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『スパイの妻<劇場版>』『ザ・グラッジ 死霊の棲む屋敷』映画星取り【10月号映画コラム②】

今回は、ベネチア国際映画祭コンペティション部門で銀獅子賞を受賞した話題作と、シリーズ化したホラーの2本立てです。
(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)

<今回の評者>

柳下毅一郎(やなした・きいちろう)●映画評論家・特殊翻訳家。主な著書に、ジョン・スラデック『ロデリック』(河出書房新社)など。Webマガジン『皆殺し映画通信』は随時更新中。
近況:人間ドック行ってきました。
ミルクマン斉藤(みるくまん・さいとう)●京都市出身・大阪在住の映画評論家。京都「三三屋」でほぼ月イチのトークショウ「ミルクマン斉藤のすごい映画めんどくさい映画」を開催中。6月からは大阪CLUB NOONからの月評ライヴ配信「CINEMA NOON」を開始(Twitch:https://twitch.tv/noon_cafe)。
近況:映画評論家。言いたい放題最新映画情報番組「CINEMA NOON」を配信中。次回は10月5日(木)20時からhttps://m.twitch.tv/noon_cafeで。YouTubeチャンネルも検索を。「京都ヒストリカ国際映画祭」特番も配信します!
地畑寧子(ちばた・やすこ)●東京都出身。ライター。TV Bros.、劇場用パンフレット、「パーフェクト・タイムービー・ガイド」「韓国ドラマで学ぶ韓国の歴史」「中国時代劇で学ぶ中国の歴史」「韓国テレビドラマコレクション」などに寄稿。
近況:司法の闇を描いた極上サスペンス『秘密の森』シーズン2がNetflixでスタート。かっこよさ倍増のペ・ドゥナがとてもいいです。

『スパイの妻<劇場版>』

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監督・脚本/黒沢清 脚本/濱口竜介 野原位 出演蒼井優 高橋一生 坂東龍汰 恒松祐里 みのすけ 玄理 東出昌大 笹野高史ほか
(2020年/日本/115分)
●1940年、満州。重大な国家機密を知ってしまった優作は、正義のために世に知らせようとする。反逆者と疑われる夫を妻・聡子は信じ、支えるが、太平洋戦争開戦間近の日本にあって、夫婦をさらなる荒波が襲う。2020年6月にNHK BS8Kで放送された同名ドラマを、スクリーンサイズや色調を新たにした劇場版として公開。第77回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞。

10月16日(金)より全国公開
©2020 NHK, NEP, Incline, C&I
配給:ビターズ・エンド

柳下毅一郎
どこを切っても黒沢節
黒沢清初の時代劇ということで、戦前の神戸を舞台にした大時代な間諜大活劇。ジョゼフ・フォン・スタンバーグですか! と言いたくなるような大時代ぶりなのだがもちろんこれでいいのであって、とっても嘘くさいファッションを身にまとい、大げさすぎる演技で、本当とは思えぬセリフを朗々と述べる蒼井優が真骨頂を見せる。もちろん黒沢清にリアリズムなんてひとっかけらも必要ないのだった。お見事です!
★★★★★

ミルクマン斉藤
8Kは明らかに黒沢的陰影に不向きと判るが。
太平洋戦争開戦前に満州で試された酸鼻な実験と、当時の資産階級知識人に芽生えた正義感から湧き起こる政治的サスペンス。しかし軸となるのは「妻」。夫へのいささか狂的なまでの愛と、そんな彼女に固執する憲兵との三角関係はずぶずぶのメロドラマであって、それが(ヴェネチア映画祭審査員C.ペッツォルトも言っていたように)多分にオペラ的なリズムでもって語られるのが面白い(蒼井優の“狂乱の場”もあり)。パテ9.5mmで撮られた2本のフィルムがトリッキーに使われるのも黒沢清らしい。
★★★★☆

地畑寧子
余韻が冷めない
情報操作で人々が国情を見誤っていた時代に、正常であり続けた夫婦の物語。その二人の間にも疑心と信頼が混在し、戦時の不穏がひしひしと伝わってくるさすがの構成。最後のテロップから遡ると二人の絆がより強く響く。個人的には、優作が満州で見たと語る関東軍の研究機関の所業に焦点があてられていることが新味。『河内山宗俊』『大空の遺書』溝口作品と時代を反映した映画のエピソードも嬉しい。
★★★半☆


『ザ・グラッジ 死霊の棲む屋敷』

ザグラッジ

監督・脚本/ニコラス・ペッシェ 製作/サム・ライミ 一瀬隆重ほか 出演/アンドレア・ライズボロー デミアン・ビチル ジョン・チョー ベティ・ギルピン リン・シェイほか
(2020年/アメリカ/94分)
●森林地帯で置き去りにされた車の中で変死体が発見され、マルドゥーン刑事とグッドマン刑事は現場に駆け付ける。調査の結果、死体の住所が明らかになり、それがグッドマン刑事が過去に担当した「ランダース事件」の現場だったことが判明。その事件との関連を疑うマルドゥーン刑事は舞台となった屋敷に単身で踏み込むが…。『呪怨』シリーズをアメリカで新たに映画化。

10/30(金)公開
©2020 Grudge Reboot, LLC. All Rights Reserved.
配給/イオンエンターテイメント

柳下毅一郎
アメリカ人は呪いが苦手なのでは
『呪怨』の家で家政婦をしていた女が呪いをアメリカに持ち込んだ! というわけでアメリカに新たな呪いの家ができてしまう正統派アメリカ版『呪怨』リメイク。でもこれ見ると『呪怨』の恐怖は清水崇の特別な才能による属人的なものであり、アメリカでは根本的な解決法を探してしまうんで呪いは続かないんだってわかってしまうんだよな。ネトフリの『呪怨:呪いの家』の禍々しさにはとうてい及ばず。
★★☆☆☆

ミルクマン斉藤
幽霊インフレーション。
ええっと、これは『呪怨』アメリカ版のリブートと考えていいのかな。「そこに住んだ者は」という点は継承されているが、このシリーズのヴィジュアル的要点ともいうべき“建物そのもの”への関心が薄い。いちおう東京から始まり、伽椰子や俊雄らしき存在と、例のカリカリSEは結構大事に使われているものの、これを最初に観たヒトはなんのこっちゃ判らんのではないのかね。時制を往還する語り口もうまく整理されているとは言い難いし、やたらと異人種間結婚なのもコンプラ丸出し。
★★☆☆☆

地畑寧子
事故物件の呪い
“呪怨”特有の異音も控えめなので、“呪怨”初見者にはそこそこ怖く楽しめると思われる事故物件ホラー。ジャッキー・ウィーバー(『アニマル・キングダム』)、ウィリアム・サドラーと怪し系演技派は出演してるものの、大雑把な解決法は、もはやコメディの域。呪怨が東京から持ち込まれたものだとか、刑事が子供に見せる二択DVDのタイトルだとかの小ネタにも苦笑。それにしても原題(『THE GRUDGE』)、同じサム・ライミの会社の製作で清水崇監督版もあって紛らわしいです。
★★☆☆☆

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