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『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』『RUN/ラン』映画星取り【2021年6月号映画コラム①】

精神的に疲弊していると、苦境に立たされる映画を観たときのダメージも大きくなりますが、だからこそ鮮明に記憶に残っていくわけで…。ということで、ズシッとくる2作です。
(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)

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<今回の評者>

渡辺麻紀(映画ライター)
わたなべ・まき●大分県出身。映画ライター。雑誌やWEB、アプリ等でインタビューやレビューを掲載。押井守監督による『誰も語らなかったジブリを語ろう』『シネマの神は細部に宿る』『人生のツボ』等のインタビュー&執筆を担当した。
近況:突然、暑くなって、まったく季節について行っていません。やっぱり外に出てないせいなんだろうか……。
折田千鶴子(映画ライター)
おりた・ちづこ●栃木県生まれ。映画ライター、映画評論家。「TV Bros.」のほか、雑誌、ウェブ、映画パンフレットなどで映画レビュー、インタビュー記事、コラムを執筆。TV Bros.とは全くテイストの違う女性誌LEEのWeb版で「折田千鶴子のカルチャーナビ・アネックス」(https://lee.hpplus.jp/feature/193)を不定期連載中。
近況:最大の関心事は、どう痩せるかということよりも、どう着痩せできるかにシフトしてきております。
森直人(映画ライター)
もり・なおと●和歌山県生まれ。映画ライター、映画評論家。各種雑誌などで映画コラム、インタビュー記事を執筆。YouTubeチャンネルで配信中の、映画ファンと映画製作者による、映画ファンと映画製作者のための映画トーク番組『活弁シネマ倶楽部』ではMCを担当。
近況:この6月公開作は劇場パンフレットに7作品レビューを寄稿とやたらスパークしております。

『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』

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監督・製作/ジャスティン・カーゼル 脚本/ショーン・グラント 原作/ピーター・ケアリー 製作/リズ・ワッツ ハル・ヴォーゲル 出演/ジョージ・マッケイ ニコラス・ホルト ラッセル・クロウ チャーリー・ハナム エシー・デイヴィス ショーン・キーナン アール・ケイヴ トーマシン・マッケンジーほか
(2019年/オーストラリア・イギリス・フランス/125分)

●19世紀、アイルランドからの移民としてオーストラリアで貧しい家庭に育ったネッド・ケリーは、父の代わりに家族を支えてきた。父の死後、母によってネッドは山賊に売り飛ばされ、犯罪に連座して逮捕され、出所後も警察は難癖をつけてネッドの家族を投獄してしまう。家族や仲間への理不尽に、ネッドは仲間と共にギャングとして立ち上がる。

6/18(金)より渋谷ホワイトシネクイント、新宿シネマカリテほか全国順次公開
© PUNK SPIRIT HOLDINGS PTY LTD, CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, ASIA FILM INVESTMENT GROUP LTD AND SCREEN AUSTRALIA 2019
配給/アット エンタテインメント

渡辺麻紀
かあちゃんには気をつけろ。 
オーストラリアの伝説的義賊、ネッド・ケリーの25歳の短い生涯を追った作品。母親を始め周囲の大人たちによって、彼がいかにして人生を狂わせていったかに焦点を当てているため駆け足感が軽減。ケリーの人生と重なり合うような、美しいが異様な風景が強烈な印象を残し、とても映画的な作品になっている。キャスティングも、意外なところに大きな役者をもってきて、その妙でも楽しめる。ケリーを演じたジョージ・マッケイが大熱演! 
★★★★☆

折田千鶴子
ヤベエ母親から逃げない男
少年期に強烈なトラウマを浴び続けたことが、後の彼に繋がっていく展開には“なるほど”と納得。義賊どころか、もはや狂人集団のような描かれ方も、枯れ木が刃のように突き出した地の果て的風景も強烈! 多分にこっちが真実に近いのだろうし、その方向性を貫く姿勢は、意欲的。でも、毒母と息子の愛憎が軸なだけに拒絶反応を示す自分のせいでもあるが、ノリ切れない。複数登場する濃いキャラたちが捌ききれなかったきらいも。途中から登場する親友との関係性も、齧り足りなさが残る。
★★★☆☆

