見出し画像

【6月号 特別企画】大会場はあなたの中に…妄想プロレス観戦記その6 米川宝(テレビ朝日プロデューサー・折り鶴兄弟)【コラムフェスティバル②】

世界中が未曾有の事態となったコロナ禍にあって、それまでに再びブームとなって活況を呈していたプロレスも大会開催の自粛、中止を余儀なくされた。「ステイホーム」が叫ばれ、プロレスファンは家で過去の動画を観てプロレス欲を発散するしかない日々が続いた。しかし、もう我慢できない。
プロレスが観たい。
今回の「コラムフェスティバル」は、執筆者の頭の中で繰り広げられたプロレスを、活字で展開するものである。
最後の第6回は、テレビ朝日のプロデューサー・米川宝。かつて全盛期の最中に引退した橋本真也を「折り鶴運動」で復帰させた、「折り鶴兄弟」の兄だ。今は鬼籍に入った橋本だが、彼の存在は今のプロレスにも大きな影響を与えている。そんな橋本に魅せられた彼だからこそのファンタジーが、今ここに現出する。

文/米川宝(テレビ朝日プロデューサー)

東京ドーム写真

▲2000年10月9日東京ドーム大会、橋本真也復帰戦後、リング上にて。(筆者は左)

<プロフィール>
米川宝(よねかわ・たから)●1987年東京都生まれ。2000年に弟の力(チカラ)と橋本真也復帰運動で全国から120万羽超の折り鶴を集め、小川直也に負けて引退した橋本真也の復帰のキッカケを作った。テレビ朝日でバラエティ番組プロデューサーとして『ファン1万人がガチで投票プロレス総選挙2017』を制作。現在は『10万円でできるかな』(毎週月曜後8時)、『家事ヤロウ!!!』(毎週水曜後11時15分、ともにテレビ朝日)などを担当する。今ももちろん大のプロレスファン。4歳の息子にいつからプロレスを見せて「プロレス教育」をスタートさせるか悩んでいる。

橋本真也が奇跡の復活
ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン加入か


僕は米川宝。いわゆる「折り鶴兄弟」として、2000年の「橋本真也復帰運動」(※編集部注)を企画して日本全国から120万羽超の折り鶴を集めた。結果、橋本真也は復帰したけど、その後体調の悪化もあり、2005年に亡くなってしまった。復帰してなければ…なんて思うこともあったけれども、今はあの活動に一点の後悔もない。

※編集部注 2000年4月7日放送『橋本真也34歳、小川直也に負けたら即引退!スペシャル』(テレビ朝日系)で小川に敗北した橋本は宣言通り引退。だが、橋本の復帰を嘆願して全国から120万羽以上の折り鶴を集め、橋本に贈った兄弟の想いに胸を打たれた橋本は、引退を撤回して復活を果たした。その嘆願運動はスポーツバラエティー番組『スポコン!』(テレビ朝日系)でも取り上げられた。この運動を起こした兄弟は「折り鶴兄弟」と呼ばれ、今も語り継がれている。


(さて、ここから妄想!)
今、僕はテレビ朝日の『ワールドプロレスリング』のプロデューサーである。5歳からプロレスにどっぷりと漬かった男で、今の仕事は趣味も高じた天職であるが、実は昨今のプロレスブーム、うれしい反面、何か“物足りなさ”を感じていた。

2020年1月5日、オカダ・カズチカとの天王山を制し、史上初の2冠王者となった内藤哲也。世の中には2日連続の東京ドーム興行って伝えてきたのだが…実は3日連続興行で行うのだ。1月6日の対戦カードは未発表で、5日のメインイベント終了後、会場にアナウンスされる。
「皆さんにお知らせです、4日と5日、いずれかのチケットをお持ちの方は、明日この場所で観戦していただけます! 今年のWRESTLE KINGDOMは2daysではなく3daysです!」会場は沸き立った。
プロデューサーとして僕が狙っているのは収益じゃない、記録だ。1998年4月4日のアントニオ猪木引退試合の動員数である7万人を超えること。3日目の東京ドームで狙うのは収益じゃない。誰も超えることができない「動員記録」である。

