絵本「ジョニーの記憶」
これは、今から少しだけ未来のおはなし
いん石が落ちてきて地球は砕けました。
地球のかけらは、小さな星となって、
月と同じように地球の周りをまわっています。
自然はよみがえり、
わずかに生き残った人とロボットが暮らしていました。
人はロボットの助けを借りながら暮らし、
ロボットは、人と共に成長することを喜びと感じていました。
ジョニーがいつものように壊れたロボットを修理していました。
どこか見覚えのある、ロボットでした。
お腹の中から出てきたものは、息子ランウェイが子どものころに遊んでいたはずの、
レトロなロボットのおもちゃでした。
何体も何体も出てきて、このお腹の中のロボットのおもちゃが
壊れた原因かもしれないと、ジョニーは悲しくなりました。
ジョニーは月に暮らしていました。
年齢を重ねた人々は月に移住して、好きなことをしてのんびり過ごす人が多かったのです。
テアイテ星は、ジョニーとその仲間たちが、AI ロボットの研究と開発に力を入れていました。
地球とその家族の星たちを行ったり来たりする宇宙船も、ジョニーのチームが開発したものでした。
少し前までテアイテ星で働いていたジョニーでしたが、軍事ロボットの開発にAI が使われるようになり、
反対していたジョニーは、なかば月へと追いやられたのでした。
ジョニーは、地球に暮らしていた頃のことを思いだしていました。
仕事が忙しく、家に帰ることもなくなり
子育ては、妻のネウラに任せきりでした。
かまってくれないジョニーに
寂しさを感じていたネウラは、
ジョニーとその仕事を避けるようになっていました。
ランウェイには、ジョニーのような仕事に就いてほしくないと思っていたのです。
ネウラは、人はいつか、ロボットに支配されてしまう。
そんな世界で暮らしたくないと思っていました。土と共に生きることこそ、人の生きる道だと!
ジョニーは子どもの頃のランウェイを思い出すことが出来ませんでした。
ランウェイの顔も、声も…何も思い出せないことに気づきました。
「この20 年、私は何をしていたのだろう。」
ジョニーは、ランウェイが幼いころ家を出て以来、会っていないのでした。
「私が贈ったおもちゃのロボットが、なぜ、このお腹の中にあるのか?」
ジョニーは胸が苦しくなりました。
ランウェイに会いたい。
そして、別れたあとも連絡を取らなかったネウラにも、急に会いたくなったのでした。
ネウラはもう一つの星、カペル星で暮らしていました。
カペル星はAI やロボットが存在しない星。人はロボットに一切頼らず、昔ながらの暮らしをしていました。
カペル星は通信の技術もありません。情報手段はアナログな紙の手紙だけでした。
ジョニーはポストマンを呼んで、ネウラとランウェイに手紙を届けてもらうことにしたのです。
【ネウラとランウェイへの手紙】
ネウラ、ランウェイ元気かい?長い間…とにかく申し訳ない。今頃こんな手紙を書くことを許してほしい。
私は今、月でのんびりロボットの修理をしながら一人で生きている。
ある壊れたロボットから小さなおもちゃのロボットが出て来たんだよ。
それは、ランウェイに私が贈り続けたおもちゃだったんだ。
無責任だが、急に君たちに会いたくなった。私の知らない過去を教えてくれないか。
ポストマンはネウラに手紙を届けるために、カペル星へ向かいました。
ランウェイはもう随分前から、地球で暮らしているらしい…。
ポストマンはネウラに聞いたランウェイの住所にも、手紙を運びました。
しばらくして、ジョニー宛てに、一通の手紙が届きました。
ポストマンは優しくジョニーに手渡しました。
ネウラからでした。
それは、お互いに年齢を重ね、過去の出来事も懐かしさに変化したのか…。
「会って話がしたい!」というジョニーの気持ちを快く受け入れてくれたものでした。
その後、ジョニーは宇宙船に乗って、カペル星へネウラに会いに行ったのです。
ネウラが言いました。
「私たちが出会ったのは、家の時計が壊れてしまって、あなたがすぐに修理してくれた時…。
そして、可愛いロボットの時計もプレゼントしてくれたのよね。嬉しかったし、あなたからAI やロボットの話を聞くのが、とても楽しかったわ。」
「でも、ランウェイが生まれて、幸せな時間もつかの間…。
あなたは家に帰ってこなくなったの…。
「AI 、AI… ロボットが……!」って。」
「私に話しかけるのも実験だから!って、ロボットが話しかけてきたのよ!!覚えてる?
それでも、まだ会話ができてるうちはよかったけど、ランウェイが3歳になるころにはあなたは
テアイテ星へ行ったきり。」
ネウラが言いました。
「あなたが修理している壊れたロボットは、ランウェイのサッカーコーチのティムね。
ティムがあなたに修理されてるなんて、偶然じゃないのかも。
ランウェイの親友のロビと少し前にばったり出会ってね、話をしたの。
ティムがもう動かなくなったて…。もうじき月に送られるんだ…。って言ってた。
お腹の中のロボットのおもちゃはあなたがプレゼントしたものなの?」
ジョニーが答えました。
「そうだ、思い出したぞ!私は、ランウェイに贈るロボットのおもちゃをロビ宛に送っていたんだ。
君に送るとランウェイにわたる前に捨てられてしまうと思ったんだよ。
でもなぜ?そのおもちゃのロボットがティムのお腹の中にあるのか?