森直人
パワフルな「神話解体」
冒頭に「Nothing you’re about to see is true」(すべて真実ではない)と反語的なテロップが出るように、これは有名な反逆のヒーロー伝説を大胆に読み替え、再解釈する意欲作だ(ブッカー賞受賞の小説が原作)。アイルランド系移民の極貧家庭に生まれた少年ネッド・ケリーが、あらゆる受難を半ば成り行きでサヴァイヴしていく過程で「既成の歴史認識」が反転されていく。19世紀オーストラリアの物語ながら、ロンドンパンク(&NYパンク)っぽいアートワークが施されるのもユニーク(監督はケリー・ギャングをパンクバンドに見立てたらしい)。『アオラレ』に続く(というか本作のほうが先の製作だが)でっぷり増量したラッセル・クロウの怪演も見もの!
★★★半☆

『RUN/ラン』

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監督・脚本/アニーシュ・チャガンティ 製作・脚本/セヴ・オハニアン 出演/サラ・ポールソン キーラ・アレンほか
(2020年/アメリカ/90分)

●郊外に母と暮らすクロエは、慢性的な病を抱えながらも、地元の大学への進学を望み、寮生活で自立しようとしていた。ある日クロエは、自身の体調管理を行い、進学も後押ししてくれる母ダイアンに不信を抱き、母が差し出す薬を調査。その薬は人間が服用してはならないものだった。娘へのゆがんだ母の愛情を描くサイコスリラー。

6/18(金)よりTOHOシネマズ 日本橋他全国ロードショー
© 2020 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
配給/キノフィルムズ

渡辺麻紀
やっぱりかあちゃんには気をつけろ。
予備知識と言えば、監督が『search/サーチ』のアニーシュ・チャガンティというくらいで観始めたせいか、サプライズが次々と襲ってきて「なるほど! そうだったのか」状態。ネタ的にはこの手の王道でもあり新しさはないんだが、役者の魅力とツボを押えた演出、そして90分というジャンル映画らしいランニングタイムのおかげで面白い。ジャンル映画のお手本的作品なのかも。母さん役のポールソン、ハマりまくり。
★★★☆☆

折田千鶴子
ヤベエ母から逃げられるか⁉
ひゃー、怖い怖いっ。観る前に期待を高められた状態で観てもなお、十分に楽しめました! 冒頭“あれ?”と気づかせる大胆なネタばらしをしつつ、予想のちょい斜め上いく展開を用意して、ハラハラを途切れさせない。疑惑と真実を小出しにしていく具合が上手く、一難去ってまた一難。さらに絶望的な窮地にヒロインを追い詰めていく展開に、SM混在の悦びと悲鳴でゾクゾク。一見“完璧な母”なのに、冒頭からほんの少し違和感を覚えさせる一瞬の表情等々も、逆に効く。娘役・母役ともに、いいお味! 終盤の怒涛の展開、オチでまた快哉!
★★★半☆

森直人
秀才肌の「B級精神」
斬新なのか、アイデア一発勝負なのか――全編PC画面だけで展開する『search/サーチ』でデビューしたアニーシュ・チャガンティ監督が、「やればできますよ」とばかりに堅実な腕前を発揮する第2作。ワイドショー的着想を起点に、かなり正統的なヒッチコック・フォロワー演出が駆使される脱出スリラー。インターネットや携帯電話など現代的ガジェットは封じる方向。母娘役のW主演の良さもあり、90分ぽっきりの尺(前作は102分)も含めて「配信時代に最適化したネオ・プログラムピクチャー」といった趣もある。破格の傑作『ルーム』(2015年)のような満足感には欠けるが、むしろ「もうひと声」の欲を出さなかった潔さを讃えるべきかもしれない。
★★★半☆


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