内藤が2冠をかけて誰かと戦う、これだけ発表する。それ以外は何も公式に伝えない。ファンは想像する、「これクリス・ジェリコのパターンじゃない?」とか「ケニー・オメガとかAJスタイルズの1夜限定復活じゃない? オカダのリベンジマッチだよ」とか。でも現実はもっとすごいのだ。今すぐ教えてあげたい。でもここは我慢。プロレスファンを驚かせる最高の試合カードが組めた。

対戦相手は、2005年7月に急逝した「破壊王」橋本真也。
冒頭にも記したが、昨今のプロレスブーム、「今のプロレス」にも満足なのだが、もう1つ調味料があればもっといいプロレスになるに違いない。そう思いを巡らせていた僕は、1つの結果を出した。
今のプロレスには「橋本真也感」が足りない。
異常に暑苦しそうで重そうな体、キックの威力、試合中に突然キレる、いい勝ち負けっぷり、人柄(天然?)が出まくるマイク。今のプロレスにそれらはほんの少し欠けているような気がしていた。
今回、奇跡のブッキングに成功したのはほかでもなく、「ファンのチカラ」。僕だけではなくて、とてつもなく多くのプロレスファンが橋本真也感、いや橋本真也を求めていた。ファンタジー過ぎるけど「想い」は届く。20年も前の話になるがテレビのチカラもあって2000年、全国から折り鶴が集まって橋本は復帰した。これとはちょっとだけワケが違うけれど…ファンタジー過ぎるけど、橋本真也は1夜だけ復活するのだ。生の橋本真也を知らないプロレスファンに見てもらいたい。見てもらったらもっとプロレスが好きになる。そんな古参プロレスファンの熱すぎる想いだ。その想いが今、リング上で実現するのだ。

今日のメインイベントの“もったいぶり方”はすごい。普通、チャンピオンは後に入ってくるのに、今日はチャンピオンの内藤が先に入場。2冠王者が「STARDUST」にのってゆっくり入ってくる。「NUMBER」のプロレス総選挙(※脱線しますが…僕はNUMBERのプロレス総選挙には若干の意見があって、「これがホントのプロレス総選挙2017」、失礼千万なタイトルの付け方だなと今でも思ってます。僕は“NUMBERのプロレス総選挙”(2017年7月発売)も僕の企画の“テレビ朝日のプロレス総選挙”(2017年3月放送)も、生のプロレスファンが選んだどっちも「ホント」だと思っています。やっと言えた3年越しの想い。怒られっかな…(笑))で1位を2回とった人気はさすがだ。会場の雰囲気は最高潮で爆発的な人気を五感で感じる。
でも僕は自信があった。もっと盛り上げられる! 全員を驚かすことができる。そう確信があった。東京ドームに鳴り響く「爆勝宣言」。僕に近い席からファンの声が方々から聞こえてくる「え?? ウソだ〜橋本大地?? どんなマッチメイク…しかも爆勝宣言で入ってくるのかよ…大地じゃまだこのメイン厳し…え!? あれ? ウソ!!!? …シルエットめっちゃデカい!」
そう、対戦相手は不死鳥の如く復活した「破壊王」橋本真也。驚きのあまり会場はしばらくの間静まり返った。でも全てを飲み込んだファンは腹の底から叫んだ!「ハッシモトー! ハッシモトー!」。あの左胸に「破壊王」の文字、背中に不死鳥の描かれたガウン、堂々と歩いてくる。涙する古くからのファン。橋本の名前を聞いてはいたけど初めて目にする新時代のプ女子たち。でも会場一体が入場してくる橋本に集中していた。対する内藤は表情1つ変えない。さすがは内藤である。

田中秀和「IWGPヘビー級チャンピオン、IWGPインターコンチネンタルチャンピオン、180センチ、102キロ、ナイトー、テツーヤー!」
「183センチ、135キロ、破壊王、ハシモトー、シン、ヤー」

