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ASD児の遊びと視覚探索パターン

ASD児の「遊び」シリーズです。

肯定的/批判的に捉える論文など様々ですが、読むことに価値があると思っています。

過去の記事はこちら↓↓

今回の論文は…

Limited Activity Monitoring in Toddlers with Autism Spectrum Disorder
Frederick Shic, Jessica Bradshaw, Ami Klin, Brian Scassellati, and Katarzyna Chawarska : Brain Res. 2011 Mar 22; 1380: 246–254. doi : 10.1016/j.brainres.2010.11.074 

ASDの幼児(20ヶ月)と月齢をマッチングさせたTD児、月齢・精神年齢をマッチングさせたした発達遅延(DD)児と比較して、どの程度他者の活動等に注意を向けるかを検討することが本研究の目的です。

先ず、全体的な注視力、視覚探索パターンを分析するために各々のグループに「映像」を見せて、注視時間注視の割合(人/活動/背景)について調査しています。

Limited Activity Monitoring in Toddlers with Autism Spectrum Disorder
Frederick Shic, Jessica Bradshaw, Ami Klin, Brian Scassellati, and Katarzyna Chawarska : Brain Res. 2011 Mar 22; 1380: 246–254. doi : 10.1016/j.brainres.2010.11.074 

注視時間の総時間について群間差は認めませんでしたが、視覚探索パターンにおいてASD群は、「人」を注視する割合に有意差はないものの「活動」を注視する割合が低く、「背景」を注視する割合が高いことがわかりました。

次に視覚探索パターンを「人」というカテゴリから「頭部」と「体」に分けて詳細に分析しています。

「人」というカテゴリでは、ASD群と他のグループに有意差はありませんでしたが、「頭部」と「体」に分けて解析すると、ASD群はTD群と比較し「人」を注視するときに、より「体」を注視していることがわかりました。また大人/子どもを注視している場面でもその結果は同様でした。

さらに視覚探索パターンとASDの臨床所見との関連性について分析しています。

視覚探索パターンとsocial disability(ADOS-G)及びcognitive performance(MSEL)の評価指標を用いています。結果は下記参照↓↓

Limited Activity Monitoring in Toddlers with Autism Spectrum Disorder
Frederick Shic, Jessica Bradshaw, Ami Klin, Brian Scassellati, and Katarzyna Chawarska : Brain Res. 2011 Mar 22; 1380: 246–254. doi : 10.1016/j.brainres.2010.11.074 

重回帰分析の結果としては、ASD群は…

「活動」への注視には、Social Affect (β=-.39, p<.05) と NVMA (β =.54, p<.001)が寄与していました。

「人」への注視には、Social Affect (β=.03)と比較し、NVMA (β=-.58, p<.01) が寄与していました。

こんな感じでして…ASD児の遊びは非定型的であることを肯定している論文となります。

考察は…

ASD児の生物学的運動の感受性の低下対象/物体等への特定の知覚特性/嗜好性による可能性を示唆しています。

もう一つの仮説として、

Moderate discrepancy hypothesis (McCall and McGhee, 1977)を挙げています。「子どもの自己の理解能力や経験の文脈等により視覚的・聴覚的描写に対し、異なる反応を示す」みたいな仮説です。

要するに「単純すぎず、複雑すぎない情報を優先的に注目するため、時期/発達に応じた適切な情報が必要である」という感じ。

よって、今回の論文でも認知/知的な発達の差異が視覚探索パターンに影響しているのではないかと考えられますが、月齢・精神年齢をマッチングさせたした発達遅延(DD)児と比較しても他者の「活動」を注視する頻度が少ないため、ASDの特性を反映していると考えられます。

結果からもSocial Disabilityが高いと「活動」への注視が負の相関を示し、反対に「背景」への注視は正の相関を示しており、ASDの特性であることが支持されます。要するに特性が強ければ強い程、その傾向は顕著である可能性があります。

今回の研究は、あくまで大人と子どもが遊んでいる映像を「受動的」に観察している点です。一応、細かな指示は出さず、自然観察的に映像を見るようなプロトコルになっているようですが…。

上記の映像からも、「文脈」は「知らない部屋でよくわからない成人の女性と子どもが見たことないパズルで遊ぶ」という抽象的な内容です。

それでも、TD児は「活動」を注視し、「人の頭部」も注視し、一般的な発達過程/学習における「他者の遊びを観察して、ルールを理解し、やりとりをしたり、能動的に参加していくようなサイクル」を形成しやすい流れが出来ています。これらが社会的スキルを獲得していく土台となっていると考えられます。

子どもは「遊び」から色々なことを学びます。他者の遊びを見たり、共有する中で「他者」やその「活動」にも注意/注目することが認知・社会的な発達への介入になるのかもしれません。

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