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『新感染半島 ファイナル・ステージ』『FUNAN フナン』映画星取り【12月号映画コラム②】

みなさんの2020年の締めくくり&2021年の年初め映画は? 参考までに、ズシッと来る2作のご紹介です。
(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)

<今回の評者>

渡辺麻紀(映画ライター)
わたなべ・まき●大分県出身。映画ライター。雑誌やWEB、アプリ等でインタビューやレビューを掲載。押井守監督による『誰も語らなかったジブリを語ろう』『シネマの神は細部に宿る』『人生のツボ』等のインタビュー&執筆を担当した。
近況:さすがに今年の冬は帰省を止め、東京で年を越すことに。溜まった本を読破するつもりです。
折田千鶴子(映画ライター)
おりた・ちづこ●栃木県生まれ。映画ライター、映画評論家。「TV Bros.」のほか、雑誌、ウェブ、映画パンフレットなどで映画レビュー、インタビュー記事、コラムを執筆。TV Bros.とは全くテイストの違う女性誌LEEのWeb版で「折田千鶴子のカルチャーナビ・アネックス」(https://lee.hpplus.jp/feature/193)を不定期連載中。
近況:林遣都くんの評価再々爆上げ中。『私をくいとめて』もドラマ「姉ちゃんの恋人」もやっぱり素晴らしかった~!
森直人(映画ライター)
もり・なおと●和歌山県生まれ。映画ライター、映画評論家。各種雑誌などで映画コラム、インタビュー記事を執筆。YouTubeチャンネルで配信中の、映画ファンと映画製作者による、映画ファンと映画製作者のための映画トーク番組『活弁シネマ倶楽部』ではMCを担当。
近況:先の見えない世の中ですが、なるだけ健やかに正気を保っていきたいものです。良いお年を!


『新感染半島 ファイナル・ステージ』

サブ1

監督/ヨン・サンホ 出演/カン・ドンウォン イ・ジョンヒョン クォン・ヘヒョ キム・ミンジェ ク・ギョファン キム・ドゥユン イ・レ イ・イェオンほか
(2020年/韓国/116分)

●『新感染 ファイナル・エクスプレス』の4年後を描く続編。人間を凶暴化するウイルスが蔓延した半島から香港に逃げ延びていた軍人・ジョンソクは、大金を持ち出す任務のために半島に戻る。任務は成功するかに思われたが、民兵集団に大金を運ぶトラックが奪われてしまう。

2021年1月1日(金)TOHOシネマズ日比谷 他 全国ロードショー
©2020 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILMS.All Rights Reserved.
配給/ギャガ

渡辺麻紀
家族ゾンビもの
『マッドマックス』の世界観に『ニューヨーク1997』的な設定をまぶしてみた韓国ゾンビ映画。着眼点はいいし、いくらでも面白くなりそうなんだが、家族の絆問題で泣かせよう、感動させようとする愁嘆場が多すぎ。そのおかげでスピードが緩まり、ハラハラ感も醒め、ドキドキ感も収まって、募ってくるのはイライラ感。一番、重要なハイライトでそれをやっちゃうもんだから、本当にもったいない。
★★☆☆☆

折田千鶴子
ゾンビ映画、ではない!?
ゾンビが出ては来るけど、前作とは全然違う映画になっていてビックリ。とはいえ別に悪くはなく、これはコレでアリかな。前作ほど手に汗かき心がブルッて涙腺刺激…までは行かないが、ほどよく軽~く観られるいい塩梅。少女の運転技術がスゴいカーアクションも肝ヒエヒエ。その少女の家族と主人公の因縁など少々デキ過ぎな設定だけど、それによって因果応報や懺悔といった陰影が加わったのもグッド。それにしてもカン・ドンウォン、怖いくらいに全く老け知らず、カッコ良過ぎ!
★★★☆☆

森直人
出世したら普通になった件
あ、あれっ……!? 『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016年)が非常に冴えていただけに、今回はえらく凡庸に見えてしまった……。走行中の高速列車の車内という凝縮力のある設定に、マ・ドンソクの快演などのパワーポイントを装備した前作に比べ、今回は『マッドマックス』や『AKIRA』系のありがちなポスト・アポカリプスものになってしまい、全編既視感だらけ。予算も規模もスケールアップしたら、むしろ散漫になってしまった例としては『ダイ・ハード』(1988年)から『ダイ・ハード2』(1990年)への展開が挙げられるが、それよりもっと肩すかしだなあ……というのが正直なところ。
★★☆☆☆


『FUNAN フナン』

FUNAN●メイン

監督/ドゥニ・ドー アートディレクター/ミシェル・クルーザ 声の出演/べレニス・ベジョ ルイ・ガレルほか
(2018年/フランス、ベルギー、ルクセンブルク、カンボジア/87分)

●1975年4月のカンボジア。武装組織クメール・ルージュの首都制圧により、多くの住民が農村へ強制的に移住、労働をさせられることに。移動の最中に息子と離れ離れになった母親のチョウは、組織の監視のもとに過酷な労働の日々を送る中、チョウとの再会を信じて懸命に生きていく。

12/25(金)YEBISU GARDEN CINEMA、シネ・リーブル池袋他にてロードショー
Les Films d'Ici - Bac Cinéma - Lunanime - ithinkasia - WebSpider Productions - Epuar - Gaoshan - Amopix - Cinefeel 4 - Special Touch Studios © 2018
配給/ファインフィルムズ

渡辺麻紀
社会派アニメ
クメール・ルージュの恐怖を、その一番の被害者だった普通の人々の視点で、しかもアニメーションで描いたところがポイント……というか、社会派アニメだから新しいわけで、もし実写ならよくある社会派ドラマになっていたと思う。作画が美しく、もっとも印象的なのは自然描写の数々。主人公の悲惨な現実では色を抑え、自然のみが光を放ち、世界の色を豊かにするというメリハリがいい。社会派アニメとして、当時をリアルに再現しようとしている割には言語がフランス語という部分にちょっと違和感が。キャラもみんな同じようなデザインなので判別が難しい。
★★★☆☆

折田千鶴子
恐ろし過ぎる追体験映画
アンジーの「最初に父が殺された」の記憶が強烈、且つ史実だから当然だけど同じ風景や似た描写や構図が多く、最初は既視感に負けそうになりつつ…。手描き感たっぷりな絵の温もり、東洋的な自然に魂が宿ったような美しい映像に魅せられ、次第に引き込まれてどっぷり。いかに家族で生き延びるか――。主人公夫婦と同じ運命をたどった家族がどれほど居たかと考えるだけで、脳味噌がはち切れそうに! どの登場人物の心情にも、心寄せずにいられないない描き方も素晴らしい。辛いけど必見!
★★★★☆

森直人
画に染み入る哀感と詩情
ポル・ポト政権下のカンボジアの恐怖政治(1975~79年)を生き抜いた家族の物語。監督は1985年のパリ生まれなので直接体験しているわけではないが、クメール・ルージュ統治下での自身の母親の記憶がモデルになっているという。オンカー(革命組織)による弾圧や虐殺の残酷と対比するように、穏やかな自然に包まれた日常描写が基調とされ、日本で言うなら高畑勲の系譜。あえて苛烈さを抑えた内容になっていると思うが、手作りの土人形を使った哀しい絵本のような強烈作『消えた画 クメール・ルージュの真実』(2013年/監督:リティ・パニュ)と併せて観ることをお薦めしたい。
★★★半☆

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