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【6月号 大森靖子 連載】『大森靖子の超一方的完全勝利』

 根本的に社会で要領よく生きていくためには無駄な衝動、症状、衝突、消耗が"乙女心"である。

 前髪を固めなくたって縦横無尽にピョンピョン跳ね回ることがよしとされ、かわいくなくたって能力があれば美しいとされたとして、そこにこだわりたいという気持ちは、関与しない、1ミリも減らない、ぜーんぜん関係ないことなのだ。

 今日の服装の全身コーデの一部でもTPOにあわないことに気がついたら猛烈に帰宅したくなるし、願う自分でいる以外の覚えのない自分が拡散されたら、当然反吐が出る。本当に被害に遭って悲しんでいる人がいる最悪な言葉を軽薄に、器量に適さない注目を浴びたり、自分を守るためだけに利用する行為が近日多々見られる。毅然とした態度でキレることなく真っ当に怒るべきだと思うが、それはこの国の現代の悲しい部分だなと感じて見れば見るほどただ虚しいので、生きる領域が違いすぎる人と触れ合うのはこうもリスクが高いとわかっていても、また枯渇して、音楽のために、描ききるために、そういった道を選んでしまうんだろうな。「メジャーに行ってつまらなくなる」という現象について、これは愛着のある音楽を自分だけのものにしたいファン心理の所以だけではなく、たくさんの人が関わるプロジェクトになると、その名前は自分の名前ではなく、みんなのものになる。作家として例えば自分の人生を描き切って、ネタ切れしたとして、世の中にあるなんでもないこと、当たり前になっているけど当たり前にさせたくないことをきちんと自分の視点で描くことができるのがアーティストなのだから、名前が汚れようとなんだろうと、そこに溺れるのが美徳ではないのかと思ってしまうから私は表面的にはメジャー志向ではないのかもしれないけれど、それでも認められるべき美しいものにはきちんと価値が与えられるべきだと思う。売れるものだけではなくて。そう言った意味で根本的にメジャーでつまらなくならないものをメジャーだと認めろ思考なのだ。

 こだわればこだわるほど、円滑に枠にはめていつも通り仕事をしたい人間にとっては厄介になる。それでもこだわりを持ち続けるためには並大抵ならぬ強靭な、「誰に何を言われようと」力が必要である、他人はそれを"才能"と呼ぶ。天に授けられたものでもなんでもなく、その才能は意思であり、傷付けられやすいものであり、守るべきものである。

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