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『グッバイ、リチャード!』『この世の果て、数多の終焉』映画星取り【8月号映画コラム②】

今回の映画星取りは『グッバイ、リチャード!』『この世の果て、数多の終焉』の2本。犬好きにはグッとくる映画に、この時期ならではのぐっと重い映画です。
(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記)

<今回の評者>

柳下毅一郎(やなした・きいちろう)●映画評論家・特殊翻訳家。主な著書に、ジョン・スラデック『ロデリック』(河出書房新社)など。Webマガジン『皆殺し映画通信』は随時更新中。
近況:マリオ・バーヴァBR箱を買いました。これにて給付金消費打ち止め。
ミルクマン斉藤(みるくまん・さいとう)●京都市出身・大阪在住の映画評論家。京都「三三屋」でほぼ月イチのトークショウ「ミルクマン斉藤のすごい映画めんどくさい映画」を開催中。6月からは大阪CLUB NOONからの月評ライヴ配信「CINEMA NOON」を開始(Twitch:https://twitch.tv/noon_cafe)。
近況:映画評論家。言いたい放題最新映画情報番組「CINEMA NOON」を配信中。次回は9月4日(金)午後8時からhttps://m.twitch.tv/noon_cafeで。YouTubeにもアップしてます。
地畑寧子(ちばた・やすこ)●東京都出身。ライター。TV Bros.、劇場用パンフレット、「パーフェクト・タイムービー・ガイド」「韓国ドラマで学ぶ韓国の歴史」「中国時代劇で学ぶ中国の歴史」「韓国テレビドラマコレクション」などに寄稿。
近況:Netflixで今村昌平作品も続々配信開始。昔衝撃を受けた『にっぽん昆虫記』『赤い殺意』見直してみようと思ってます。


『グッバイ、リチャード!』

グッバイ

監督・脚本/ウェイン・ロバーツ 出演/ジョニー・デップ ローズマリー・デウィット ダニー・ヒューストン ゾーイ・ドゥイッチ ロン・リビングストン オデッサ・ヤングほか
(2018年/アメリカ/91分)
●大学教授として妻や娘に恵まれ、何不自由のない暮らしを送っていたリチャードは、突然の余命宣告を受ける。さらに妻の不倫を知って怖いものなしになったリチャードは、自分の人生を謳歌するため、あけすけに物を言い、授業中に酒を飲むなど、ルールに縛られない生き方に喜びを感じるようになるが、死期は確実に迫っていた。

8/21(⾦)よりヒューマントラストシネマ渋⾕ほか全国公開
©2018 RSG Financing and Distribution, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
提供・配給/キノフィルムズ

柳下毅一郎
デップも死を思う年になったか
デップとは同い年なんだよね。もちろん、年齢以外は何ひとつ共通するところはない身ではあるが、デップがこういう映画を作ろうとする年になったことには感慨深い。デップの芝居どころを作るための映画という感はいなめないし、長台詞もいうほど印象的でもなく、学生にする最後の演説のセリフに反して死の醜さを描かないまま綺麗事で終わってしまうのは正直凡庸とも思えるが、それもこれもデップファンへの贈り物と思えば。
★★★☆☆

ミルクマン斉藤
ある意味あこがれの散り際映画。
『いまを生きる』的な破天荒教授ものだけど、そこはジョニデ、余命宣告受けて現世的名誉に未練がないって役柄だけあり『リバティーン』ばりのセックス・ドラッグ・アルコールな悪魔的放縦さを全開。とはいえ、彼が陥りがちな“やりすぎコメディ演技”になっていないのが良く、近年のベスト・アクトではないか。ただし途中で生徒たちの話がほっぽり出されるのはどうかと思うが。唯一の親友ダニー・ヒューストンの泣きまくりぶりがまた可愛い。
★★★★☆

地畑寧子
穏やかなジョニデ
余命宣告を受けて初めて自らの死生観を模索する大学教授の物語。彼がこれまで抑え込んでいた欲を、生徒たちを巻き込んで少しずつ解放していくさまが共感度大。ほろ苦い家族関係も無理に修復するのではなく、ありのままに受け入れる姿勢にも馴染める。しばらく忘れていたジョニー・デップの悲哀とユーモアが融合した演技力が楽しめるセンスのいい小品。また主人公に最期まで寄り添う愛犬ジブルスのいい味は、犬好きにはたまりません。
★★★★☆

『この世の果て、数多の終焉』

『この世の果て、数多の終焉』メインA

監督・脚本/ギョーム・ニクルー 脚本/ジェローム・ボージュール 出演/ギャスパー・ウリエル ギョーム・グイ ラン=ケー・トラン ジェラール・ドパルデューほか
(2018年/フランス/103分)
●第2次世界大戦末期の仏領インドシナを舞台に、フランス人兵士を通して戦場の生々しい現実を描く。1945年3月、現地でフランスと協力関係にあった日本軍がクーデターを起こし、フランス軍を攻撃。ただひとり難を逃れた青年兵士ロベールは兄を殺害したベトナム解放軍への復讐を誓い、ゲリラとの戦いのため、ジャングルの奥地へと突き進むが…。

8/15(土)シアター・イメージフォーラム他全国順次公開
配給/キノフィルムズ・木下グループ

柳下毅一郎
地獄は自分の中にある
第2次世界大戦ですらまだまだ知らないことばかり。仏領インドシナを占領した日本軍とフランス総督府の奇妙な協力関係や、フランス軍との戦争明号作戦など、この映画を見るまで知らなかった。主人公が復讐すべきはどう考えても日本軍であり、ベトミンを恨むのは筋違いであろう。戦争が地獄なのではなくて、主人公が自分で地獄を作りだしているだけだろう。ベトナム戦争は終わりなきそんな自作自演だが、そのはじまりがここ。
★★☆☆☆

ミルクマン斉藤
ベトナム人ヒロインは結構魅力的。
ベトナムのジャングルを舞台にした「闇の奥」的な構造の中に、数々の残虐死体描写と数々の性的描写(ちなみにチン○がやたら出てくる。おそらく意図的にだが)をあからさまに見せつけながら、第2次大戦末期~直後のインドシナの惨状を語るあまり類例のない映画。画に力があるし、ほとんどピアノとドラムスだけの音楽もユニーク。しかし、いくら観客に判断を委ねるといっても、ジェラール・ドパルデューのエピローグはどうなのかね。僕は「本来は目的外の相手に執拗に復讐する話」と見たが…?
★★★☆☆

地畑寧子
植民地支配の闇と退廃
宗主国フランスの目を通して見た第2次世界大戦末期のインドシナの混乱を描いた意欲作。残虐性やモラル欠如の比較級としてアジア映画ではよく引き合いに出される日本陸軍のエピソードの挿入やてらいのない描写、安易なロマンスを排除したあたりはさすが。とはいえ、トーンは陰鬱。私怨だけが生きる糧になっている主人公も痛々しいが、宗主国民でありながら彼もまた戦乱の犠牲者。このあたりも含め植民地支配の検証の姿勢も買いたい。
★★★☆☆

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