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岐阜県美術館「アートまるケット 展覧会を準備してます、展。」

先日、岐阜県美術館で開催されていた「アートまるケット 展覧会を準備してます、展。」に行ってきました。


はじめに

岐阜県美術館について

岐阜県美術館は、JR岐阜駅のひとつ隣になるJR西岐阜駅から徒歩15分のところにあり(ちょっと不便)、1982年に開館しました。

岐阜県美術館

美術好きの間では、世界有数のルドン・コレクションを持っていることでも知られています。
現在の館長は、地元岐阜市出身のアーティストで、東京藝術大学の学長でもある日比野克彦氏が務めています。

「アートまるけっと」とは

岐阜の言葉で「~だらけ」「~まみれ」を意味する「~まるけ」と、市場を意味する「マーケット」「マルシェ」にかけた造語で、岐阜をアートでいっぱいにして、人々が集い、交流するきっかけをつくろうとするシリーズ企画です。

岐阜県美術館公式HPより

2015年度から始まった日比野館長肝いりのプロジェクトも9回目になり、今回は「展覧会を準備してます、展。」と題して、普段では知ることの出来ない、美術館学芸員の舞台裏を紹介しています。

最近ではバックヤードツアーを行う美術館も増えてきましたが、この展覧会では、バックヤードの作業を逆に展示室内に持ち込むことによって、誰もがいつでも見られるようになっています。ちなみに入場無料です。

展示概要

そんな展覧会ですが、大きく5章で構成されています。

1. つなぐ人 日比野克彦

第1章では、なぜか日比野館長が大きく取り上げられています。

どうも、昨年の夏にフランスで、ルドンゆかりの地を訪ねる旅をしてきたらしく、その時の様子がパネルや映像で紹介されています。

その中で、次回の展覧会につながる着想をいくつか得たようなのですが、とりわけ強調していたのが、VRゴーグルを使ってフランスと岐阜をつなぎたいということでした。

日比野館長の頭の中にある
VRゴーグルを使った展示のイメージ図
岐阜県美術館公式SNSより

旅のパネルの中にも、ルドンが装飾壁画を描いたフォンフロワド修道院の図書室で、VRゴーグルを着けて何かをしている日比野館長の姿がありましたが、次の展覧会ではどういうことになるのか、今からとても楽しみです。

2. 展覧会の構想

第2章から本題に入る感じですが、ここでは岐阜県美術館がこれまでに開催した展覧会の振り返りを行っていて、ルドンを主題としたものだけでも相当数あります。

やはり、世界有数のコレクションといえども、いつも同じものをただ展示しているだけでは飽きられてしまうため、手を変え品を変えではないですが、今度はどういう観せ方をしようと、いろいろと知恵を絞っていることが、過去の展覧会のタイトルを見ただけでも分かります。

同時開催されていたルドンの展覧会
版画集『聖アントワーヌの誘惑』を中心に紹介
岐阜県美術館公式HPより

そこで思ったのが、先の第1章の内容も、日比野館長自らが次の展覧会の構想を語っているものであって、この「展覧会を準備してます、展。」のプロローグとして相応しいものだと、この時ようやく気付きました。

3. 調査

第3章では、次の展覧会のもう一人の主役である山本芳翠が描いた《浦島》が縦横3倍ほどの大きさに引き伸ばされていて、作品を拡大すると細部の表現に新たな気付きがあったりするとの投げ掛けがされています。

山本芳翠《浦島》1893-95年頃(オリジナル)
岐阜県美術館公式SNSより

実際、拡大画像には様々な気付きが書かれたボストイットが貼ってあったのですが、正直どれもピンと来るものはありませんでした。

また、ここには作品画面のコンディションを確認するための専用のライトというものが持ち込まれていて、係の方に声かけすれば使用体験が出来るようでさたが、勇気が出ませんでした。

4.芳翠 ルドン ゆかりの地をたずねる

第4章では、展覧会の準備は美術館の中だけではないとばかりに、公式SNSでも、今日はどこどこに伺って、といった報告が都度上がっていましたが、この準備のために訪問した場所が、日本地図の上に押しピンで数多くプロットされていました。

また、ここにはもう一つ興味深いものがあって、山本芳翠の《琉球漁夫釣之図》に描かれている場所を特定し、そこの現在の映像と音声を作品と並べて展示するという試みが行われていました。

《「琉球漁夫釣之図」のための沖縄音響合成》2017
情報科学芸術大学院大学公式HPより

実は、このインスタレーションは情報科学芸術大学院大学(IAMAS)の教授である前林明次氏が以前に発表したものですが、次の展覧会では前林教授ご本人の協力も得て、今よりも更に進化したものが見られるようです。

5. 修復・装丁

第5章では、展示室内で実際の作品の修復や装丁の様子をに間近に見ることが出来ます。
私が行った日も、2名の方が作業されていました。

水彩作品の額縁装丁調整作業の様子
岐阜県美術館公式SNSより

ただ、一般人からすると、見ているだけでは何の作業をしているのかよく分からず、かといって、安易に声を掛けるわけにもいかずで、今日はどういうことをしてます的な案内ボードを出しておいてくれるとよかったかなと思いました。

6. 燻蒸・撮影

最後の第6章では、展示室内に燻蒸テントを設けて作品の燻蒸作業が行われていたようです。

燻蒸作業の様子
岐阜県美術館公式SNSより

燻蒸といえば、よく家庭で行われるバ〇サンもそのひとつですが、そこに含まれる薬剤で作品にダメージを与えては本末転倒になるので、ここでは窒素ガスを使った低酸素濃度処理という方法で、約1ヶ月掛けて殺虫殺卵するそうです。

私が行った時には既に作業が終わっていて、燻蒸テントも撤収されていたため、どういう様子が伺い知ることが出来なかったのですが、確かに窒素ガスのボンベが2本置いてありました。

まとめ

今回、ここで見たこと聞いたことは、今秋に開催される「PARALLEL MODE:山本芳翠/オルディン・ルドン展」(2024年9月27日~12月8日)でカタチになる予定です。

あとがき

学芸員は雑芸員とも言われるように、展覧会の準備だけでも、もっともっといろいろな事をしていると思います。
でも、こうしてその一部の作業でも実際に見る機会があると、次の展覧会も必ず行かなきゃという気になってしまいますが、それもこの展覧会を企画した学芸員の狙いなんでしょうね。

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