試合の運びは読んでくださる皆さんで想像してほしい。ただただめちゃくちゃスゴイ試合だった。この伝説の1戦をプロレスラー自身も楽しんでいる。エプロンサイドには大日本プロレスのチャンピオンであり長男の橋本大地がいる。“プロレスラー”橋本大地になってから、初めて生で見る父・橋本真也の試合。本当はいろんなことを橋本真也から学びたかっただろう。涙なんか見せない真剣な眼差しで、目に焼き付けている様子。ともにゼロワンを作ってきた大谷晋二郎。ここまでゼロワンを守ってきた熱き男、想像通りやっぱり泣いている。きっと来年3月の両国国技館興行(ZERO1旗揚げ20周年記念大会『プロレス』)に来てほしいと願っているに違いない。ライバル関係の長かった小川直也も、今や丸くなった長州力も、武藤も蝶野も、川田に小橋だっている…メンバーがスゴすぎる。

試合終盤、橋本は垂直落下式DDTを繰り出すも、内藤はカウント2.9で返した。最後は息を吹き返した内藤がデスティーノからのスターダストプレス。盤石の形でIWGP2冠防衛。試合時間は25分30秒。長いような短いような…あのときの折り鶴運動がもう1度実現してくれた、まさに夢の対決。少なくともこの15年で1番の試合だった。

試合を見ていた選手がリングに入り混じる。あのZERO-ONE旗揚げ興行の混沌を再現するかのようだったが、あの時とどうも今日は違う。全選手が橋本真也を囲って奇跡の1戦をねぎらった。倒れた橋本に近づく内藤。おもむろにロスインゴTシャツを渡した。観客は橋本がどうするのか固唾を飲んで見ていたが、橋本はただ受け取っただけで正式な答えは出さず、Tシャツを持って花道から帰って行った。観客は橋本のマイクも期待したけれど、勝者に華を持たせ敗者は語らない、プロレスの素晴らしき美学を体現して花道を去っていった。まさに伝説の1戦。会場から沸き上がった橋本コールは鳴り止むことはなかった。橋本がロスインゴのTシャツを持って帰ったが、これは「これからもずっとプロレスを見守っていく」そんなメッセージだと誰もが悟った。

20年前の橋本真也は「折り鶴」でよみがえった。今夜の橋本真也も、そんなファンの想いでよみがえった。夢、希望、憎しみ、友情、愛…さまざまな人間模様が映し出されるリング上にファンが自分自身を投影し、その夢や希望を叶えるのがプロレスであるならば、橋本真也はプロレスそのもののような存在なのだと思う。たしかに現実の世界に橋本真也はもういない。だけれど、ファンが橋本を想い、プロレスに夢や希望を抱き続ける限り、橋本はずっとプロレスの世界で「破壊王」として存在してくれる。内藤と戦っているのを目撃した東京ドームのファンも、なぜ橋本がそこにいるかと考えるよりも、プロレスへの想いが実現したことを喜び、興奮し、改めてプロレスが好きになっていったと思う。もちろん僕もその1人だ。
これからもプロレスに夢を見たい。プロレスに希望を叶えてほしい。プロレスと共に生きたい。
そんな暑苦しい想いと感動が、東京ドームを包んでいた。


もう誰も気になっていないかもしれないが、僕には大事な「記録」がかかっている。観客動員数は……!? 6万5千人…ん~いい数字なんだけど、猪木引退試合は超えられなかった…。やっぱり事前に対戦カードを出しときゃよかったかなぁ…きっと会社のエライ人たちに夢のカードなら先に告知するのが普通だろ! って言われるんだろうな…明日会社行きたくねぇな…(笑)。


2020年1月6日 WRESTLE KINGDOM in 東京ドーム
IWGPヘビー級王座・IWGPインターコンチネンタル王座 2冠選手権
〇内藤哲也 [ 25分30秒 スターダストプレス ] 橋本真也×
※王者・内藤が2冠を防衛

【 新規登録で初月無料!(※キャリア決済を除く)】
豪華連載陣によるコラムや様々な特集、テレビ、音楽、映画のレビュー情報などが月額500円でお楽しみいただけるTVBros.note版購読はこちら!


「妄想プロレス観戦記」の全記事は下記より!



6月分の全記事は、コチラの目次から見ることができます!


TV Bros.note版では毎月40以上のコラム、レビューを更新中!入会初月は無料です。(※キャリア決済は除く)