だ」と持ち上げる方も多いが、実際には育成はなかなか難しいし、韓国のバルサユース出身者を見ている限り、持ち上げられすぎると本人の自意識も歪み、期待通り(それは実は上位1割の大成功例なのだが)にならなかった時に少々不幸なように見えるので、応援する側ももう少し自重してほしいところである。
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