君はどう思う?
ランウェイは私を恨んでいるのだろうか。
会ってくれるといいのだけれど。」
ジョニーとネウラは地球に暮らすランウェイに会いに行くことにしました。
案の定、ランウェイは家にいませんでした。
あれ?と声をかけたのはロビでした。
「ランウェイなら、今テアイテ星にいますよ。」
ジョニーが聞きました。
「彼は何をしているんだい?」
ロビが答えました。
「ロボットの開発チーム「レトロボJP 」で働いていますよ。」
「なんだって!!」
ジョニーは驚いて、ネウラは笑っていました。
「再開したのか?」とジョニーが聞くと
「ランウェイにはテアイテ星に行けば会えますよ。
僕が案内します。」と、ロビは少し嬉しそうに答えました。
※「レトロボJP 」とはジョニーが立ち上げたプロジェクトでしたが、意見が分かれて閉鎖していたチームでした。
テアイテ星では軍事ロボットの開発が急ピッチで進んでいました。
「やあ!二人そろってどうしたの?」
ランウェイが話しかけました。
ジョニーは立派な大人になっているランウェイをみて胸が熱くなりました。
「すまない…ランウェイ。私は何も知らないんだ。
これを見てくれないか。」
ジョニーは壊れたロボットの写真をランウェイに見せました。
「ティム…。」と、ランウェイがつぶやきました。
「なぜこんなことになったんだ?」とジョニーは聞きました。
「そんなことは、簡単だよ。」
「母さんにロボットを見せないために、僕がティムに預かってもらってたんだよ。
習い事で忙しくて、ロビから受け取ってすぐにティムに預かってもらって、そのまま…。
父さんには悪いけど、ほとんど遊んでもいなかった。」
「ティムはきっと、僕がいつでも遊べるように持っていてくれたんだね。
僕が大人になっても、おもちゃのロボットを捨てることができなかったんだね。
優しいティム。」と、ランウェイがジョニーに伝えました。
ロビが言いました。
「ティムにおもちゃのロボットを預けていながら、僕らはサッカーに夢中で、サッカーの話ばかりしていたんだ。
試合に負けて落ち込んだ時だって、いつもそばにいて話を聞いてくれてた。
ティムはそんな優しいロボットだった。」
ネウラが言いました。
「私は、ジョニーとロボットを好きになれなかったわ。あの頃はね。
その気持ちがランウェイに伝わって…
ロボットにもかわいそうなことをしたわね。」
「少しは見直した?ロボットのこと。
理詰めで片づけるロボットばかりじゃないんだよ。」
と、ロビが優しく答えました。
ランウェイがみんなに伝えました。
「ねー!知ってる? 地球には森の自然を見守る妖精のロボットが増えている!ってこと。
おかげで、地球の水は浄化され続けている。
父さんが作ってきたAI ロボットは、進化しているんだよ。
ランタンロボットは森の番人!迷子たちの相談役なんだ!
地球の豊かさを保つために何が必要かを考えるプログラム「記憶」が受け継がれているんだよ。
僕は軍事ロボットなんて作りたくない。父さんが作ってきた❝人に寄り添う優しいロボット❞を復活させたいんだ。
母さんの暮らすカペル星にも、そろそろロボットがいてもいいんじゃない?
人だけじゃ何かと大変でしょう?」
ネウラは胸が熱くなり、涙がこぼれました。
ジョニーが言いました。
「じゃ、私はティムを蘇らせるよ!
そして、彼に謝り、彼の昔話を聞かせてもらおう。」
ティムは蘇ると、ジョニーとみんなに伝えました。
ハイ!ダディ!!ご無沙汰しています。
命を再び、ありがとうございます。
僕はあなたの愛を受け止めました。そしてまた愛を伝えます。
あなたが贈ってくれたおもちゃのロボットたちは、いつも話を聞いてくれる僕の友達でした。
時々公園で遊んだりしました。もちろん、ランウェイがいつでも遊べるようにです。
帰る家は僕のお腹の中が良かったみたいで。
いつも一緒に暮らしていましたよ。
だからランウェイが大人になっても寂しくありませんでした。
僕が壊れたのはこの子たちのせいではなく、人が僕を必要としなくなったから…。
でも、ランウェイがまた僕らの時代を作ってくれるなら、僕にもまだ、できることがありそうですね。
ジョニーは事実を知ることで、
空白の過去を取り戻しました。
ジョニーの記憶はロボットの愛によって上書きされ、未来に希望をもてるようになりました。
~未来は過去を変えていく~
なりたい未来に向かって進むことで、
苦い過去も許せるようになる…
きっと。
おしまい
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