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『カムバック・トゥ・ハリウッド!!』『デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング』映画星取り【2021年5月号映画コラム②】

この映画星取りコーナーも1年を迎えました。気付けば多くの映画に星をつけさせていただきました。なんか終わりそうな書きぶりですが、全然終わりませんので、末永くよろしくお願いいたします。
(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)

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<今回の評者>

柳下毅一郎(やなした・きいちろう)●映画評論家・特殊翻訳家。主な著書に、ジョン・スラデック『ロデリック』(河出書房新社)など。Webマガジン『皆殺し映画通信』は随時更新中。
近況:『三体3』面白いですね。
ミルクマン斉藤(みるくまん・さいとう)●京都市出身・大阪在住の映画評論家。京都「三三屋」でほぼ月イチのトークショウ「ミルクマン斉藤のすごい映画めんどくさい映画」を開催中。6月からは大阪CLUB NOONからの月評ライヴ配信「CINEMA NOON」を開始(Twitch:https://twitch.tv/noon_cafe)。
近況:映画評論家。ぶった斬り最新映画情報番組「CINEMA NOON」最新回はYouTubeチャンネルでご覧ください。
地畑寧子(ちばた・やすこ)●東京都出身。ライター。TV Bros.、劇場用パンフレット、「パーフェクト・タイムービー・ガイド」「韓国ドラマで学ぶ韓国の歴史」「中国時代劇で学ぶ中国の歴史」「韓国テレビドラマコレクション」などに寄稿。
近況:プレス作成に協力させていただいた『唐人街探偵 東京MISSION』(原題:唐人街探案3)が7月公開決定。ミステリーファンにも向きです。


『カムバック・トゥ・ハリウッド!!』

ハリウッド

監督・脚本/ジョージ・ギャロ 出演/ロバート・デ・ニーロ トミー・リー・ジョーンズ モーガン・フリーマン ザック・ブラフ エミール・ハーシュほか
(2020年/アメリカ/104分)
●B級映画プロデューサーのマックスは、借金返済の妙案として、危険なスタント撮影での死亡事故で保険金を手にする方法を考え出し、往年のスターであるデュークを引っ張り出す。だが、デュークは意外にしぶとく、撮影は順調に進んでしまう。

6/4(金)全国ロードショー!
© 2020 The Comeback Trail, LLC All rights Reserved
配給/アルバトロス・フィルム

柳下毅一郎
メル・ブルックスにははるか遠く
デニーロ、モーガン・フリーマン、トミー・リー・ジョーンズとなんにでも出る人たちが出張ってのハリウッド内幕もの。予算の安さと映画の無駄な長さからヒュー・ヘフナー本人も出演しているというリメイク元(1982年作品)のほうが気になるという程度の出来で、むしろこの映画のメイキングを撮ったほうが良かったんじゃないの? ロジャー・コーマンならプロデュースしてくれると思うよ!
★★☆☆☆

ミルクマン斉藤
これをB級映画リスペクトと言ってしまうのには躊躇する。
実力は誰しもが認めるものの、あまり出演作を厳選してるとは思えない老優三人のそろい踏みだが、正直、まあその程度の作品と言っていい。そもそもプロットがまんまメル・ブルックス『プロデューサーズ』のパクリだしなあ。70年代B級C級映画へのオマージュはあるものの、どこか付け焼刃的っぽいところを感じるのは、時期を同じくして観た『映画大好きポンポさん』の強固なロジャー・コーマン的信念との乖離にあるのは否めない。
★★☆☆☆

地畑寧子
1970年代ハリウッドをライトに検証
ストーリーはゆるゆるだが、ちりばめられた映画愛にほっこりさせられる憎めないハリウッド内幕コメディ。1970年代を代表する数々の名作に主演したデ・ニーロが当時のB級映画の借金苦のプロデュ―サーという設定に笑えるが、老体にむち打ちスタントをこなしていく黄昏の西部劇俳優トミー・リー・ジョーンズがカッコ良く、原題に通じる幕切れもきちっと決めて清々しい。ジャック・ブラックにしかみないエミール・ハーシュのいけ好かない業界人ぶりにも笑。
★★★半☆

『デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング』

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監督・脚本・制作/スー・ウィリアムズ 製作総指揮/ヘレン・シウ 共同製作総指揮/ジュディス・ヴェッキオーネ
(2020年/アメリカ/83分)
●香港のスター歌手、デニス・ホーがアーティストから民主活動家へと変わっていく様子を長期間の密着取材で追ったドキュメンタリー。2014年、若者たちが雨傘をもって街を占拠し、民主化を訴えた「雨傘運動」に参加したデニス・ホーは、彼らを支持したことで逮捕され、スポンサーも離れてしまい、公演を開催することができなくなってしまう。彼女はキャリア再構築のため、第二の故郷であるカナダ・モントリオールに向かう。

6/5(土)より、シアター・イメージフォーラムにて公開!
©Aquarian Works, LLC
配給/太秦

柳下毅一郎
デニスは香港の象徴なのだ。
アニタ・ムイのコンサート映像が死ぬほど懐かしく素晴らしく、あのころの香港映画への郷愁と決して取り戻せぬ過去への思いに駆られる。映画の主眼がそこにはないことはよくよくわかっているのだが、やっぱり苦悩しながら歌うデニス・ホーの歌が素晴らしいので、いろんな意味で袋小路に入り込んでしまったんだなあ。それは香港そのものがそうなのかもしれず、その意味ではこの映画も、デニス自身も、香港の象徴なのだろう。
★★★☆☆

ミルクマン斉藤
結局デニス・ファンのための映画かな。。
いちおう歌手としての経歴もアクティヴィストとしての活動も「知ってはいる」程度の僕にとってさえ、その範囲を超えることはない作品。LGBTQとしてのプライヴェートも、師匠アニタ・ムイとの関係も、彼女の影響を乗り越えるべく錯誤する現在も、さほど深く追及されてはおらずデニス自身のドキュメンタリとしての魅力は乏しい。ただ雨傘革命真っ只中での撮影はさすがに見入ってしまうが、彼女が単なる旗振り役にしか思えないのもなんだかなあ。
★★☆☆☆

地畑寧子
現在進行形の苦悩と痛み
返還前から香港を知る人間にとって、香港の雨傘運動はまず驚きだった。それほど大多数の人々がノンポリだったからだ。そんな人々が運動をせざるを得ない状況が顕かになるにつれ、心が痛んだ。返還時の杞憂かもしれないとされていた不安が現実になってしまったからだ。作品はデニス・ホーの歩みと香港の人々の目覚めと願いが、とても相応している。そして政治が芸能界を飲み込んでしまう現実もしっかり描き込まれている点も注視したい。
★★★★☆

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